#152 ハウジング・ウォーズ! その一
アップデート当日。現在、アップデートに伴うメンテナンス中なので、フレンド同士で会話できるチャットルームで待機している。
残りのメンテナンス時間は後十分。頭上を見上げると表示される時計を見ながら、深呼吸すると、後ろから肩を叩かれる。
このチャットルームに参加出来る人間は限られている。という事は……。
「よう村人。今日は早いな」
「開幕ダッシュを逃すとライジンに何言われるか分からねえからな。前もって準備しておこうと思ってな」
「良い心がけだ」
後ろを振り返ると、ライジンが笑いながら立っていた。
ウォーミングアップするように軽くその場で跳躍を始め、身体を動かし始めたライジンを見て、俺もそれに合わせて準備運動を始める。
目標は俺がA鯖30番地、ライジンがR鯖30番地、ポンがP鯖30番地といった具合だ。
誰が一番最初にログインすることが出来、駆け出す事が出来るのかは分からない。
こればかりは天運に左右されてしまうが、出来る事はやっておくべきだ。
と、その時誰かがこのチャットルームに入ってきた事を知らせる通知が鳴り響く。
「ご、ごめんなさい!遅れました~!あう!」
慌てたようにチャットルームに入ってきてそのままこけてしまい、地面へと顔面スライディングしたポンを見て、思わずくすりと笑ってしまう。
「ようポン。昨日はよく眠れたか?」
「いたた……。はい、ぐっすりと。村人君こそ、あんまり眠れてないんじゃないですか?」
「バレたか。まあ、ある程度睡眠はとれたし大丈夫だぞ」
実は昨日夕飯を食う前にぐっすりと睡眠(気絶)していたこともあり、中々寝付くことが出来なかったが、今のコンディションは万全だ。
あとは実際に走ってみないと、どうなるかは分からない。
「村人、ポン、気を付けろよ。俺達の他にも絶対に同じ考えの奴らはいる。妨害を考慮しておいて、不測の事態にも対応できるようにしておけ」
「勿論。ここにいる三人はあの大会で良くも悪くも目立ったからな。まず間違いなく妨害してくるだろうと思っておくさ」
「はい!私も、追跡をぶっちぎるぐらいの気概で臨みます!」
良いね良いね、テンション上がってきた。
そうだ、さらに盛り上げるためにもついでに
「ライジン、ちょっと調べたいことがあるんだけどウインドウ貸してくんね」
「? ……まあいいけど、どうした?ルートの確認か?」
「まあ、そんなとこ」
そう言ってライジンが飛ばしてきたウインドウを貸してもらい、懐かしい気持ちに浸りながら
「ライジン君、僕は悲しいよ。前回あれだけパスワード付けろって言ったのにやってないのだから君が悪いね」
「ちょっと待て、お前まさかまた……!ああ、くそ遅かった!!」
ブン、とシステムの起動音が鳴り響くと共に赤い円状マークが出現し、ブロードキャストが開始される。
それを見てあっちゃーと嘆くライジンを尻目に、ガッツポーズを作る。
「やあやあお茶の間の皆!久しぶりだね!通りすがりの村人Aだよ!!」
生放送の視聴者数は瞬きするごとにその数字を増していく。コメント欄には『またお前か』『今度は何やらかすの?』と期待しているコメントが流れているので、満足気に頷く。
「今日の放送は我が友ライジンによるハウジング購入RTA!皆、絶対に見逃すんじゃないぞ!」
コメントも人数が増える毎にその速度が加速していき、
「OKOK、皆元気があってよろしい!勿論、飛び入り参加もOKだぞ!ライジンのRTA記録を阻止したい人間は『R鯖のハウジングエリア、30番地』まで駆けつけてくれたまえ!それでは通りすがりのお兄さんはフレに呼ばれたから失礼するね!」
「待てコラ逃げんな、かくなる上はお前も道連れ……!あっちょ、ウインドウ操作早ッ!?」
「ではでは!みんな期待して見ててくれよなー!!アデュー!」
そう言って俺はチャットルームから退出し、すぐにSBOを起動したのだった。
「あああああああまたしてやられたアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ライジンさんも苦労人ですね……」
◇
「うひゃーあぶねー、巻き込まれるところだったぜ……」
実際には浮かんではいないが、額に浮かんだ汗を拭う仕草をして、一つ息を吐いた。
視界の端にライジンが叫び声を上げている様子が配信されており、にっこりと笑顔を作る。
「よしよし、これでヘイトを向こうに固めておいて、っと……」
ライジンの生放送の影響で、R鯖は絶賛10万人が接続待機している状況みたいだ。生放送上でライジンが頭を抱えているから後で慰めの言葉をかけてやろう。俺がやったんだけどな!!(害悪)
さてさて、A鯖に接続っと……って、これは……。
「ログイン待機、3万人……?」
思わずうわぁと思いながら目の前に表示された数字を数えなおす。
休日の昼間という事もあるのでこの人数が待機しているのだろうが、このサーバーだけでこの人数なのだから末恐ろしい物がある。
勿論、全員が全員、ハウジング目的で来ているわけではないから、実際この人数の何人程が走るのかは分からないが多くて三分の一程度は居ると認識した方が良い。
「おっと、後十秒か」
このタイマーが終わったらここからサーバーの処理次第でログインする事が出来るわけか。良いぜ。見せてやんよ俺のリアルラック!さあメンテよ開けろ!ライジンの犠牲は無駄にしない!!
「3、2、1、来い!!!」
ゼロ、と表示された瞬間、画面が切り替わる。
さあ、全力疾走の時間だ――――――!!!
『現在、順次ログイン処理を行っております。貴方は2635番目です』
「うそぉん!?!?!?」
こうして、俺のハウジング・ウォーズは戦わずして幕を下ろしてしまったのだった。
◇
『現在、順次ログイン処理を行っております。貴方は32番目です』
「あぶねえ、俺は何とか滑り込めそうだな……!」
雷人は心の中で安堵していると、すぐに画面が切り替わった。周囲の様子を見回してみると、既に走り出しているプレイヤーがちらほらいる。このままでは、土地を取られてしまう恐れがある。
「行くぜ、【灼天】!!」
ゴゥ、と唸りを上げて凄まじい火炎が放出される。順次ログインしてきたプレイヤーがその熱量を浴びて驚いている中、一人ライジンは、獰猛な笑みを浮かべた。
「かっ飛ばすぞ、付いて来れるかな?……【灼天・弐式】!!!」
と、ライジンが立て続けにスキルを発動すると、暗雲が突如として立ち込め、凄まじい落雷がライジンに直撃した。その衝撃波にプレイヤー達が吹き飛び、ライジンの視界に警告マークが表示されるのを見て高らかに笑う。
「ははっ、制限が何だ、俺を捕まえられるもんなら捕まえて見なァ!!」
ギラついた瞳で見据える先は遥か遠くにある30番地の看板。村人Aの策略にハマってしまい、やけになったライジンはナチュラルハイになっていた。そのまま石畳を力の限り蹴り砕くと、凄まじい勢いで加速していった。
◇
『現在、順次ログイン処理を行っております。貴方は340番目です』
「わ、わ、どうしよう!?これってもしかしてもしかしなくてもマズいよね!?」
一人、P鯖に挑もうとしていたポンは、目の前に表示された内容を見て顔を青くしてわたわたしていた。こればかりは運営の匙加減なのでどうしようもないが、彼女の心配性な部分が最大限に発揮されてしまっていた。
どうしよう、どうしようとそわそわしながらうろうろするポンだったが、そうだ!と手をポンと叩いた。
「と、取り敢えず素数を数えて落ち着こう、2、3、5、7……」
えーと、えーっとと指折り数えるポンがログイン出来たのは、その三分後の事だった。
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