#128 変態スナイパーの対抗策


 ――――【Hands of Glory】というアメリカのプロチームがある。


 FPSというジャンルにおいて、その名を知らない人など居ない程、そのチームの名は世界に轟いている。Aimsというゲームにおいてもそれは例外ではなく、昨年開催されたAimsWCS世界大会においても世界優勝の座を勝ち取ったチームだ。

 しかも、殆どの試合がコールドゲームという化け物染みた成績を残している。唯一食らいついていた準優勝のドイツのチームである『Ansturm』でさえも、6ラウンド先取の試合において2ラウンドしか試合に勝利することが出来ないという程の圧倒的なまでの化け物プロチーム。

 噂によると、相当優秀なFPSプレイヤーを直々にスカウトして集めている精鋭チームらしく、そのスカウトを受けるべく努力するFPSプレイヤーも少なくはない。かくいう俺も、一時期は目指していた時期があったが圧倒的にプレイ時間と経験が不足していたから諦めた。


 話を戻そう。

 【Hands of Glory】……HOGには数多くのゲームの部門が存在し、ストリーマー専門の部門も抱えているらしい。Aims部門で目立つプレイヤーと言えば全武器種合計キルスコア数世界一位の『Ashley』。アクロバティックな動きで翻弄し、AGIブッパの弾丸突撃型プレイヤー、SMG及びナイフキルスコア一位『EG』。正確なエイムと的確な立ち回りで相手を追い詰める実力派ストリーマー『Beck』などなど。


 そして化け物染みたプレイヤー達の中で、更に突出した二人の天才プレイヤーが居る。


 HOGというチームの指令塔、天才的な『読み』の精度であらゆる戦況を網羅し、その場での最適解を導き出してチームを常勝させ続けている『Hawk moon』。あらゆる武器種を使いこなし、機械染みたリコイル制御と反射神経に人力チートとまで呼ばれている。厨二でさえも彼の前では否応なしに格の違いを見せつけられた。


 そして、俺の憧れであり、跳弾砂を始めようと思った切っ掛けである原点……『snow_men』。跳弾スナイパーという変態技術を世に広めたのがこの人が元であり、その精度も折り紙付き。跳弾スナイパーという変態技術だけでなく、単純な射撃も恐ろしい程の命中率を誇る。また、4000mという化け物染みた超長距離狙撃を成功していたりなど、記録保持者レコードホルダーとしての一面も存在する。

 ちなみに、他プレイヤーは大会などで顔が割れているが、唯一この人だけはリアルに関する情報が少ない。大会に参加してもフルフェイスヘルメットを装着し、発声する際にはボイチェンを使用している為性別すら不明。なんかミステリアスな感じで俺は凄い好きです(個人の感想)



 さて、今回そんなHOGというチームを紹介した理由。


 それは、今しがたライジンを狙撃したプレイヤーが。




 HOGの変態スナイパー……『snow_men』であると確信したからだ。






「ポン!すぐに体勢を立て直す!ライジンのタグを回収して即座に階下に逃げるぞ!」


「――――了解!」


 薄々ポンも気付いて居たのだろう、俺の指示に一切疑問を投げかけることなく、ライジンのタグを拾うと俺の後ろを走って付いてくる。

 階段へと差し掛かった次の瞬間、窓の外から高速で飛来してきた何かが壁を跳ねた。独特の金属音を響かせながら跳ね続けるのは……銃の弾丸。


「狙いは俺か!」


 跳弾の挙動から狙いを理解し、駆け降りていた階段を一気に飛んで射線上から回避する。

 ダァン!!と猛烈な着地音が響き、その衝撃で痺れ、思わず着地したままの体勢で三秒ほど硬直する。


「ぐぉぉぉぉ足腰に来るゥ……!!」


「そんなおじいちゃんみたいな!」


 いやだってポンさん、割と洒落にならんからダイブしてみ、十五段飛ばしは流石にきついっす。ゲームだからこそ出来る無茶であってリアルでは絶対やっちゃいけないぞ、確実にどっか逝く。

 

「ぐぉぉぉ蒸しキノコさんスパチャセンキューな……!」


配信者ストリーマー魂凄いですね!?」


 視界の端っこの高速で流れるコメント欄にスーパーチャット……いわゆる投げ銭が行われたのを確認して感謝のコメントを述べるとポンが驚いた表情で叫ぶ。

 だってわざわざ俺の為に投げ銭してくれてんのよ……?そのお金で美味しい飯を食えば良いのに好意で投げてくれてるんだから感謝するしかないじゃない。やった!やった!今夜は焼肉だ!


