第5話 駅前デートに付き合う猫

伸太郎と聖は翌日の学校帰りに駅前を並んで歩いていた。ただ、彼らの雰囲気は非常にギクシャクしている上、周りを気にしながら若干早歩きになっていた。


「……なんか、その、そろそろ休みたいかな……」

「そうだね……んじゃあそこで、小遣い残ってる?」

「大丈夫、今月はまだ余裕」

「あ、俺、こう言うところ入るの……久々かも」

「あ、そうか……ここ一年くらい家にまっすぐ帰らないとダメだったもんね……」


二人はカフェに入り、飲み物を買って奥の席につくと、二人して周りを気にしながら話すでもなくモジモジとし始めていた。伸太郎は恥ずかしがりながらも勇気を出して話を切り出す。


「あ、あそこまでの反応になるとは思ってなくて」

「わ、わ、私も……想像以上だった……」


二人が何時ものように距離を離しての登校ではなく、並んで一緒に登校をすると、その様子を見ていた生徒達から一瞬にして噂が校内に広がり、からかわれたり、実際に真顔で真面目に話を聞きに来たりする人間の対応で大変なことになっていた。

二人は魔法の事で頭が一杯で、そっちの事に意識が希薄だったため、彼らになんと言って良いか分からず、否定もせずにただ照れている感じだったので周りがさらに盛り上がると言った感じになってしまい、その様子を見ていた事情を知っている中学からの友人達がその場を収めたりしてくれなかったらもっと酷いことになっていた感じだった。


「人が多くて、全然超能力の話が出来なかったね……」

「ちょ、超能力?」

「え? 違うの? やっぱり魔術とか?」

「あ、っと、魔術かな……」


伸太郎は昨日の夜に灰色の猫と打ち合わせをしてどんな話をするのかを予め決めていた。灰色の猫が魔法を使えるのがバレると、「本当に記憶を消すのか迷うわね」と、語尾に「ニャ」をつけずに真面目な口調で悩んでいたので、慌てて伸太郎は自分が身代わりになると口裏を合わせていたのだった。話を詳しく聞くと、今はこの世界の理を灰色の猫が理解しきれておらず、まだ魔術の精度がそこまで高くないから、魔法を使うとかなり「ざっくり」と記憶が消えてしまう……とのことだった。

おおらかで鈍感な伸太郎も、聖の記憶がざっくりと無くなって、記憶障害になったり、自分のことまで完全に忘れてしまうのを想像するとかなり悲しい気分になり、灰色の猫の行動を慌てて止めたのだった。


「そんなに多くは無いんだ、悪いものを寄せ付けない魔法、体の強化の魔法、あとは重さを軽くする魔法とか」

「……それってすごくない? 体を強化して重さを軽くすれば……スーパーマンみたいな事ができるよ?」

「え? ……あ、そうかもね……」

(やばい、たしかに組み合わせるとすごいかも……どうしょう……アシュレイ……)

(あわてない。魔術の切り替えが必要だから同時に使えないとか言っておくニャ)

(わ、わかった)


「あ、えっと、同時に使うと色々と問題が……」

「え? ……あ、そうか、あの時はすごい移動が体の強化で、立ち止まってから重さを無くしたのね、ってことは魔法の切り替えはかなり早いのね」

「……あ、っとそうだったかな?」


(ん~この娘の方が頭の回転が早いようね。お主様大丈夫かニャ?)

(……聖はかなり頭が良いし、確かファンタジーな物語好きだったような記憶が……)

(ツムの部屋にある「あれ」か、なるほど。わかったニャ、これからは私がこたえるニャ……)

(ありがとう……)


聖はしばらく考えた後、ふんふん頷きながら色々と考える。


「……なるほど、その様子だと意識せずに色々と切り替えを……って、魔術なのに呪文を唱えたりとかした様にみえなかったけど?」

(使える魔法は予め登録しておいて、呼び出すだけだから、規模の小さいものは念じるだけで大丈夫ニャ)


