#228 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その二十八 『邂逅』
「クロニクルクエストって何……?」
なんか訳の分からない内にとんでもない地雷を踏み抜いた気がするんだが……。
字面から見るに、SBO世界で起きたという三千年前の人間と龍のいざこざに関する内容の話なんだろうが……多分クロニクルクエスト自体初出のコンテンツだよな?
……やっべぇ、今ライジンの生放送でこの状況垂れ流してるよな……まぁ良いか、どうせすぐ進むようなもんでも無いだろうし!(諦め)
と、リヴァイア戦の疲れと突如降って湧いた新情報に白目を剥きそうになっていると。
「……ん?」
背中の方から、ピシッと何かがひび割れるような音が響く。
空間に亀裂が生じた時に発生する轟音では無かったので身構えなかったが、念のため背負っていたディアライズを確認してみると……。
「おいおいおいマジかよ!?」
先ほどのひび割れ音は、ディアライズの鳥打の一部分にそこそこ大きい亀裂が生じた音だった。
慌てて武器の詳細を確認してみるが、耐久度は約8割程。目に見えて損傷してしまう耐久度とは到底思えない数値だった。
「耐久度とは別にその装備の限界みたいなのが設定されてるのか……?」
でもディアライズ最近強化したばっかだからそうとは思えないんだけどなぁ……。
もしくは強化抜きにして元のディアライズ本体がそれなりに使い込んでるからか? うーん、良く分からんな……。
応急修理キットで直るかな……と思いながらウインドウを操作しようとした所で、横から衝撃が襲い掛かる。
「村人ォー!!」
「ぐえッ!?」
串焼き先輩が飛びついてきたのでウインドウが強制的に閉じられた。
俺に馬乗りになった串焼き先輩が、爛々と目を輝かせながらべしべし叩いてくる。
「なんだよこの野郎、マジでやりやがったなお前! なんだあの馬鹿な射撃! マジですげえよお前!」
「褒めたいのか馬鹿って言いたいのかどっちかにしてくれない?」
なんで俺の身内連中はこうも他人を褒めるのが下手くそなのか……。
串焼き先輩の後ろに続いていた厨二が、微かに口元を緩める。
「いやでも本当にこの短期間の特訓だけで空中跳弾をやってのけるとはねぇ……。流石のボクもビックリだヨ」
「しかも最後跳弾限界更新してなかったか? その時点でやべえのに継ぎ矢とか訳わからねぇんだが!」
わっはっはとボッサンが豪快に笑う。
確かに、俺でも驚くほどに最後の射撃は完璧に決まったと思う。
しかも、聖なる焔を纏っていなかったので【
……折角だし、記念にさっきのクリップ取っておくか。
「くっそー! ドヤ顔でプロアピールしてやったのにもっとド派手な事かましやがって! 俺の頑張りを返せ!!」
「いやいや十分串焼き先輩も凄い事してたじゃん。俺だったら一人であの量のリザード達を処理するのに何分かかるか分からんし、あれのお陰で勝てたと言っても過言じゃないぜ」
「えっ? ……まあなァ! あれぐらい俺にとっちゃお茶の子さいさいなんだよなぁ!」
(((ちょっっっろ(いねぇ)……)))
多分、ボッサンと厨二も同じ事を思っているだろう。
串焼き先輩は大抵褒めておけばどうにかなるからちょろくて助かるな、ホント。
「……ん?」
ふと、真っ先に喜びを共有してくる友人の姿が見えない事に違和感を覚える。
そう言えば、ライジンとポンはどこに?
