#020 水蜥蜴の洗礼
ヴァルキュリアでは無い粛清の代行者が近日中に登場するという衝撃のニュースを聞いて一時間。
一度ライジン達と解散し、装備作成用の素材集め兼金策を行うため、ポンと共に【リバス渓流】の平坦な草原エリアへと赴いていた。
「ポンって爆弾以外になんか攻撃系のスキル持ってたよね?」
「はい。マンイーター討伐の時に使った【爆裂アッパー】っていうスキルを持ってます。でもこれはデフォルトのスキルじゃなくてスキル生成システムで作ったスキルなんですけどね」
ポンがそう言って微笑むと、俺にウインドウを飛ばしてくる。
【爆裂アッパー】
拳に爆破属性を付与し、アッパーカットを繰り出す。拳の触れた箇所に物理ダメージと爆発ダメージを与えるスキル。
「花火師って素殴り系のスキルは無いの?」
「そうですねえ。多分花火師のレベルが上がれば覚えるかもしれないんですけど、現時点ではまだそういったスキルを覚えていないですね。だからミニボムが無くなってしまうと完全に戦力外になってしまうので早めに習得しておいたんです」
えへへ、とはにかむポン。なるほどね、確かに花火師は投擲アイテムを中心とした遠距離向けの職業ではあるけど、必ずしもそういったプレイングを強制されているわけではない。近距離でも活躍できるようになれば爆風による他のプレイヤーの邪魔にもならないし、単純な火力向上に繋がる。
「ただ、やっぱり威力が高めな反面、消費MPが高いんですよ。ミニボムを使わなくてもそれと同等の火力が出せるようにSTRに振ってますし、そうなるとどうしてもMPに振らないとって気を遣っちゃって……」
確かにそうだよなあ。MPに振らなければスキルを取得しても発動できないという事態になりかねない。そういえば【バックショット】もMP使ったよな?【跳弾】はMPを使わないスキルだったからあまり考えていなかったけど、強いスキルにはMPが付きまとってくるんだよな。
【バックショット】
通常の弓矢の威力が半減する代わりに強いノックバックを発生させるスキル。
このスキルはライジンとの検証で用いたスキルである。確かに吹っ飛ばし目的なら十分なスキルだし、MPを消費するのにも納得がいくスキルだ。威力減衰に加え、十回以上の【跳弾】による威力減衰によりほとんどダメージを負う事無く吹き飛ばし緊急回避を行うことも可能なのだ。まあ今のところ嫌がらせにしか使ってないけども。
「低品質のMPポーションでも現時点だと高いからなぁ…」
「一本100マニーですけどちりも積もれば、ですね」
憂鬱そうに二人してため息を吐く。俺とポンはどうしても攻撃に金がかかってしまうのだ。ライジンのように武器だけで事足りればいいのだが選んだジョブである以上、仕方あるまい……。
「取り敢えず殴りだけでモンスター狩りでもしてみるか?」
「さっきも言いましたけどSTRにはそこそこ振ってるので素殴りでも火力は出ると思いますよ。村人君が可能であれば遠距離支援してもらえると嬉しいのですが……」
「ポンはミニボムで金かかるからね。良いよ、俺が弓矢使うから安心して殴ってくれ」
そう言って辺りを見回すと、亀型のモンスターがポップし、辺りを散策していた。
そのモンスターを目掛けて六人ptが詰め寄り、スキルを駆使してあっという間に殲滅する。
「うーん、やっぱこっちは競争が激しいかぁ……」
モンスターの数が多い代わりにその分プレイヤーも多い。モンスターがリポップすればすぐに他のパーティがモンスターを狩るような感じだ。人がいないサーバーに行けばそのようなことも無いのかもしれないが、わざわざそうまでして狩りたいわけでもない。
「ポン、崖エリアの方に行かないか?あっちならそこまで人もいないし、水棲モンスターの素材も気になる」
「確かにその方が良いかもしれませんね……。試しに来たのは良いものの、この様子だと私たちが介入する余地がありませんし……」
どこもかしこも、パーティで一斉に攻撃して仕留めている。数が少ない俺たちの場合だとちまちま攻撃しているうちに横取りされるかもしれない。
