かたつむり

【かたつむり】

学校の机に突っ伏して目を閉じているとカンナの頃を思い出す。

学校でからかわれるのが嫌で、寝ているふりをしてクラス内にある現実から逃避していたあの時。

机に顔を伏せて隠すことで、まるで殻の中に入って身を守ろうとするカタツムリのように自身を守っていた。

今の私も全く同じだった。

カタツムリと。そしてあの頃のカンナと。

昨夜の事を思い返すと消え去りたくなる。

あの後、頭が真っ白になった私はどうやって戻ったのかも記憶が定かでないほどだった。

ぼんやりと記憶にあるのは、自分の分のお金を置いてタクシーに乗り込む所だった。

逆にアパートに着いてからのことはとても良く覚えている。

部屋に入った私を待っていたのは、真っ暗な部屋だった。

(何で・・・)

私の脳裏にあのときの光景が浮かんだ。

母に置き去りにされたときの暗くて寒い部屋。

私は呆然とソファに座り込んだ。

どうしよう・・・

結局一樹さんは戻ってこなかった。

そして一睡も出来なかった私は、そのまま学校の準備をして登校した。

そして今に至る。

その時、カラオケに行った子たちの笑い声が聞こえた。

私はパッと顔を上げた。

そうだ。

みんなに話を聞いてもらおう。

私の脳裏にクラスメイトの女の子たちの笑顔が浮かんだ。

そうだ。

私には沢山の友達が居る。

きっと全て元のように丸く収まる。

だって、私は美空なんだから。


だが・・・私を待っていたのは友達と思っていた子たちの冷ややかな目だった。

「山浅さん、なんで抜け駆けするの?佐々木君は石橋さんが狙ってるっていったよね?」

私は状況が理解できず、自分に向けられる目と口調に縮み上がっていた。

「え?それって・・・なに?」

「は?あなたって前々からそうだよね。可愛いからって何でも許されると思って。私たちなんて取り巻きとか引き立て役A,Bとか思ってるんでしょ?でもね・・・AやBにも意思があるんだけど!」

「ち・・・がう。そんな・・・つも・・・りじゃ」

「もういいよ。こんな奴ほっとけば。どうせ佐々木君もドン引きしてたんだから」

「え・・・」

私は耳を疑った。

佐々木君が、引いてる?

何で?あんなに嬉しそうにしてたのに。

私の顔を見て、女の子の一人は失笑した。

「可愛ければなんでもオッケーとか・・・本当にあなたってペラいよね」

「あ、それ私も思ってた。って言うか、もういい加減お姫様のお守りも飽きたんだけど」

私は苦い胃液が喉元にせり上がるのを感じた。

脳が痺れる。

口がカラカラだ。

あれ?

私ってカンナじゃないよね?

美空のはずなのに?どうして?どうして?

それからの時間はポッカリと穴が空いたように記憶が無い。

気がつくとアパートに帰っていた。

もしかしたら一樹さんが帰ってるかも。

そう思い私はポケットから取り出したボイスレコーダーを起動した。

一樹さんとの会話を全て保管しておきたかったのだ。

これは美空になってからたまらなく湧き上がった衝動で、カンナの頃は考えもしなかった。

不思議な気もするが、きっと美空の脳を使っているからか。

私も美空も一樹さんに好意を持っているので、その相乗効果だろうか。

とにかく人の記憶なんて脆い物だから、携帯のアプリなんかじゃ物足りない。

そして、確認すると鍵がかかっていなかったため、慌ててドアを開けるとそこには一樹さんが居た。

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