(6)告白
私: なんですか? ここ。お客さんも生き物もいませんね。
最後に私が連れてこられた部屋は、イルカショーの舞台になりそうな、でも誰も、なんの生き物もいない広い水槽室でした。
みかん先輩: 今から潜ってお喋りします!
私: 潜ってお喋り...!?
りこ先輩: なつみ、真面目にやりなさい。
みかん先輩: でも間違ってないやろ?
塩見先輩: とりあえず、潜ってから順を追って説明しましょう。多匂さん、今からこれに着替えて一緒に潜ってもらう。水中通信機を使って中で会話できるから、説明は後で。あと、多匂さん、暗いところは平気?
私: はい、大丈夫ですけど...
何がなんだか分からないまま、先輩たちと一緒に水槽に入りました。
みかん先輩: じゃあ、部屋暗くするよ?
みかん先輩がリモコンのスイッチを押すと、部屋は真っ暗になりました。
りこ先輩: やっぱりこれだけ水槽が大きいと、少しは分かるものね。
私: 何がですか?
りこ先輩: 塩見、教育係ね。
塩見先輩: はいはい。えーっと、じゃあ、分かりやすいように、頭まで潜ってから話そうか。
先輩たちが水中に頭を浸けるので、私も後に続きました。
塩見先輩: ちゃんと聴こえるでしょ?
私: 塩見先輩? はい、ちゃんと聴こえてます。
その瞬間、暗い水の中に何かが光って見えるのが分かりました。
私: 何ですか? この光る糸みたいなの。
りこ先輩: やっぱり、私たちの会話に反応してるわ...
みかん先輩: こんなに強く光るんやねぇ...
塩見先輩: まぁ、そのために潜ってもらいましたから。これがサイレン線です。
私: さい... なんですか? それ。
塩見先輩: 私たちが話している言語は、最終規格という機関が管理してるのは知ってるよね?
私: あ、暦とかですか?
塩見先輩: それだけじゃない。最終規格は、世界中の言語の各連続体を一般言語図書館(GLL, the General Language Library)というシステムで管理してる。図書館という名前が付いてるけど、そういう建物があるわけじゃないのね。実体のない電子的なシステム。それで、その一般言語図書館を使った新たなシステムを、欧州の新興企業のリングヴァリウム(Lingvarium)が作ろうとしてる。それが特殊言語図書館(SLL, the Special Language Library)。一般言語図書館とはまるで違う方法で言語を管理する方式なの。最終規格が発見して、リングヴァリウムが実用化したサイレン線(siren ray)という放射線のようなものを使って言語の活動を観測する。サイレン線は、大きな水槽があると喋る人の近くで強く光る反応が肉眼でも確認できる。これは私たちの言語活動を写し出す鏡のようなもので、このクモの糸みたいなのが動いたり切れたり繋がったりする運動が、一つの言語体系をなしてるらしい。でも、それを読解できるのはリングヴァリウムだけ。これが金属言語といわれてる。
私: 金属言語... 聞いたことあります!
塩見先輩: 金属言語は、内心言語(mental language)という語を誤訳したのが広まったという説が有力で、世界中の言語活動を正確に映し出す様が、人々の内心をも示唆すると言われる。私も仕組みはよく分からないけど、特殊言語図書館があれば将来的に死者蘇生もできるとか。
私: でもそれって、色々危うそうですよね...
塩見先輩: そう、危ういの。プライバシーの問題とか、人命、倫理に関わる問題が山積みで、特殊言語図書館が実用化されれば世界は大混乱に陥ってしまうかもといわれてる。そこで、射風大学の人たちが特殊言語図書館の完成・実用化を阻止しようと必死になってるわけね。
私: そうなんですか?
塩見先輩: この水槽、というか、この水族館は大学の海洋学部附属のものね。多匂さん、きみは色々と期待されてるんだよ。
私: え、私ですか...?
りこ先輩: あなた、実技満点だったらしいじゃない。
私: あはは...
みかん先輩: すごいよねぇ!
塩見先輩: 多匂さんの年、倍率300倍でしたっけ。
りこ先輩: はあ...?
みかん先輩: すご...
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