◇
村人Aから少し離れた位置。
わいわいと盛り上がっている村人達の様子を眺めながら、ライジンがぼそりと。
「……ポンは飛びつかなくて良いのか? 今ならどさくさ紛れに行けるぞ」
「えっ、あっ、えっ!? べべべべ別にそんな事しませんけど!?」
ライジンの言葉に、手をわちゃわちゃさせながら赤面するポン。
ポンは一つ咳払いをしてから、真剣な表情で呟く。
「それに……これはまだ前哨戦に過ぎませんから。……もし、そういう事をするにしてもそれは【双壁】を倒してからで……」
「お、それでもちゃっかり飛びつこうかな、ぐらいには思ってるんだな。案外強かだなー」
「ッ、もう! ライジン君はいじわるです!!」
ニヤニヤ笑いを浮かべながらそう言うライジンに対し、顔を赤く染めながら怒るポン。
ライジンはひとしきり笑ってから、ゆっくりと目を閉じた。
「はは、悪い悪い。……そうだな、まだ俺達は【双壁】に遭遇すら出来ていないんだ。気を引き締めないとな」
冥王龍リヴァイア・ネプチューンは確かに強敵だったが、それでも今回の本命の相手ではない。
勝利の余韻を味わうのは結構だが、それで気が緩んでは困ると言う物。
ポンの言う通り、仲間達と全力で喜び合うのは【双壁】を倒してからだなとライジンは頷いた。
◇
ライジンとポンは何を話しているんだろうか……まあいいか。
未だ馬乗りになってる串焼き先輩にジト目を向けると。
「串焼き先輩、そろそろどいてくんない? 多分だけど今休憩って事でカメラ止めてるんでしょ? 早く離れないと見た目美少女に馬乗りになったプロゲーマーがライジンの生放送に映って明日の日刊ゲーマーズの特大スクープになるぞ?」
「しょうもない理由での炎上は勘弁だぁ!?」
ライジンの【灼天・弐式】もかくやという速度で飛び退こうとした串焼き先輩。
ふむ、地味に横から飛びつかれたの痛かったしここは一つ……。
「逃がさん!! 【
「ぐえっ!? お前この状況でそのスキルはガチで悪質だぞ!?」
パキン、と音を立てて俺と串焼き先輩の首に鎖が結ばれる。
ククク……!! 俺から簡単に逃げられると思うな……!!!
「私の事は遊びだったのね!? なら、あんたを殺して私も死ぬ!!」
「
良くお分かりで。
おふざけもこれぐらいにするか、とスキルを解除すると串焼き先輩が自分の身を抱いた。
「失うもんがねえ奴はマジで何やるか分からなくてコワイ……」
「まあプロの信用失墜と一般人が羞恥を感じるだけの
「上々じゃねえよ! 最低だよ!! ゴミみてえな立ち回り覚えんな!!!」
串焼き先輩が半泣きになりながら叫ぶ。
まあ串焼き先輩のプロ人生を潰す訳には行かないし、俺も公衆の面前でネカマロールしてネットの
『……む』
と、その時、傷がある程度癒えたリヴェリアの眼が開く。
数瞬戸惑うような素振りを見せてから、自分の身体を眺めると。
『何故、私は生きている……?』
「よう、お目覚めみたいだな。身体の方はもう大丈夫なのか?」
「あいつ何事も無かったかのように平然と戻りやがった……!!」
イベント中ですわよ。お黙りなさい、プロ団子。
『……なるほど、そう言う事か。……全く、厄介な役目を押し付けられてしまったものよ』
どうやら自身の内部で脈打つ存在に気付いたらしい。
かつて、人と龍が争う原因となったという【
リヴェリアはこちらへと視線を向けると。
『そして……貴様は託されたのだな。我が父、リヴァイアに』
「ああ。人と龍の和解の為の架け橋になれってな。まあ、お前次第な所もあるけど」
『フ、拾った命だ。貴様の好きにするが良い。……我が父が認めた英雄とあれば、組む上で文句など無い』
「でも、俺達と組むって事は龍族に対する明確な敵対行為になるんだぞ? それでも良いんだな?」
『クク、元より朽ち果てるのを待つだけの身だったのだ。折角生き長らえたのだから、この目で貴様が為す事の果てを見届けるのもまた一興だ』
あんれー? これもしかしてめちゃくちゃ期待されてる感じだったりする?
まあ共闘してる時もそうだったけど、人の可能性を信じてるって言ってたしな……。
俺は一体いつリヴェリアの好感度上げてたんだろうか……?
腕を組みながら首を傾げていると、ポンがおずおずとした様子で近寄ってくる。
「あの……村人君。次のエリアに行くには、どうすれば良いんでしょう……?」
「あっ」
ポンの言葉で当初の目的を思い出す。
確かにそうだ、水晶回廊の時は空間の亀裂からこの海遊庭園に来れたんだし、そろそろ亀裂が出現してもおかしくないと思うんだが……。
俺達がどこかに出口が無いか周囲を見回していると、リヴェリアがくいっと顎を動かした。
『私の背に乗るがいい、トラベラー。貴様らが目指している目的地はこの海遊庭園の遥か下……大瀑布の先にある。幾ら貴様らと言えど、何度も身体が粉々になる苦痛を味わうのは嫌だろう?』
『よろしくお願いします!!!』
全員で全力で頭を下げた。いやだってそんな事言われてビビらない筈無くない?
