(1)人工島にある大学

 LTD1484年6月2日、今日は射風大学(Irukaze University)の夏入学式と入寮の準備があります。午前10時頃、ゴンドラから降りて北岸の港から入島すると、1人の女性がこちらに来ました。

"君、学科は?

"あ、えっと、射風大学です。

"語学科の子?

"あ、はい!

 このとき私は所属学校を訊かれていると勘違いしてしまいましたが、よく考えたら射風大学の先輩が出迎えてくれているのだと分かりました。

"語学科新入生の多勾シュシュです。今日はよろしくお願いします。

"私は2年の塩見吹海(しおみ ふみ)。よろしくね。

"すおみ先輩、よろしくお願いします!

"あ、しおみね。塩見吹海。

"あっ、失礼しましたっ。塩見先輩、よろしくお願いします...!

"うん。車借りてるから一緒に乗って。私が寮まで案内する。"

 出会って早々名前を間違えるという失礼をしてしまいました...

塩見先輩は私より少し背が高くて、黒の丸縁眼鏡をかけて、銀色ショートの髪を右前だけ下ろしてアシンメトリーにした、低めの優しそうな声をした人でした。彼女に島の東部にある大学寮まで運転してもらいました。塩見先輩の説明を聞きながら部屋までの道を歩きました。

"語学科は私たち含めて4人だけだから、みんなで1部屋になる。

"そうなんですね。"

 射風工科大学(いるかぜこうかだいがく)が射風大学に変わって文系を新設してまだ3年目です。1期生で3年の先輩と2期生で2年の塩見先輩は去年から一緒ということになります。

"部屋に3年の先輩たちがいると思うけど、おでこを出してる方が酸田夏蜜柑(すいた なつみかん)先輩で、長い髪を結んでる方が苦屋璃胡(にがや りこ)先輩、っていう説明で大丈夫かな。目つきの悪い方がりこ先輩ね。みかん先輩は目が大きい。

"了解です…"

 部屋をノックすると、どうぞ、と声がしました。緊張しながらドアを開けました。

"りこちゃん、ほら、来たよ、新入生の子。私、酸田夏蜜柑(すいた なつみかん)って言います〜。みかんでええよ。こっちが…

"苦屋璃胡(にがや りこ)。よろしく。"

 みかん先輩は塩見先輩より少し背が高くて、オレンジがかった明るい色の髪を分けて左だけ横髪を作って後ろで小さな房ができるように結んだ、明るい声の人でした。

りこ先輩は塩見先輩と同じくらいの身長で、青みがかった暗い色の髪を高めの右サイドテールにした、低めの声をした人でした。

"多勾シュシュです。よろしくお願いします…!

"先輩ばっかで緊張しとる? リラックスしてね。"

 みかん先輩は手提げ鞄を持ってこちらにやって来ました。

"じゃあ多匂さん、入学式までまだ時間あるけど、体の寸法測らなあかんから、一緒にシャワー室まで来て。

"は… はい!"

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