「しかし、今の跳弾……!もしかして、あの人ですか!?」


「ああ、狙撃だけならまだ確定は出来なかったが、跳弾まで使ってくるとなると確定であの人だろうな……!」


 今の射撃で九割ぐらいだった予想が十割に変わった。世界最高峰のスナイパー使いのトッププレイヤー、『snow_men』。憧れの存在との対決だ。あの人の放送は毎回必ず視聴しているし、montageでも出ようものなら投稿された瞬間に視聴するレベルで大ファンだ。いつ見てもあの人の射撃化け物なんだよなぁ……。2000m先の標的を跳弾で倒すとか頭おかしい(褒め言葉)


「というか今気づいたけどライジンが死んだせいで視聴者が一気にこっちに傾いたんだけど」


「あはは……まあいいじゃないですか。ここぞとばかりにチャンネル登録でも促してみたらどうです?」


 おっ、あんまり自分からそういったことはしたこと無かったからやってみるか。うぇーい、チャンネル登録よろしくぅっと。……あんれぇ登録者数マジで増えてるゥ!?


ライジンの影響力インフルエンサー恐るべし……」


 いや今の数秒で1000人ぐらい増えたんだけどなにこれバグ?予選の映像見直してた時のライジンのイキリ発言はかなり現実みを帯びてたのかー、そうかー(頷きながら)


「と、ふざけてる場合じゃねえ。今の状況を確認しよう」


 一応死角には隠れはしたがいつ次の射撃が飛んでくるかは分からない。普通の狙撃ならまだしも、跳弾を交えた射撃なら条件さえ整えば死角などあってないようなものだ。ここに長時間居続ける事は得策ではないだろう。

 ちらりと見上げるのは上階。屋上に上がってスナイパー対決を挑むのもありだが、snow_menが用いた銃、今の弾の形状的にエキゾチックスナイパーライフルである『ネクサス』を使用しているのだろう。『ネクサス』は距離が伸びれば伸びるほど威力もそれに応じて伸びるというまさに長距離スナイパー向けの武器だ。snow_menにとってこれ以上ないほどの最適解、レアリティではレアに該当するキュボイドで挑むには少々役不足だ。

 そして、漁夫の危険もある。先ほど俺が跳弾で倒したプレイヤーはインカムで通信を行っていた。『アイテムを漁ろうぜ』と発言していたことから、そんなに遠く離れていないのだとは思うが……。


「いや違う、なんでいつまで経っても回収しに来ない?」


 プレイヤーが死亡した時に転がるタグは、このバトルロイヤルのルール上、アビリティ使用権限許可証兼、そのプレイヤーの蘇生権でもある。撃破されてしまったのなら相手に有意義に使われてしまうより早く奪取しに来ることの方が多い。

 だが、いつまで経っても回収しないという事は回収を諦めたか、もしくは……。


「そうだよな、見えてんだもんな、そりゃそうか」


「……??」


 そうだった、ライジンの頭をぶち抜かれた時点で気付くべきだった。ライジンが狙撃されたのはたまたまそこに居たからじゃねえ、、というだけの話なんだ。

 

 そして、上空からかすかに何かの音が聞こえてくる。そう、この音こそsnow_menの鬼精度の射撃を成功させている立役者が奏でる音。


UAVユーエーブイィ……!!!」


 unmanned aerial vehicle。通称ドローンと呼ばれる機械を使い、マップ上の敵を赤点で示すという狙撃兵ぶっ壊れアイテムの一つ。確かUAVはタグ三つで発動できるから……。


『ソルトシティに2部隊降りてます!』


 試合開始時のポンの発言を思い出す。なんてこった、条件整ってるじゃねえか。

 速攻で殲滅して、そのタゲをこちらに向けた、と言うだけの話。


「となると……」


 俺の言葉のすぐ後に再び壁を跳ねて弾丸が暴れ狂う。UAVで見られているという事は、現在位置もおおよそ把握しているのだろう。UAVを破壊しない限りは、このアーカイブから逃げる手段はない。

 姿勢を低くして五回目の跳弾を回避。その後13回目に再び射線に入るからジャンプで対応!

 あーもう脳味噌疲れるなぁ!!


「このままじゃあ埒が明かねえ」


 ――――となると、取るべき策は。


「仕方ねえなあ!そっちからの挑戦状、正面からねじ伏せてやる!!」


 下へと降りていた足を上へと持ち上げ、階段を駆け上がりながら手元のデバイスを操作する。使うのはプレイヤータグ五つ。悪いライジン、尊い犠牲になってくれたまえ。


『【支援物資サプライドロップ】要求開始。現在地に30秒後到着します』


 

 さーて世界最強をぶっ潰しに行こうかぁ!!

 

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