#162 既知との遭遇
【ダマスク鉱石】レアリティ:青 分類:鉱石
主に火山地帯で見られる鋼に近い鈍色の鉱石。火山地帯の熱で鍛え上げられてきたこの鉱石はとても頑丈。加工する際にその頑丈さが仇となる場合もあるが、凄まじい温度の溶鉱炉であればその形は自在に変形出来る。
【オクラット鉱石】レアリティ:緑 分類:鉱石
主に火山地帯で見られる緑色の鉱石。熱に弱く、加工が容易い。その熱に対する弱さ故に採掘時に早く回収しないと溶けてしまう。熱に対する耐性こそ低いが、加工後は軽い上に頑丈な装備を作る事が出来る。
【エーキサイト】レアリティ:白 分類:鉱石
主に火山地帯で見られる黄色の鉱石。比較的安価で取引されている鉱石の為、初心者用の装備に主に使われている。酸化に対し強い耐性を持っている。
【アダマンタイト】レアリティ:紫 分類:鉱石
滅多にお目にかかれない希少な鉱石。地下深くに存在するマナの影響を多大に受けているこの鉱石は非常に堅固であり、熟練の鍛冶師でも加工するのに苦労する。しかし、この鉱石を用いて作成された装備は、古龍の鱗に匹敵する程の頑丈さになるだろう。
「こうして見てみると色々採れたな」
モーガンさんから頼まれた【ダマスク鉱石】、【オクラット鉱石】は既に規定数回収を終え、今後使う用にも大量に回収することが出来た。何やら希少な【アダマンタイト】という鉱石も採れたのも幸先が良いな。
だが、まだここは一エリア目。シオンから貰った【龍脈の霊峰】のマップデータによると、他エリアで採集可能なポイントは後四ヵ所あるようだ。
「……傭兵、どれぐらい採れた?」
「こんな感じ」
300回の採掘を終えて、一息吐いたシオンがこちらへと寄ってきたのでアイテムストレージが表示されているウインドウを飛ばす。
シオンがウインドウをしばし眺めていると、驚いたように目を見開いた。
「……驚いた。こんな低層で【アダマンタイト】が採れるなんて。……傭兵、これ私に売る気ない?」
「悪いがレアそうなアイテムは取っておく主義なんでね」
「……チッ」
おーいシオンさん?今舌打ちしましたよね?聞こえましたよ?おい目を逸らすなこっち向け。
取り敢えずシオンの反応を見て、確実にこれはレアアイテムという事が判明した。そういえばレアリティが【幼水龍の逆鱗】と同じ紫色の枠だしな。
残念そうにため息を吐いたシオンは、進行方向へと指を指す。
「……こっから先は私もまだ未踏破のエリア。データは持ってるけど、注意していこう」
「了解。じゃあ気を付けながら行こうか」
◇
2エリア目の採集を終え、3エリア目に移動した時、
身体全体が黒光りしている液状の巨大なモンスターが、壁を跳ね返りながら高速で移動していた。
「……何あれ」
「……こっちの台詞。【龍脈の霊峰】にあんなモンスター居なかったはず」
ピッケルを担ぎながら茫然と目の前の高速弾丸スライムを眺める。
シオンが知らないという事は、本来ここに生息していない筈のモンスターという事か。
「……もしかして、粛清Mobか?誰が馬鹿やったんだ全く」
「……それって、お仕置きMobだよね、確か。……迷惑も良いところ」
キングダークスチールスライムと言う名を持つスライムを見ながら、不快そうな表情を浮かべるシオン。
粛清Mobの発生条件は確か同一モンスターを集中して狩り続ける事。
狩場の独占を防ぐ為の仕様だが、仕組みさえ知っていればそのシステムの穴を突くのは簡単なので、滅多に湧かない筈のモンスターだ。
まあ、
「……って、気を抜く所じゃねえ、確か粛清Mobって……」
記憶の中にある
一回目は確かに俺がポップさせてしまったが、二回目は恐らく厨二の犯行によるもの。
他人が出した粛清Mobであろうと、時間経過か湧かせた本人が死なない限り……。
「暴れ続けるんじゃ」
そう呟いた瞬間、キングダークスチールスライムの身体の向きが変わる。
すぐに身体を動かし、