「……えっと、念じるだけで……発動する感じかな?」

(ざっくりと答えすぎだニャ……)


聖は周囲を見回し、隣の席や近くの席に座っている人間が注意を向けていないのを確認してから小さな声で伸太朗に話しかける。


「……すごいね。それじゃ、私を軽く浮かしてみてよ」

「え? ここで?」

「大丈夫、机で体を抑えておくから」

(……一〇秒後に浮かせるニャ、10,9,8……)

「えっと、それじゃ、いくね……」


伸太郎はもっともらしく、手のひらを聖に向けてそれっぽく念じてるふりをする。

すると、机をしっかりと両手で握った聖の表情が驚きに満ち溢れ興奮した感じになる。髪の毛や洋服が若干ふわふわとした感じになり、注意深い人間が見れば彼女の衣服や服が膨らみ浮遊している感じに見えた。

聖は驚きながらも周りを気にして興奮しながら小声で囁いた。


「す、すごい……本当に浮いてる! 手を離したら天井まで軽く飛べそう!」

「だ、だろ?」

(あれ? これ、どれくらい続けるの?)

(あと5秒で切るニャ 5,4……)

「それじゃ、終わりにするよ……」


聖のまわりには再び重力が発生したのか、突然髪の毛や服が垂れ下がって、現実的でない変な動きをしていた。


「すごい……夢じゃなかった……」

「?」

「夢かと思ってたけど、やっぱり夢じゃなかった……」

「あ、あ〜わかる。ほんとわかる。俺もそうだった」


聖は思わず立ち上がって伸太郎に顔を近づけて興奮気味に質問をする。その勢いに伸太郎は圧倒されてしまう。


「ねぇ、どうやったら魔法に目覚められるの?」

(呪いよ消えろって、念じてたら突然出来るようになった……とでも言っておきなさいニャ)

(え、そんなんでいいのか?)


「……っと、呪いを消そう、消えてくれって、毎日強く願ってたら……なんか使えるようになったかな……」


聖が近づけていた顔を元に戻し深く座りなおす。


「! すごいけど……なるほど……呪われてないとダメなのか……そっかぁ……呪いを弾き返すくらいの強い意志が必要なのかな……」


「……あ~なるほどね、そう言う事か」

「へ?」

(……お主様よ、考えが口に出てるニャ)

(しまった……)


伸太郎は灰色の猫が聖にこの返答で魔法を教える気が無い事と、魔法を習得出来ない可能性が高い事を同時に知らせたのにかなり感心したが、思考で会話するのに慣れておらず考えが思わず口に出てしまった様だった。


「あ!」


聖は伸太郎の慌てる様子を気にすることもなく、突然なにかに気がついたのか慌てて周りをキョロキョロと見回す。

が、特に周りに変化はなく、隣の席も人がおらず、いつもそれなりに混んで賑わっているはずの店内が何故か閑散としていた。


「あれ? ……今日は随分空いているんだね。私、興奮しすぎて変な目で見られているかと思ってた」

「え? そうなの?」(いつもが分からなかったから……分かんなかった)


(人払いの魔法と、注意反らしの魔法と、音声遮断の魔法をかけておいてよかったニャ)

(……ありがとう……ほんと便利な猫……魔法だね)

(感謝するニャ、それにしても興奮しやすい娘だニャ~)


「昔っからそうだよなぁ……」

「え、あ、ごめんね……」

「あ、あ~いやいや……ちがくて」


伸太郎は心の声と、実際の声の使い分けに苦心しているだけだったが、聖は昔から変に見られたと勘違いし、若干凹んでしまうが、しばらくして気を取り直して質問をする。魔法の事でかなりテンションが上がり、前向きになっているようだった。今度は小声で伸太郎にだけ聞こえるように注意しながらささやく様に質問をする。


「それで、魔法はやっぱり、呪われないと使えないの?」

「ん、それは分からないや……」

「んじゃぁ、やっぱり、ここは……私にも何卒ご教授を!」

「あー、どうすれば……」


伸太郎は聖の願い事を全面的に叶えてあげたかったが、魔法で姿を消している灰色の猫の視線が背中に突き刺さっている感じがした。


(お主様、目的を忘れていない?)

