カンナ
物心ついた私が最初に意識したのは、能面のような表情の屑・・・母にどうやって笑ってもらおうか、と言うことだった。
いつでも無口で無表情。
そしていつでも遠くを見ている母。
そんな母に対し、私は精一杯の事をした。
抱きついて甘えもしたし、テレビで見るお笑い芸人のまねごとも・・・4歳のため真似と言える物では無かったが。
それ意外にも見よう見まねでテレビアニメのキャラクターの絵も描いて見せた。家には絵本が無かったので、代わりに広告に書いてあるスーパーのマスコットキャラクターの絵も沢山書いた。
でも、母は笑わなかった。
そんな母が唯一表情を変えるとき。
それは私に対して折檻を加えるときだった。
あるときはビンタ。ある時は物を投げつける。
後で知ったが、どうやら私は母を捨てた男との間に出来た子供だったらしい。
そのため、私を見るとその男を思い出すのだそうだ。
そんな事を母・・・あの屑は私に向かって何度も吐き捨てるように言った。
(あんたの不細工な顔を見てるとあの男を思い出す。あんな不細工、私以外に相手にされないくせに!)
その内、私はどうやって甘えたら良いか分からなくなった。
何を試しても失敗する。怒られて叩かれる。
どれも間違いだけど、正解が分からない。
自分の行うこと全てが間違っているような気がしてどうしたらよいか分からなくなった。
そんな私に友達なんて出来るわけも無く、保育園でも一人だった。
いつも仏頂面で一人で歩き回ってすぐに癇癪を起こす子。
それが私についた言葉だった。
そりゃそうでしょ。笑顔を見せても気味悪がられるか、冷ややかな目を向けられるのだ。
そんな事が続いてどうして笑顔を見せられる?
私が6歳になり小学校に入学する頃、母に新しい男が出来た。
そして、私はアパートに置きざりにされた。
クリスマスムードに染まる12月下旬だったことを覚えている。
神様はなんてブラックユーモアが好きなんだろう。
いつまで待っても母は帰ってこない。
お腹も空いた。
時々、気が向いたときに母が作って出していた形の崩れたコロッケが鮮烈な色合いを持って浮かんだ。
経済的にギリギリだったため、中身はジャガイモのみと言うどうと言うことの無いものだが、たまらなく食べたかった。
食べる物が無く、やむなく壁を削った削りかすやトイレットペーパーを食べた。
だが、どうにもならなくなり、やがて私はずっと叫ぶようになった。
私が何をしたの?
そんな怒りだった。
顔が悪いから?
だからお姫様になれなかったの?
上手く笑えないから?
だからお母さんにも嫌われたの?
可愛くないから、笑えないから。だから私を置いて行っちゃったの?
知るもんか!
もういい!殺すなら殺せ!
そしたら幽霊になってあの女にも取り憑いてやる。
どんなに怖がっても絶対に離れない!
神様!少しくらい私を助けてよ!
神様の馬鹿!
その声を神様もうるさいと思ったのだろうか。
そのまま意識を失った私は、隣人の通報によって駆けつけた児童相談所のケースワーカーによって保護された。
そしてどんな手続きがなされたのか数日後に私は新しい家「児童養護施設 愛生院」に住む事となった。
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