どっぺるげんがあ

笛希 真

どっぺるげんがあ


 小学校から帰ったら、ぼくの部屋にもうひとりのぼくがいた。


 ぼくとおんなじ顔で、おんなじ身長で、おんなじ服で、とにかく全部おんなじ見た目だ。もうひとりのぼくがいるなんて考えたこともなかったから、ぼくはとてもビックリした。


「きみはだれ? なんでぼくとおんなじ見た目をしているの?」


 ぼくがそう言うと、もうひとりのぼくはムッとした顔でこっちをにらんできた。


「ぼくはぼくさ。ぼくがお前と同じ見た目をしてるんじゃない。お前がぼくの真似をしてるんだろ。お前、さてはドッペルゲンガーだな?」


「どっぺるげんがあ?」


「偽物ってことさ」


「えー! ぼくは偽物なんかじゃないよ。ぼくは本物のぼくだもん。そんなこと言うきみのほうが偽物だろ」


「ふん、お前は自分が本物だって言うんだな。それなら立証してみせろよ」


「リッショウ?」


「立証もわかんないのかよ。お前は本当に馬鹿だな」


 たしかにぼくはちょっとだけおバカだ。九九くくはぜんぜん覚えられないし、今日の漢字のテストだって半分も書けなかった。学校だけでなく、家でお父さんやお母さんにも勉強を教えてもらってるけど、あんまりテストの点数はあがっていない。

 そんなおバカなぼくにもわかるように、もうひとりのぼくはリッショウの説明をしてくれた。


「お前が本物だっていう根拠――じゃわからねーか、本物だっていう理由を言えってこと」


「へー、きみはすごい頭がいいんだね。どっぺるげんがあとか、リッショウとか、むずかしい言葉をいっぱい知ってる」


「お前が馬鹿すぎるだけだっての。そんなことはどうでもいいから、はやく自分が本物だっていう理由を言ってみろよ」


「理由って言われても……。ここはぼくの家だし、ぼくはぼくだもん。それ以外に理由はないよ」


「そんな理由じゃ立証できたとは言えないな」


「そんなぁ……」


 どうしよう。このままじゃ、ぼくが偽物ってことになってしまう。ぼくはリッショウできなくて泣きそうになっていた。

 すると、もうひとりのぼくがこんなことを言い出した。


「じゃあ、こういうのはどうだ? いまから、お父さんとお母さんに、どっちが本物のぼくか決めてもらうんだ。じつの両親が認めてくれれば立証されたといえるだろうしな」


「うん、それでいいよ!」


 なぁんだ。リッショウってそんな簡単なことだったんだ。

 だって、お父さんとお母さんが、ぼくのことをわからないはずがないもん。ふたりはとってもかしこくて、すごく頭のいい学校に通ってたんだって。それで、絶対に、ぜーったいにぼくにも同じ学校へ行ってほしいらしくて、ジュケンってのをさせるために毎日ぼくに勉強を教えてくれるんだ。


 そんなふたりなら、間違いなくぼくのことをリッショウしてくるはず。


 そう思ってたんだけど、お父さんとお母さんは、なぜかもうひとりのぼくのことをリッショウしちゃった。

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