地面を削りながら、そのまま壁面まで行くとドガァン!!とおおよそ液状の物から鳴るはずの無い轟音が響き渡った。
その光景を見て冷や汗を流している俺の下で埋もれているシオンが苦し気に唸る。
「……ないす反応、だけど重いからどいて」
「この緊張感の無さよ!」
すぐに身体を起こし、ウインドウを操作してジョブチェンジ。ディアライズを担ぎ、牽制するように弓を構えると、【キングダークスチールスライム】が来た方角から、三名のプレイヤーが走り寄ってきた。
「おい、そっち行ったぞ!……待て、プレイヤーが居るぞ!危ないから逃げてくれ!!」
どうやらあのキングダークスチールスライムと戦っているらしい。粛清Mobに真っ向から立ち向かうなんて一体どこの誰だよ(ゴブジェネと過去に自分から戦いに行った自分の事は棚に上げながら)。
「って、シオンと村人!?なんでこんな所に!?」
「……串焼き先輩!?」
駆け寄ってきたプレイヤー達の正体は、串焼き先輩と厨二だった。
後もう一人いるが……誰だ、あれ?フルプレートアーマーを着ているせいで誰だか分からない。
この前言っていた、厨二のフレンドとやらだろうか。
「引き続き
そう言って仮定厨二のフレンドのプレイヤーが走り出す。
そしてそのまま跳躍すると、斧を振りかぶり、地面に思い切り叩きつけた。
「俺を見ろッ!【ターントゥアンカー】!」
叩きつけた地面から船の錨のようなエフェクトが発生し、それがキングダークスチールスライムへと絡みつく。そのエフェクトが消えると、
キングダークスチールスライムは壁面から身体を引っ張り出すと、急速に収縮し始める。やがてぷるぷると震え出し、限界まで縮こまると再び凄まじい勢いで弾ける。それを斧で真正面から受け止めると、金属音が周囲一帯に鳴り響いた。
「ぐ、おおお!!こいつぁ、厳しいな……!!」
「ナイス受け止め!僕が貰うよ!《刹那の閃き、連撃にて全てを斬り刻む》!【絶刀・三閃】!!」
厨二が黒刀アディレードを抜刀し、瞬きする間に三連撃を叩き込む。
だが、キングダークスチールスライムの身体を少し切り裂いただけで、大したダメージにはなっていないようだ。
すかさず串焼き先輩がカバーに入り、弓矢を速射して攻撃を試みる。しかし、元々の身体が硬いのか、弓矢が弾かれてしまった。
「だああ、元があの硬いモンスターだからかあいつも硬すぎるだろ!」
串焼き先輩が舌打ち混じりに苦言を漏らすと同時に、スライムの身体が変形してタンク役を請け負ってくれている厨二フレに襲い掛かる。
首を捻ってギリギリの所で避けるが、ヘルメットが抉られてしまい、その中身がほんの少しだけ覗く。
ちらりと覗かせたその顔を見て、思わず俺の手が止まる。
「ボッ……!?」
だが、驚く暇も与えてくれない。キングダークスチールスライムは縦横無尽に身体を引き延ばし、攻撃された事に対して怒ったのか大暴れする。
元々肉質?が硬いモンスターだけあって、ただの身体の伸縮だけでも地面を抉り、貫いていく。
「……元の性質があのスライムと同じなら、攻撃された事で『狂乱』状態になってるね。ああなると
厨二が鋭利に尖ったスライムの身体を避けながら、冷静に分析する。
それよりも、あのフルプレートアーマーのプレイヤーだ。
よくよく聞いてみれば聞き覚えのある声、そしてヘルメットが抉られた事で露見したその顔。
俺の知っているプレイヤー、しかも交友があるどころか、最古参フレンドの一人。
そのプレイヤーとスライムとの拮抗が崩れ、スライムが吹っ飛ぶと同時に大きく仰け反った。
「村人ォ!何とか出来るか!?」
焦燥が混じった声音だが、聞き間違いようもない。
思わず笑みがこぼれてしまいそうになるのを我慢しながら、矢筒から矢を取り出した。
俺ら変人分隊を指揮する、言わば司令塔。問題児ばかりの俺らをまとめる、
そのプレイヤーの名は――――。
「……行けるぜ
