#148 もう一つの戦いの予兆
「さて、ロールプレイの時間はおしまいだ。反省会開きまーす!」
「どうしたんですか、急に」
「いやなんか慣れない事ってやっぱ疲れるなぁってさ。ロールプレイだとしてもすげぇ臭い台詞吐いてた自覚あるからさ……」
アラタを無事に村まで送り届けた後、セレンティシアの一角の喫茶店で飲み物を飲みながらぼやく。
情報を得るだけならもっとスムーズに話を進める事が出来た気がするが、つい余計な事を口走ってしまった気がする。
というか五、六歳児に向かってガチ説教するとか人間としてどうなのって話なわけで。
「ああああああMMORPGって難しいなぁ……」
「多分MMORPG関係ないと思いますが……」
頭を抱えて蹲るとポンが苦笑いしながら生暖かい目線を向けてくる。
やめてッ!その視線を向けられると余計虚しくなるッ!
「そういえば、ライジンさんには連絡付きました?」
「多分あいつ寝てると思うよ。普段ならそれなりに早く既読付くはずだし」
そう、折角【双壁】に関する情報を得たというのにも関わらず、考察厨のライジンと連絡が付かないのだ。
という訳で、こうして駄弁りながら反省会を開いているのだ。
「でも、あの対応で100点だったと思いますよ。村人君の本音も混じってるみたいだったのでナーラさんやアラタ君に思いは伝わったと思いますし」
「うううその優しさが今の俺には毒なんだよなぁ……」
正直歴代黒歴史の中でも上位に入ってきそうなキザ台詞だったぞ。そういうキザな台詞はライジンか厨二にでもやらせておけばいいってのに。
だが、当の本人たちは別の事をやっているわけで、今回は俺がその役回りをする羽目になったのだ。もういい、吹っ切れよう。
「ナーラさんやアラタに啖呵切った以上、【双壁】を倒さないと合わせる顔が無いからな。それに、ラミンさんの居場所も掴まないと」
これで【双壁】は倒せませんでした、ラミンさんを助ける事が出来ませんでしたとなってしまったら確実にあの村での俺の評価は底をついてしまう。なんならペテン師で晒し上げられてもおかしくはない。
それだけは回避しなければいけない。
「そうですね。絶対、助けましょう」
そう言うポンの瞳はやる気に満ちている。そんな彼女を見て、こちらもなんだかやる気が湧いてくる。
サイダーに近い謎の飲み物を飲み干してからぼんやり海を眺めていると、ポンが何かを思い出したかのように「あ」と声を漏らした。
「村人君。話は変わりますが、クランって結局どうなったんですか?」
「ああ、そんな話あったね……。ライジンに名前を決めさせるって言って、ネーミングセンスが壊滅的だったから却下して以来か。うーんと、一応仮の名前はあるにはあるけども」
「ちなみに聞いても?」
「変人分隊」
「ああ……」
心なしか残念そうな目をこちらに向けてくるポン。
だってそれ以外に適した名前が思いつかないんだもの。
「別に名前に不満があるわけでは……あ、いや。不満はありますね。変人のレッテルを貼るのはあちらの世界だけで良いというかなんというか……」
「ポンも俺も、現実の姿に近いからな。この姿で変人のレッテルが貼られるのは確かに癪だな」
「まあ村人君は変人かもしれませんが」
「おい」
そこはさぁ!?擁護してくれる場面じゃないの!?
