一二三口 

【一二三口】うたかねぐち


 ふたりで買い揃えた家具を彼女はひとつもほしがらなかったけれど、僕がもらってきたロッキングチェアだけは譲らなかった。石祠前の引受け所から持ち帰ってきた日なんて、インテリアの方向性が違いすぎると目も合わせてくれなかったのに。「ひとり暮らしの部屋じゃ場所ふさぎになるよ」でも愛着あるから、たぶんあなたより。彼女はチェアの肘置きを撫でながら目を伏せた。僕はそれ以上なにも訊かなかったし彼女も続けなかった。

 家具の査定にやってきた業者たちは口を揃えて、石祠へ持っていけるものばかりですよ、と言った。細かな傷はあれど、永く使える品を選んでいたおかげかもしれなかった。衣装ダンス、書棚、ソファ、ベッド……業者の手を借りて運んだ家具はまたたく間に引取り手が見つかる。若い夫婦が、子どもと手をつないだ父親が、ベビーカーを押す母親が、みな決まりにしたがって石祠と僕らに頭をさげた。違う未来の僕らに思え、僕は彼女の手を握った。振りほどくことも握り返されもしない。

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