そう告げると、ボッサンは口角を吊り上げ、今も暴れ狂うキングダークスチールスライムを指差す。
「奴は弱点を狙わないとまともにダメージは入らない!……あいつの身体の中心をよく見てみろ、真っ黒な身体の中でやけに目立つ、拳大の大きさの赤い核、心臓部が存在する!」
ボッサンの言葉を聞いて、【鷹の眼】と【
(……あれか)
激しく行動しているからなのかは分からないが、身体の中ですさまじい早さで脈動を繰り返す円形の核が視界に入る。
だが、その核は不規則に移動を繰り返し、一つの位置に留まらない。
「元々移動速度が速い癖に弱点まで移動するのか……面倒だな」
「おやぁ?天下の日本一スナイパー君はまさかこんなことも出来ないのかい?」
「馬鹿野郎、余裕だっての!」
厨二がにやにやしながら煽り倒してくるが、無視して矢を装填する。
狙いはキングダークスチールスライムの心臓部。一撃で消し飛ばし、再起不能に陥らせないといけない。
弓を引き絞り、弱点を狙い澄ませると、集中する。
「厨二、一撃で仕留める。……あいつの動きを一瞬止めろ」
「あいあいキャプテン。魅せてもらうよ、その実力を!」
そう言うと、厨二が一気に駆け出した。
それに気づいたキングダークスチールスライムは厨二に向かって身体を引き伸ばし、収縮の反動で加速しながら仕留めようとする。
「その鋼のように硬い身体、刀でいなすのはマズいかもしれないからねぇ……その
厨二が刀を納刀すると、右腕を高々と掲げる。
「《不変不動の性質よ 鏡像と成りて 我が身に宿らん》」
スキルを発動した厨二の手が淡く輝くと、その手がキングダークスチールスライムの配色とよく似た漆黒に染まった。
「【
次の瞬間、キングダークスチールスライムの身体と鋭く穿つように放たれた厨二の手が交差する。
甲高い金属音を鳴らし、火花をまき散らしながら弾かれるとスライムの身体が硬直した。
「今だよ村人クン!」
「ナイスだ厨二!ぶっ飛べスライム!【彗星の一矢】!!」
白と青の粒子を纏って、限界まで引き絞られた矢が放たれる。キングダークスチールスライムは身体を変形して回避するが、勿論初撃狙いではない。
壁を穿ち、【跳弾・改】を発動した矢が角度を変えて跳ね返り、縦横無尽に駆け回る。
「おいおいマジか、話には聞いてたが、このゲームでもやりやがってんのか……!」
ボッサンが俺の放った射撃を見ながら笑みを浮かべる。
壁を反射しながら威力を増していく弓矢は、移動する核を的確に捉え――――!
『ピギィィィィィィィィィィィィィィイイイ!!!』
核を貫かれたスライムが大絶叫を上げたかと思うと、急速に収束を始めて最終的に爆散した。
大量のポリゴンが宙を舞い、周囲一帯に静寂が訪れる。
「やっ…………た?」
串焼き先輩が喜ぼうとした次の瞬間。
彼の身体にドドドドッッ!!っと無数の黒棘が刺さり、そのまま崩れ落ちてポリゴンと化す。
「……まあ、そりゃそうなるわな」
粛清Mobの役割は、同一モンスターを狩り過ぎた人間に対する
かつて俺も粛清Mobであるゴブリンジェネラルを討伐しようとしたことがある。
結果としては俺の全力を注いでも討伐に失敗し、謎の進化を遂げた訳だが……。
まあ、長ったらしく説明する必要も無いし、結論から言おう。
『『『ピギィィィィィィィィィィィイイイ!!!』』』
一匹でも十分強すぎる性能だと思うのだが、それが追加で三体。
とんでもない速度で襲来するスライム達は、どうやら先ほどお仲間を仕留めた俺達の事が大層気に入らないらしく、
「「「「…………オワタ」」」」
調子に乗って討伐したツケが回り、残された俺達は仲良く床ペロする事になるのだった。
────
【補足】
ダークスチールスライムはいわば『メタル系』に該当します。
核さえ貫けば即死する美味しいモンスターなので、キングの場合も性質的には同じです。
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