(そうだった)


伸太朗はスマホの画面を開き、こっそり書いていたいくつかのメモを見ながら話す。


「んじゃ、絶対に人に喋らない、どんな事があっても人前で魔法が見えないフリをする。それが条件なんだけど……」

「え? それだけでいいの!? 守ります。絶対に守ります。杜里家のご先祖様にかけて!」


(これでプランBに突入ってわけだね……)

(そうだニャ。適当にやらせて出来ないことを分からせて終了だニャ)


心の底から喜ぶ聖をみて、心のなかで申し訳無さでいっぱいになってしまう伸太郎だったが、記憶を完全に消すと言う最悪の展開にならなくて良かったと心をなでおろした。



◆◆◆


その後も、魔法に関係ない他愛のない話を軽くしたところで、夕暮れとなりカフェを出ていく。灰色の猫の魔法のせいか不自然に人の気配が少ない駅前だった。


「それじゃ、あ、明日から、朝どうする?」

「え? 明日から?」

「あ、ほら、何時もバッグだけでも大丈夫なようにって一緒に行ってくれただろ? あれ、もう必要ないから明日からは……」


聖は伸太郎の言葉を聞いていると、キョトンとした雰囲気から徐々に絶望的な表情へと変わっていき目が潤んでいく。それを見ていた伸太郎はしどろもどろになりながら続ける。


「あ、ほら、今日もなんか、すごかったじゃない?」

「……わかった……」

「あ、えっと、やっぱり、いつも通りに……あ、いつも通りじゃないのか……」



ガサガサッ ガサッ!


突然、十メートル先の歩道の茂みから蛇やウナギの様な動きをした「黒い紐状の生物のようなナニカ」が数匹出てきて、かなりの速度でそのまま遠くの排水溝の方へとウナギの様にのたうちながら入っていく。


「え!? なにあれ?」

「……なんかいたね、ネズミ? 黒い蛇? ウナギ? ミミズみたいな……」

「蛇……かな? 黒いモヤに見えたけど……」


(アシュレイ! アレ何??)

(妖魔避けの魔法に弾かれたみたいね。そこまで強い妖魔では無いみたいだけれど……)

(……え? 妖魔って本当にいるの?)

(この世界ではなんと言うのかしらね……ちょっと様子を見てくるわ。なるべく早く家に帰ってね。護りの魔法があるから大丈夫なはずよ)

(……わかった)


