あなたのすぐ下は、
鳳絵馬(おおとり えま)
あなたのすぐ側は、
家のすぐ側に、墓が建っているというのは気味が悪い。
しかし、そういった家は案外多いのだと、最近知った。
離婚を機に、こじんまりとした生活をしようと思った。
手ごろな価格帯のアパートなどを見て回っていると、窓から墓地が見えたりする物件のなんと多いことか。
この部屋を借りる人の気も知れないが、ここにアパートを建てようと考えた人の気も知れない。
そんな話を飲みの席で友人からされた。
友人からしたらただの話題の1つに過ぎないのであろうが、俺からしたらあまり面白い話ではなかった。
普段は気にもならないと思うのだが、アルコールも回っているせいか、異様に腹が立つ。
「墓が家のすぐ側にあるのは気味が悪い」という言葉が、頭の中で何回も繰り返された。
それなら俺の地域はどうなるんだ。
俺が生まれた時から住んでいる奈良県には、いたるところに古墳がある。
古墳とは大昔の権力者のお墓である。大きければ大きいほど埋葬されているものの権力の大きさを表している。学校の勉強でもよく出てくる知識だ。
奈良に住んでいる人からしても、それ以上の知識も思い入れも無い人が多いと思う。
ただそこにある。その程度の認識。
気味が悪い。気が知れない。そこまでのものではない。
アルコールが回っているせいだと思う。
そんなことを、考えるのが先か口から出るのが先か。。
ごめんごめん!と友人は言う。
「現代の墓と昔の墓はまた違うだろ。こんな話で気を悪くするなよ。
そうだ古墳といえばこんな話が。。」
以下が話の簡単な内容。
古墳の周りには大抵「埴輪」が置かれている。これは人であったり馬の形をしていたりするのだが、埋葬者があの世に行ってからも寂しくないように置いたり、埋めたりする。
そんなことぐらい知っている。馬鹿にするなと思ったが、知らない話もあった。
もっと昔はその埴輪というものが無くて、代わりに本物の人や馬を埋めていたらしい。寂しくないようにと。
埋めてからまだ時間のたたないうちは、土の中から声が聞こえるらしい。
だしてくれ だしてくれ 助けてくれ
友人とは飲み屋の前で別れて、俺は家路についた。
最寄り駅までの電車の中で少し酔いもさめてきた。
大阪から奈良。ホームグラウンドに帰ってきたぞ。
駅から家まで、通いなれた道ではあるが夜道の暗さと、夜風の冷たさから速く帰ろうと思った。最後の古墳の話。余計だった。ごめんと言いながら謝る気などさらさらなくて、こちらの反応を楽しもうとしていたのだろう。そんな奴だから離婚する羽目になるのだ。大学からの付き合いだが、その時から変わらないやつ。
でもまぁ居心地もよく長いこと友達をやっているのだけれども。
この地域には本当に古墳がたくさんあって、○○古墳みたいに名前がついているものもあれば、ただの丘だと思っていたのに古墳だったみたいなものもある。
名前がついている古墳には、周りに埴輪などがたくさん並べられていて
「いかにも!」という感じなのだが、ただの丘に見えるやつには埴輪は無い。
もしかしたら、埴輪の代わりに本物のパターンかもしれない。
今、家路の途中にあるちょっとした丘。これもそうなのかもしれない。近づく必要なんてないのに近づいて行ってしまう。声が聞こえるか、はっきりと確かめないままのほうが怖いのだ。
丘の前でしゃがんで、耳を澄ませてみる。
だしてくれ だしてくれ 助けてくれ
確かにそう聞こえた。
いや嘘。
まったく聞こえはしなかった。怖いと思っていると、なんでもないものも怖く感じてしまう。でも大抵は気のせいだと思う。
でも近づく時、ちょっと怖かった。
余計な話をしやがって。バチでもあたれ!
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