ツッコミを入れた俺に対して、ポンはひとしきり笑うと、目尻に浮かんだ涙を拭いながら。
「冗談ですよ。ほら、今回は串焼き団子さんとかいるじゃないですか。変人分隊は、やっぱりあのメンバーじゃないとしっくりこない気がして」
「そういう事か。確かにそれもそうだな」
確かに、変人分隊はあのメンバーが俺の中でもしっくり来ている。俺、厨二、ポン、ライジン、そして……ボッサン。長い時間同じチームとして活動してきて、実績も残している。
このゲームでは串焼き先輩やらシオンやらをメンバーに加えたクランを設立するならば、名前も変える必要があるのかもしれない。
「でも、どうして急にクランの話を?」
「ああ、そうですね。村人君、明後日に行われるアップデートの話ってご存知ですか?」
「初耳なんだけど」
「やっぱりそうでしたか」
この短いスパンでいろいろあり過ぎて調べてなかったからなあ。そういえばログインするときに公式からのお知らせでアップデートが行われるって文面を見かけた気もするが、内容については確認していなかったな。
「えっとですね。サーデストで家を持つことが出来るのってご存知です?」
「ああ、それなら掲示板で確か見かけた気がするから知ってるぞ。それが何か?」
「その明後日のアップデートで、クランハウスを持てる事が出来るようになるらしいんですよ」
「ほう、それで?」
「折角だし、出来ればいい立地の所を確保しませんか?ってお話をしたくて」
「なるほどな」
ハウジングか。戦闘に明け暮れていた俺からしたら中々縁のない話だと思ってたが、確かにクランメンバーで過ごす事が出来る共有スペースがあってもいいかもしれない。この前の大会でもそれなりな成績を残したせいでこのゲームにおける村人Aの知名度も上がってきている。
ログアウトしてからずっと出待ちされてPKとかされたりしたら嫌だし、持つ意味は十分にある。
「ただ、この前ライジンさんにこの話をしたらこういうMMORPGって、土地確保の戦争っていうのがあるらしくてですね」
「戦争?」
「アップデートのメンテナンス開けに、スタートダッシュを決める他プレイヤーとのログイン戦争。それを勝ち抜いた後に、土地確保のために一等地に建てられている看板まで行ってその土地の使用権を購入しなければならないという熾烈なレースが繰り広げられるのだとか」
「何それ怖い」
ええ、MMORPGってそんな怖いコンテンツ抱えてたの……?確かにAimsでもアプデ直後は武器素材や新武器が高騰しやすいからマーケットで価格戦争とか起きてたけども。
「だれが一番早くログイン出来るか分かりませんし、あらかじめ打ち合わせをしておきません?ライジンさんも交えて」
「良いよ。でもそれなら一日中ログインしてる厨二にも声かけておいた方が良くないか?」
「ああ、一応声を掛けはしたんですが、『ボクは群れない一匹狼なのサ……』と言っててですね」
「あいつクラン入れないで良いよ」
「そ、それは流石に可哀想というか……」
しかし、厨二の野郎。絶対めんどくさいからだろう。土下座の件も結局やらずじまいだったし、ここらで何かペナルティを課した方が良い気がするんだが。
「まあ厨二は戦力にならないとして、いつもの面子で機動力に優れているのは……」
俺は割とAGIにも振っているからそれなりの速度で走れるかもしれないが、やはりAGI特化のプレイヤーに比べたら見劣りしてしまうかもしれない。
そう考えるとレベルが低い串焼き先輩、シオンは却下だろう。
となると、ポンとライジンか。この二人なら間違いなくトップレベルの機動力を持っているからな。
「あ、お金関係ってどうすればいいの?」
「一応クランを設立すると、クランの共有財産みたいな感じでどこでもお金を預ける事が可能になるので、そこにお金を入れておけばいいみたいですよ」
「それで一番初めにログインしてその看板の前にまで辿り着いた人に支払ってもらう、って形式か」
「そういう事です」
よし、厨二には全財産共有財産にぶち込んでもらおうか。(黒い笑み)
「場所は目星付いてる感じなんだ?」
「あらかじめ下調べは済んであります。後は、どうやって走るかなんですよねぇ」
そう言って悩みこむポン。そんな彼女を見て、思わず首を傾げてしまう。
「なんで
「……え?」
俺の発言に、ポンは戸惑ったような表情を浮かべる。それに対してニヤッと笑みを見せると、人差し指を立てて。
「ポンは【
自信満々に俺が言い放つと、ポンは苦笑いを浮かべながら手でバッテンを作った。
「街中の危険なスキル使用は警備員に逮捕される可能性があるのでダメです」
そっかー、駄目かー。
でもバレなきゃ問題無いのでは?
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