伸太郎はアシュレイの語尾に「ニャ」が付いていないのを聞いて、かなり真剣なのがわかったので、一刻も早くその場を立ち去ろうとする。


「聖、行こう、なんかやばい感じがする」

「え? 追いかけないの? 魔法を使えればなんとかなりそうじゃない?」

「……あ~悪いものを寄せ付けない魔法は、悪いものを退治できるわけじゃないんだ……多分」

「……なるほど……あれは「悪いもの」だったのね……」


聖は「黒いナニカ」の存在を知っていたのか、思い詰めた表情をしていた。



◆◆◆


伸太郎達がカフェを出る前、駅前に張っていた特殊対策課の二人が不穏な空気を感じ、周囲に気取られない様に視線だけを彷徨わせてあたりを警戒する。


「榊先輩、やっぱりこの街なんかいますね」

「ああ、さっき結界の様な妙な感覚を受けたが……どうなってるんだ?」

「まるで妖退治の現場にいるみたいですね」


榊がふと何かに気が付き、後輩の丹地の腕を引っ張り手繰り寄せ抱きしめる。突然の事に丹地は本気で慌て始める。


「え? あ、ちょっと。そんな行き成り……」

「ん? ……何勘違いしてんだ……あそこ、この前あった怪しいオッサンと似た感じの奴がいないか?」

「……はぁ……あ、ちょっとまってくださいね……たしかに、似た感じですが、女性じゃないですか?」

「……なるほど、お前が感じたのなら……正解だろうな……陰陽師の末裔とかか?」

「この街だったらありえますね、妖の歴史のある街ですもんね」


ちょうど抱き合った姿勢のまま、榊は次のことを思案する。が、突然丹地が驚いた感じで榊の事をバンバンと叩く。


「せ、先輩、イタ! あれ、妖だと思う! あれ? 消えた? 逃げたのかな?」

「え、ちょっと待って……くそっ、ちょうど見えなかった……変な気配多すぎじゃないか? ここ?」

「あれ? なんか妖に反応して色々と人が動いている様な?」

「……僕らはちょっと静観だな……」

「え、ちょっと、暫くこのままっすか……本気で恥ずかしいんすけど……」

「ちょっとは耐えろ……」


後輩の娘は抱きしめられたままの姿勢に抗議しつつ照れながらも周囲の警戒の目を緩めなかった。


◆◆◆


灰色の猫は若干焦っていた。余裕を持って伸太郎を守れるはずの護りの魔法壁がかなりの速度で「妖」と呼ばれるものに削られていたからだった。


(困ったわね……今の私の力だけじゃ抑えきれないわ……もうちょっとあの子達が早く離れてくれないかしら……)


伸太郎への進行方向を塞ぐように灰色の猫は立ち回り、「黒いナニカ」を追い払いながら家の方へと後退している感じだった。

 

(ここは妖魔の住み着く街なのかしら? アレ以外にもいたるところに妙な気配があるわね……なんか集まってきている様にも感じるわ……厄介ね)


灰色の猫は周囲に気を配りながらも目立たないように「黒いナニカ」を高速で踏み潰すかのように移動をしていた。


◆◆◆


同刻


伸太郎の母、火野珠稀は目の前に湧く、「黒いナニカ」に呪符のようなものを人間離れした凄まじい速さで貼っていた。呪符が貼られた「黒いナニカ」は体に電気が走ったかの様にビクビクと震えた後、薄っすらと消えていった。彼女の持つ呪符には「黒いナニカ」を消し去る力があるみたいだった。


(数が多すぎるわね……今日はみんな出払っていないんだっけ……)


珠稀はポーチの手持ちの呪符の数を確認すると、この数は処理しきれないとこの場からの離脱を考え始める。と、彼女の目の片隅に見覚えのある灰色の猫が「黒いナニカ」とじゃれ合っている様に見えた。


(猫?! アシュレイよね? 何故こんなところに? あの子が呼んだの?)

珠稀が警戒し、気配を消しながら灰色の猫に近づく。灰色の猫は彼女に気がつくことが無く、不思議な力を使いながら眼の前にいる「黒いナニカ」を消し去りながら移動している様だった。

(退魔の術? アレと敵対している? あの猫は一体?)


珠稀は眼の前の光景を考察する事に気を取られ過ぎて一瞬警戒の手が緩んでしまう。灰色の猫と珠稀の間に、「巨大な黒い触手の様なナニカ」が地面を突き破るように出てくる。地面には何ら影響はなく貫通している感じだった。あまりに突然の事な上、思考に入っていた珠稀は予測しきれなかった。が、彼女の持つ凄まじい超人的な反射速度で本能的に避けようとするが……それでも巻き込まれてしまう。

(しまった……) 

珠稀は手持ちの残りの呪符を巨大な黒い触手の様なナニカに投げ付けると、小規模な目に見えない爆発が起きる。珠稀は受身の姿勢をとっさに取り後頭部は守るがそのまま吹き飛び、かなりの速度で壁に激突してしまう。


「!!! ガハッ! ゲホッ!」


珠稀が身体を打ち付け、息が出来ずに苦しんでいる姿を見た灰色の猫は、伸太郎の母親がいることを認識すると同時に、一時的に動けなくなった事を理解した。

同時に、「巨大な黒いナニカ」の触手が彼女を敵と認識し蛇のように鎌首をもたげる用な動作に危険を感じる。灰色の猫の首のペンダントが薄っすらと青く輝き灰色の猫の小さな体を包み込む。

