#136 大体後になって気付くいつの間にか手に入れてたやべー奴


 場所は変わってサーデスト。

 謎の空間から帰ってきた俺とライジンは地面に降り立つと、緊張していた空気から解放された影響かぶはぁ、と息を思い切り吐き出した。


「情報量が多すぎる……!!!」


「いや本当にそれ過ぎる、物語の核心に触れすぎだろ……!!」


 ライジンが心底疲れたように頭を抑え嘆くように呟いたのでそれに同調する。


 粛清の代行者の正体、そして【粛清】。どちらも憶測程度の情報しか得ていなかったのにも関わらず、あの謎空間ではその二つの有力過ぎる情報を得る事が出来た。

 正直な所、黒ローブの存在自体が謎に包まれているので、正直情報が正しい物かどうかは分からない。

 だが、それでもこのゲームをプレイしている中で一番信憑性があるのはあの空間で得た情報で間違いないだろう。


 心なしかやつれたような表情でげんなりしているライジンは、ウインドウを操作し始める。


「わりい、ちょっと情報整理も兼ねて一旦落ちるわ。考察動画用にも情報をまとめておきたいし」


「了解、俺も精神的な疲労が凄いから多分すぐ落ちる」


 それほどまでにあの空間で得た情報はあまりにもこのゲームのストーリーにおいて重要な部分を占めていた。そしてその情報を独占するという優越感と予期してなかった重責は、精神をすり減らすには十分過ぎる。

 この情報を開示するかどうかはライジンに任せる事にしよう。情報を独占しようにも限界はあるし、どっちにしろ【龍王】を止める事が出来なければ壊滅するのは今自分が立っている街だ。


 ライジンがポリゴンへと変わっていくのを見届けてから、俺はさながらゾンビの行進のようにふらふらとした足取りでとある所へ向かう。



「宿屋、使うかぁ……」





 SBOというゲームにおける宿屋の立ち位置は、単純にHPやMPの回復の為という事もあるが、リスポーン地点の更新も行えるという利点がある。といっても、宿屋に直接リスポーンするわけではなく、宿屋を利用した街の広場にリスポーンするようになるのだが、それでも拠点に置いておきたい町の宿屋を使っておくとゲームをプレイするのに便利ではある。

 また、プレイヤーホームを持っているとリスポーン位置を固定できるとの噂だが、まだ家をこさえるには資金が足りない。いつかは所持したいものだが、まだメリットらしきものが明確に無いのでしばらくはこのまま放浪しながら拠点を転々とする方が良いと考えている。


 サーデストの商店街の一角の宿屋に入ると、そのままチェックインを済ませて自分に貸し与えられた部屋へと向かう。そして部屋に入るや否や「あ゛ー」とうめき声を漏らしながらうつ伏せにベッドへとダイブした。

 そしてそのまま深く息を吐きだして、深呼吸。まだあの空間に居たときの緊張感と高揚感が残っているので、まずは精神を落ちつけよう……。

 呼吸する度に香る柔軟剤の香りが、不思議と心を落ち着かせてくれた。

 

 そのまま三十秒ほどベッドで死んだように硬直。取り敢えず今は何も考えたくない……。

 取り敢えず休憩してからじゃないと考える事も考えられねえ、考察の領分はライジンだ。彼に任せておけばきっと整理してくれることだろう、多分。(適当)


 ベッドの上で回転し、仰向けになると、ふとある事を思い出して「あ」と呟く。


「そういえば大会の本選の報酬、招待状に気を取られ過ぎてまともに確認してなかったな……」


 1st TRV WAR本選の報酬。ライジンと共にログインしてすぐにサーデストへと向かった為、報酬の詳細についてはしっかり確認してなかった。予選であれだけの報酬が得られたのだ、きっと本選もそれなりに良い報酬が貰えるのだろう。


 そう思い至り、メールボックスを確認。運営からの大会報酬のメールがあるのを確認し、メールを開封する。



――――――――


【Tournament Reward】


1st TRV WAR 本選の報酬が配布されました。

獲得した報酬は以下の物になります。


【スキル生成権】x3【スキルポイント】x200pt【1000000マニー】【星海の髪飾り】【星海のブレスレット】【星屑の欠片】x5【星屑のインゴット】x3【招待状】x1【1st TRV WAR 準優勝】