幾らバーチャルの身体とは言え、溺死はちょっと……。
いそいそとリヴェリアの身体に各々張り付くと、リヴェリアが咆哮を上げる。
『では行くぞ、しっかり掴まっていろ!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?』
こちらのことなどお構いなしに、リヴェリアが空中に飛び出すと、徐々に加速しながら落下していく。
もういっその事こういうアトラクションだって楽しむのが良いかな、なんて現実逃避していた所で。
「……全員、気を引き締めろ! 俺達の目標は【双壁】!! ここからが本番だぞ!!」
ライジンの声に、緩みかけていた気を引き締める。
リヴァイアとの激闘を制したが、確かにそれは本来の目的ではない。
俺達の目的は最初から一つ。
この先に居る、このSBO世界の最強の存在──粛清の代行者を討伐する事なのだから。
◇
一瞬にも、永遠にも感じられる間リヴェリアの身体にしがみついていると、やがて周囲の景色が一変する。
深海よりも更に深淵……漆黒だけが包むその空間に辿り着いた。
『着地するぞ!』
リヴェリアが翼を開き、羽ばたきながら降下していく。
数秒掛けて速度を落としていくと、地響きを立てて着地に成功する。
足場を確認してみるが、やはり漆黒だけが広がっていて、とても降りても良い場所のようには思えなかった。
「よっと」
まあ、降りない事には始まらない。
地面?へと降り立ち、周囲をぐるりと見回してみる。初めて黒ローブの男と相対した時の場所に似ているな。
その謎の空間に、幾つかの紫色の水晶が等間隔に配置されていた。
「……また謎解きか?」
てっきりすぐに【双壁】との戦いが始まると思っていたのだが、そうでは無いらしい。
もしくはこの空間が【双壁】に到達する為のエリアなのだろうか?
俺と同時に降りていた串焼き先輩が、紫色の水晶に近付いていく。
「……! ……おい、この中に居るのって」
何となく嫌な予感がしながら、恐る恐る水晶を覗いてみると……。
「……ッ」
水晶の中に居たのは……
年齢層はバラバラだが、その全てが
この【二つ名レイド】に突入する前、あの少年から託されていた者がこんな所で見つかるとは。
「……アラタ、見つけたぞ」
間違いない。この人達は……ハーリッドから姿を消した、
やはり、【双壁】の手によって、【二つ名レイド】内に幽閉されていたんだな。
ライジンが巫女達が閉じ込められた水晶を眺めながら、目を細める。
「見つけたは良いが、どうやってこの人達を連れて帰れば良い? そもそもこの水晶から出す手段が無いと話にすらならないぞ?」
「まあ、これをした張本人──【双壁】に話を聞くしかないよねェ」
「……そうだな」
一応、傷が付かないように優しく掌で触れてみる。
水晶の中に眠る人達は、死んでいるかのようにピクリとも動かない。
この水晶を破壊して救助を試みるのもありだが、最悪水晶ごと……というケースもあり得る。
犯人が分かっているのなら、その本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。
と、その時だった。
「……はっ、お出ましみたいだネ」
厨二が呟くと、水晶が並んでいる中央にぼんやりと影が浮かび上がる。
影は輪郭を帯びていき、やがて人の形を形成していくと、口元が動いた。
『遂に、ここまで辿り着いたんだね』
その身体が明確になっていくと、澄んだ青髪の優し気な顔つきの青年が露わとなる。
どこか不思議な雰囲気を漂わせる青年は、こちらを見るなりにこりと笑った。
『実物を目の当たりにすると流石に信じざるを得ないな。その姿、本当に
どこか遠い昔を懐かしむように笑みを浮かべ続ける青年は、柔らかい声音で続ける。
『古き友人よ、三千年ぶり。そして新しい君よ、初めまして。僕はヘル。かつての君の友であり、今はこの世界の根幹に名を刻んだ【
────
【補足】
『日刊ゲーマーズ』
VR系のゲームの記事を取り扱う人気サイト。新作ゲームの情報から配信者の珍事など何から何まで網羅している。あまりにも更新頻度が早いので管理者が人間では無いのでは説まで出ている。
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