 

(仕方がないわね……使うしかないか……) 

『根源たる力よ、盟約と契約に基づき邪を打ち払う光となれ』


灰色の猫がこの世界でない言葉を紡ぐと、巨大な黒い触手の様なナニカのまわりを魔法陣が包み込むように展開される。


『聖光破魔!』


灰色の猫がこの世界でない言葉を唱えると、魔法陣から上方に向かって巨大な光の柱が発生する。それと同時に光の直撃を受けた「巨大な黒い触手の様なナニカ」は一瞬にして粉々になり煙の様に消え去ってしまう。それと同時に灰色の猫の周囲にいた「黒いナニカ」も跡形なく消え去って行く。

魔法の成り行きを見届けていた灰色の猫は自身の体の異変に気が付く。


(……あれ? しまった……たったこれだけで……力を使いすぎた?)

「……奥さん……あとは……頼み……」


灰色の猫はふらっとした後、その場に足がもつれてコテンと転がって倒れかかってしまう。珠稀は慌てて灰色の猫を倒れる前に抱きかかえる。


(今のは『古代魔法王国語』だった……この子も「そう」なの?)


珠稀は灰色の猫を優しく抱きかかえると、神聖な空気に包まれ、あたりに「黒いナニカ」の気配が完全になくなったことを確認しつつ、騒ぎで集まってくる一般人の目を気にしながらその場を足早に去っていった。


◆◆◆


駅前を見渡せるマンションの屋上からその場を見守っている黒尽くめの服を着た壮年の男がいた。左手に白い手袋をしているのが印象的だった。


(さすがは陰陽師が作った街、現代でも退魔師が集まっているのか? ほとんどの家の血が絶えて潰れたと聞いていたが……)


男の目には珠稀以外にも、「黒いナニカ」に対してなにかしらの対処をしている人間たちが複数人いるのが写り、注意深く人間の方を観察していた。


(それにしても先程のあの光の柱は……まるで神が使ったかの様な強大な力だったな……もう少し調査する必要があるようだ……)


左手に白い手袋をした黒尽くめの男は先程の光が灰色の猫の仕業とは気がついていないようだった。


◆◆◆


聖は伸太郎に付き添われて、まるで江戸時代の武家屋敷と思える様な聖の自宅前まで来ていた。灰色の猫達の影の奮闘を二人は知ることも無く、「黒いナニカ」による被害も無く普段通りの帰り路だった。


「それじゃ、気をつけて! ありがとう」

「おう、なんかゴメンな。色々中途半端で。それじゃ!」

「それじゃ、また明日!」


聖は走り去る伸太郎を名残惜しそうに見送り、彼の姿が見えなくなると自分の家の門をくぐり入っていった。昔ながらの古風な引き戸の玄関だった。


「ただいまぁ」


「おかえり~」

「ママ、聞いて! なんか黒いウナギみたいのいた!」


聖の母は夕飯の準備で忙しい様で、振り返ること無く返事をする。


「え、またそう言う話? 私には見えないって言ったじゃない……」

「ごめんなさい、でも、すごいの。街中にウヨウヨと……」

「それ、本当? ひいおばあちゃんが生きてたら良かったんだけど……」

「ねぇ、ひいおばあちゃんって、悪霊退治とかしてたんでしょ?」

「お祓い、ね。あ、後で蔵の査定の人がまた来るから静かにしててね」

「わかってる」


聖は二階の自分の部屋に入って荷物などをいつもの場所に置いた後、棚に飾られた石に向かって柏手を軽く打って目を閉じながら心のなかで願う。

(今日もおかげさまで良い一日を過ごせました! ありがとうございます!)

 

聖は目を開けて、石に何も変化がない事を確認するとがっかりした感じになる。

(……今日も返事はないか……残念)


棚に飾られていたのは、聖が先祖代々伝わる蔵の探索の時に見つけた、ご利益の有りそうな白と黒の混ざった陰陽を表す太極図みたいな図柄をした不思議な色をした石だった。


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