#154 ハウジング・ウォーズ! その三
「開幕切り札たぁ、さては余裕無いなオキュラス?」
「これでもお気楽隊の中でも最速ログインの宿命を負った身だ。手早く処理をして30番地に向かいたい所なんだよね、だから速攻で行かせてもらう!」
「それはこっちもだぜ。……こんな所で油を売ってて良いのか?すぐに後続が追ってくるぞ?」
煉瓦造りの住宅が立ち並ぶ住宅街に、軽口を叩き合う、雷を迸らせながら獰猛な笑みを浮かべる人間と、六つの首を持った紫色の巨体の姿が一つ。
オキュラスが【
戦闘している内に追い付いていた周囲のプレイヤー達は皆足を止め、その戦いを眺めていた。
いや、その戦闘に巻き込まれてデスペナルティを食らった挙句、ここまで走ってきた時間のロスを恐れている、と言った方が正しいか。
「【疾風迅雷】!!」
ライジンの両手を構えると、掌から雷が迸り、迫り来ていた【
吹き飛ばされた首は地面に落ちると、すぐに溶解して地面に毒の沼として広がっていった。
(くそ、あんまり無茶しすぎると【灼天・弐式】の雷エネルギーが残らなくなっちまう。一度【灼天】に切り替えるべきか)
ちっ、と舌打ちを一つ鳴らしたライジンは、戦況を見て冷静に判断する。
正直、【灼天・弐式】が使えるなら【
だが、それが出来ないのには理由がある。
(【灼天】が太陽から自然発生する火属性の『エア・マナ』が必要なのに対して【灼天・弐式】は月から発生する雷属性の『エア・マナ』の安定供給が必須だ。安定供給する必要が無いなら自分が持つMPだけで十分だが継続力が無くなっちまう)
ステップしながら【
(【灼天】を使おうにも遮蔽物が少なすぎる。陽光=火属性の『エア・マナ』の量が増大するから火力が無駄に上がっちまってスリップダメージが痛いし、オキュラスの首を消し飛ばす程の超火力を出すには【灼天・鬼神】ぐらいの火力が必要になってくるし……くそ、厄介だな)
恐らく、それすら見越した上でオキュラスはここで仕掛けてきたのだろう。プレイヤー達が購入する事が出来る土地は当然更地。遮蔽物が少ない今だからこそ、奴にとっての勝率の高い奇襲。
だが、
ライジンは一つため息をこぼすと、【灼天・弐式】を解き、足をピタリと止める。
「なあオキュラス、ここは一つ手打ちにしないか?……お前が望むタイミングでの1on1ならいつでも請け負ってやるからよ」
「ふっ……ははははははは!どうしたライジン、臆したのか?この状況を切り抜けられないと?……だが残念ながらそれは出来ないな!30番地が欲しいのはお前も同じだろう?なら、血みどろの戦いになるのは覚悟の上で臨んでもらわないと!」
ライジンの提案に、一蹴するオキュラス。【
「そうか……
仕方ない、とライジンは再度ため息を吐いて瞳を閉じた。
その態度を見て、オキュラスはぴきりとこめかみに青筋を浮かべる。
「その余裕な態度、この攻撃を受けても崩さずにいられるかな?【破毒砲】!!」
【
それを見たプレイヤー達は巻き込まれたくないと一目散に逃げ出す中、ライジンは目を開くと。
「《空を灼け》!【灼天】!」
スキル名を告げると、ライジンの身体から異常なまでの炎が噴出し始める。
天高くまで燃え盛った火が急速に収束を始め、ライジンの手元に凝縮し始めると、それを見たオキュラスは笑みをこぼした。
「はっ、新技か?だが無駄だ、六つ首の【破毒砲】の火力は越えられない!!」
「そう思うんなら、試してみろ」
ライジンはそのまま駆け出し、【灼天】のスリップダメージでHPが減りつつもオキュラスの元へと猛進する。
それを阻まんと、先にオキュラスのスキルが完成する。
「終わりだ、ライジン!」
【
(
ライジンは脳裏に親友が片腕を焼け落ちて尚、楽しそうに笑う姿が浮かび、薄く笑みをこぼすと、掌に凝縮していたエネルギーが急速に弾けた。
「【灼天・フルバースト】!!」
ライジンが吠えると、掌から放たれた膨大な量の火炎がレーザーと激突する。そのまま高出力のエネルギーが拮抗し、周囲に衝撃波をもたらした。
逃げ遅れたプレイヤー達はその衝撃波にあてられて転がり、中にはそのままHPバーが全損し、消滅するプレイヤーも存在するほどだった。
だが、この拮抗はMPという明確なリミットが存在する為、長くは続かない。
じりじりとライジンがスリップダメージでHPバーをすり減らされる様子を見ながら、オキュラスは勝利を確信して笑う。
「ふっ、よく耐えた方だ。だけど、ここは俺の勝ち……」
そこまで言って、オキュラスは口を止めた。
おかしい。MPの消費は明らかに向こうの方が多いはず。だが、何故最初に拮抗した時よりも、現在進行形で
そんなオキュラスの心情を読み取ったかのようにライジンは口角を吊り上げて。
「リスクにさえ目を向けなきゃ、幾らだって火力は伸ばせるのさ。ここには日光がたっぷりとあるからな」
【灼天】のメリットは、火属性の『エア・マナ』が大量にある限り、『コア・マナ』……MPの消費はほぼゼロで発動できるという点にある。
その代わりに、自身が纏う炎の火力のセーブが効かず、自身を蝕む毒になり兼ねないのがこのスキルの難しいところだ。
だが、セーブせずにその凄まじい火力を放出し続けるのならば?
指の先から焼け落ち始めているライジンは更に出力を上げる。
拮抗し続けていたエネルギーはオキュラスの方へと向き始め、それを見たオキュラスは歯を食いしばり、咆哮を上げる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
ついにレーザーを打ち破り、爆発と共に膨大な火炎がオキュラスを呑み込む。
レーザーが打ち破られる瞬間に六つの首を防御に回し、硬化させていたようだが、関係ない。
――――静寂が訪れた。
煙が晴れ、地面に倒れ伏すオキュラスの姿を確認すると、右の肩から先が焼け落ちた腕を押さえながらライジンは密かに笑みを浮かべた。
「ちと火力が強すぎたか?……俺の勝ちだオキュラス」
赤黒く溶けた石畳の上で、現プレイヤー最強は笑う。
そして、宿敵とも言えるライバルの倒れ伏した姿がポリゴンへと還元していくのを見届ける。その後、ふらふらとした足取りで振り返り、歩き出したその先に立つ影が一つ。
「我、粛清の代行者」
煙の先から姿を現したのは、純白のアーマーを身に纏う女性。
罪をその命を持って取り立てる、死の代行者がライジンの前に立ちはだかった。
「ラウンド2」
だが、相対する男はその困難すらも目を輝かせると、双剣を片手に装備、もう片方を口元に咥えると、力強く駆け出した。
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