――――――――



「またスキル生成権貰ってるんだけど……?」


 これでこの大会で得られたスキル生成権は全部で9つだ。スキル生成権は貴重という話だったのにあまりのインフレに乾いた笑いが漏れる。

 とはいえ予選ではMVP、本選では準優勝と大会で優秀な成績を残したからこその恩恵であり、それを手放す気など毛頭ないが。


 それにしても明らかに上位陣に有利なコンテンツ、それもあの黒ローブの思惑なのだろうか。


「ああ、今は黒ローブの事は置いておこう……」


 折角休憩の為に宿屋に入ったのにこれでは意味が無い。頭を振って思考から黒ローブの事を追い出すと、ウインドウを動かして報酬の詳細を確認する。



【星海の髪飾り】耐久度∞


星海の海岸線に打ち上げられた隕石の破片から摘出された鉱石を使って作られた髪飾り。特殊な鉱石の不思議な力によって、身に着けた者の俊敏性と筋力を増す。


AGI+30、STR+10


【星海のブレスレット】耐久度∞


星海の海岸線で極稀に見かける星屑の欠片をあしらったブレスレット。幾億もの星々の破片に込められた不思議な力により、身に着けた者に幸運をもたらす。


LUC+40



「ぶっ壊れじゃねーか!!」


 デジャブゥ!!予選の時も大概強い装備だったけど、本選で得る事が出来た報酬はそれを上回るポテンシャルを秘めている装備だった。どちらかと言うと均等だが優秀なステータスボーナスを得る事が出来た予選の装備に対し、今回得た装備は一点特化の超強力な装備だった。AGIに重きを置いている装備を手に入れたのはありがたい。今後、弓使いとして活動していくには機動力が課題だからな。


 取り敢えずこの二つの装備は優秀過ぎるから装備確定、次は肝心のステータスだ。

 本選でどれだけ成長できたのだろうか。期待に胸を膨らませてさあレッツステータスオープン!!




――――――――


PN:村人A

メインジョブ:狩人(弓使い) Lv.50【上限に到達しています】

スキルポイント残量:242

スキル生成権:4回

ステータスポイント:35

所持金:3486910マニー

HP:136/136

MP:75/75

STR:110

DEF:10(+70)

INT:10

MGR:10(+60)

AGI:90(+30)

DEX:65(+3)

VIT:40

LUC:50

スキル:【弓使いLv10】【近接格闘術Lv10】【跳弾・改Lv7】【鷹の目Lv8】【遠距離命中補正Lv10】【戦線離脱Lv7】【バックショットLv10】【野生の心得Lv6】【チャージショットLv8】【不屈の闘志Lv5】【ランナーLv6】【跳弾Lv10】【フラッシュアローLv7】【自動装填Lv5】【集中Lv5】【狩人の意地Lv3】【処刑人Lv3】【格上殺しLv3】【空中床作成Lv3】【矢・形状変化Lv3】【爆速射撃Lv5】【終局の弾丸Lv2】【運命の鎖Lv2】【二連射Lv2】【狩人魂Lv1】


――――――――



生成権の謎の追加枠、ジョブレベル最大、スキルレベル、新規獲得スキルetc……。



「どうしてこうなった」


 OKOK、落ち着こうか。……なんでいつの間にレベルカンストしてるの?確か予選終了時にはレベル43だったはずだよな?なんで急にレベル7も上がってるの?経験値インフレ凄くない?


