心の建築家 

雪村団子

第0話 いつも通りの日常

ここは心世界パネラム、心の建築家ハートクリエイターたちが住まう場所。

そこに今、新しい建築家が生まれようとしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日もここ辺境の地エアルスは、いつも通り建築家クリエイターたちによって平穏な日常が繰り広げら「こらーっ!今ちょうど私の作品を映し出したばっかりなのに手を出すなぁぁあ!」


「へへーん、目を離しておく方が悪いんだよーだ。」


いつも通り賑やかな日常が流れていた。


「待てー!エルムー!撃つぞー!」

「待たなーい!ってあぶなっ!?」


この走り回っている少女たちはアルとエルム、絶賛喧嘩中のようだが誰も気にしている様子はない。

例え真横で光線が飛び交い爆発音がしても、慣れている者は普通に世間話を続けている。


「ねぇねぇ、最近中央の方はどうなの?アンタの知り合い中央の方で頑張ってるって聞いたよ?」


「中央の方?友達はまだ被害受けてないけど、伝染型の泥色汚染が発生したみたいで大変らしいよ。」


「えぇー!マジで・・・



【カーンカーンカーン! カーンカーンカーン!】


「あっ鐘だ!」

「もう生まれたんだ~、早いねー。」

「また新しいコ生まれたんだ、どんなコだろ。」

「創造の鐘…またライバルが増えるのかぁ、大変になるね…」


多少の騒動は日常のようにさらっと流してしまう建築家たちでも、よほどの世捨て人でもない限り気になってしまうのがこの創造の鐘の音である。

それは新しい命がここエアルスに芽吹いた合図であり、仲間ライバルがその地に降り立ったという合図でもあるからだ。


「えぇー、何年ぶりだろーここに新しい子が来たのー?」


「分かんない、ここ100年は生まれてないと思うけど…」


「まぁ、いいや。とりあえず見にいこーよ―!」


「ちょっエルム引っ張んないでっ!?」


アルとエルム、そして他の建築家たちも新しく来た子が気になり鐘のもとに向かうのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アルたちが着いた頃には、もう大勢の建築家たちが鐘のもとに詰めかけていた。


「わぁー凄い人だかり…私たち遅れちゃったね、エルム。」


アルは背伸びしても鐘の下が全く見えず、落ち込んだ様子でそうアルに言った。


「えぇ~?アルちゃん私のこと忘れちゃったのー?エル悲しいなー」


アルはにやりと口角を上げると、からかうような口調でアルの耳元でささやいた。


「ちょっ近いって!エルムのことは忘れてないから!そんなくっつかなくても忘れないから!」


アルは必死に彼女を離そうとするが力で完全に負けておりびくともしない。


「だーかーらー、わたしのかーるーまー!」


エルムは頬を膨らませて言った。


「あー!確かにエルムのカルマなら空に飛べるもんね!」


アルはちょうど今思い出したかのような顔をしていた。


「そうなんです、まったく私はいつ何時もアルちゃんのことを忘れることはないってのに…」

そうぶつぶつ言いながらエルムはアルを背負いふわふわと空に浮かび鐘に近づいて行った。



「久しぶりに見たけど、これが創造の鐘…すごいね。」


彼女らの身長の数十倍にもなる巨大な鐘は、近づけば近づくほどその威容を増していくような感覚に陥る。


「んー、アルちゃんは初めて見たかのような顔してるけど…まぁいいや、これが創造の鐘、の創造器だねー。」


エルムが創造器と言いながら指差した方向には、こちらの世界で言うところの試験官を何千倍にもしたような大きさの筒と、その周辺の空中に多数浮かんでいるパネルがあった。


「創造…器?新しい子が生まれてくるところってそんな名前が付けられてたんだー」


アルがそう言うと

「アルも生まれてきた時聞いたはずなんだけどね…」


と、どこか諦めたような表情でエルムが言った。


「そんな昔のこと覚えてるわけないじゃん…」


「だよねー」


そんなやりとりが行われている中、突如鐘が鳴り始める。


【カンカンカンカンカン!!!カンカンカンカン!!】


「あ、もうすぐだ!」

「びっくりした…」

「おー、意外と早かったな。」

「新しい子はどんなカルマ持ってるのかなー?」


建築家たちがワイワイ騒ぎながら待っていると、


創造の器が急に明るくなり始めた。

そして、それと同時にあれほどうるさかった野次馬たちが急に静かになった。


―――ガチャ―――


静かに、しかし物音ひとつしないこの場所でははっきりと聞こえるその音とともに

創造の器は開き、中から新しい建築家クリエイターが生まれようとしていた。

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心の建築家  雪村団子 @alucica0nigiri

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