「ああ、頭痛増してきた……このまま寝てログアウトするか……」


 大量の情報を得た後にこの情報量は流石に俺の頭が持たない。ちょっと時間を空けて詳細を確認しておこう。そうしよう。


 ベッドに仰向けになったまま目を閉じると、段々と意識が遠のいていく感覚を覚える。

 そしてそのまま睡眠に落ちる形でゲームからログアウトした。




 むくり。


 頭からデバイスを取り外し、ぼんやりとした意識のまま視線を左右させる。そしてARデバイスを起動して時刻を確認。夕暮れが窓から差し込み、時刻は18:00を指していた。

 そろそろ飯でも食うかとリクライニングチェアから身体を起こすと、ずきりと頭が痛む。ゲームからログアウトしても頭痛は止みそうにない。ああ、カップ麺作るのもだるい……でも腹は減っている……どうしたものか……。


「デリバリーでも頼むか……」


 ARデバイスからインターネットに接続し、ピザの配達サービスへと接続したその瞬間、優しいベルの音が鳴り響く。

 ふらふらとした足取りでリビングへ行き、だれが来たのだろうかとリビングに備え付けられたモニターを起動すると、そこに立っていたのは紺野さんだった。


「……あ、こんばんは紺野さん」


『こんばんは渚君。良ければご飯、ご一緒しませんか?』


「……愛してる」


『ふぇあッ!?』


 タイミングが完璧すぎる。もしかして紺野さんはエスパーか何かか?

 ん?所でなんで紺野さんこんなに動揺してるんだ?……頭が疲れ過ぎて何か失言してしまったかもしれない。気を付けないと。お口チャック。


 モニター越しに鍋を持った紺野さんが落としそうになっているのを見ながら、俺は今晩のメニューは何だろうかと思いを馳せるのだった。





「も、もう!渚君、からかうにしても言葉を選んでくださいよ!私の心が持たないです!」


 家へと招き入れた紺野さんが鍋をテーブルへと置くと、ぷりぷりと怒る。

 そんな様子をぼんやりと見ながら、思ったことを口にする。


「……可愛い」


「渚君、さては謝る気ありませんね?」


 顔を真っ赤にしながら、ジト目で紺野さんは俺の事を見る。

 それに対しははは、と薄く笑っていると、紺野さんが何かに気付いたように首を傾げた。


「……あれ?渚君、顔色悪くないですか?」


「あれ、そんな顔に出てる?」


 確かに午前中からライジンとコラボ配信してsnow_menとの対決、午後にはSBOで謎空間で黒ローブから情報量の暴力を受けたためかなり疲弊しきっていた。頬を触り、確かに疲れてるなあと思っていると、紺野さんは何かに思い至ったようによし、と意気込む。


「紺野さん?」


 紺野さんはソファへと向かい、ポンポンと隣に座るように指示してくる。

 突然の行動に首を傾げていると紺野さんは手招きして。


「疲れてるんですよね?……膝枕とか、どうですか?」


 顔を真っ赤にしながら、こちらに向けて微笑んでくる紺野さん。

 一刻も早く休憩が取りたかった俺はこの時何を思ったか、特に問いただすことも無く紺野さんの隣へと向かっていった。


「あ、あれ?まさか本当に?」


「……失礼します」


 紺野さんの返答を待つまでも無く、そのまま紺野さんの膝へ頭を乗せる。ふわりと香る優しい甘い香りと、柔らかな太もものダブルコンボは、急速に俺の意識を奪おうとしてくる。

 そして、紺野さんがひとしきりオロオロしていると、やがて諦めたように手を乗せて髪を梳きながら撫でてくる。


「……おやすみなさい」



 そしてそのまま、俺は飯も食わずに眠りについたのだった。


 


────

【おまけ】



(からかわれた仕返しに冗談を言ったらまさか本当にすることになるとは……)


唯はそのまま自分の膝の上で寝ている渚の事を見下ろすと、ふふっと優しく笑う。


「余程疲れてたんですね。ぐっすり寝て……なんだか可愛いです。そうだ、寝顔を撮っておかねば……えへへ」


そのままARデバイスのカメラアプリを起動し、写真を撮る。パシャっとシャッター音が響き、すぐに唯は「あっ」と声を漏らすが、撮られた本人は目を覚ます気配はない。ふぅ、と胸を撫で下ろすと、唯は優しい笑みを浮かべる。


「こちらに引っ越してきてから毎日が楽しいです。渚君、本当にありがとうございます。……ふわあ、私もなんだか眠くなってきちゃいました」


あくびを一つ漏らすと、唯もうつらうつらと舟を漕ぎ始める。


「おやすみなさい、渚君」







鍋「」

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