一応このゲームの戦闘の仕様としては、横取りされても貢献度に応じてパーティ毎に経験値分配というシステムなので問題は無いのだが、少しでも経験値が減ってしまうと考えると、効率がいかんせん悪くなってしまう。狩り最中に横取りしてくるようなマナーの悪いプレイヤーは少数だろうが、やはり現時点での最前線で戦っているプレイヤーのようになりたいと思うプレイヤーは数多く存在する。少しでも多く経験値稼ぎをするために横取りすることもあるだろう。
「確かこのエリアのエリアボスは崖エリアに生息するモンスターの上位種っていう話を聞いたので参考になるかもしれませんね」
「流石、情報収集が早いな。確かにボス狩りする上で少しでも挙動とかが似てたら初見でも楽になるかもな。じゃあ崖エリアの方に向かうとするか」
そう言って俺たちはこの草原エリアの遥か真上、滝が流れてきている崖エリアへと足を向けたのだった。
◇
「村人君っ!」
「任せろ!」
バシャバシャと水しぶきの音が辺りに響く。緩やかな水流の上で、俺たちは茶色のトカゲ型のモンスターと対峙していた。ポンが先制で踏み込み、その隙の多い横っ腹に向けて鋭い一撃を繰り出すと、反撃の尻尾攻撃を躱して後ろへと飛んだ。
ポンとバトンタッチするように俺がすかさず矢を脳天へと目掛けて打ち込むと、矢はトカゲを貫き、赤いポリゴンをまき散らしながらそのままポリゴンへと姿を転じた。
——————————————
【Battle Result】
【Enemy】 【アクアリザード】
【戦闘時間】 0:42
【獲得EXP】 20EXP
【獲得マニー】 30マニー
【ドロップアイテム】【水蜥蜴の鱗】
——————————————
「よっしゃ楽勝!」
「ですね!」
ポンとハイタッチして勝利の喜びを分かち合う。崖エリア側のモンスター達は、比較的穏便とは聞いてはいたが、こちらが攻撃を仕掛けるまで一切干渉してこなかった。周りにはプレイヤーの姿も見当たらないし、この分なら俺たちでも安心して狩りを続けられそうだ。
しかし、なんでここまでプレイヤーが少ないのだろうか?こんなに安定して狩りが出来るのならもっと人気が出てもおかしくないと思うのにな。数と高度の問題だけじゃない気がする。
「まあ、気にするだけ無駄か」
俺は短く息を吐くと、弓を構え直し、別のアクアリザードに矢を向ける。
「ポン、次行くぞ」
「はい!」
ポンが先に走り出してアクアリザードに拳を振るおうとしたその時だった。
「あれ、なんか他のアクアリザードもこっち向いてないか?」
攻撃するまで我関せずといった態度を貫いていた、付近にいた三匹のアクアリザードが一斉に首をもたげてこちらへと視線を向けたのだ。なんだ、急に。
ポンが目標のアクアリザードを攻撃した瞬間、他のアクアリザード達が一斉に立ち上がり、こちらを目掛けて走り出した。
「うっわもしかしてこいつら仲間が攻撃されると怒るタイプの奴なのか!?」
思わず驚きながら叫び散らす。先ほど討伐したアクアリザードは単体で、周りには他のモンスターが居なかったのだが、今回は状況が違う。
こちらへ向けて走り出した三匹のアクアリザードは何か奇妙な声をあげると、のそり、のそりと地面にあった穴からアクアリザードが這い出して来た。その数、十。そして、出てきたアクアリザードはまた声を上げて増援を要請する。
「おいおいおい、マジか」
仲間を攻撃すると怒るだけでなく、仲間まで呼んでくるという性質を持ったモンスター、アクアリザード。その厄介な性質を持ったこの存在こそ、この崖エリアが不人気な所以でもある。
この洗礼を受けた人間たちは面白半分に、ぜひ味わってもらうべきという悪意により情報をあまり流していない。ましてや
序盤に訪れることが出来るエリアにしては対処が難しい、水蜥蜴による猛攻が今、始まる。
◇
「ポンそっちめっちゃ行った!数分かんね!すまんけど目視だけですぐ判断できん!」
「確かにこの数は分からないですよぉ!」
半ば悲鳴染みたポンの声が辺りに響く。わらわらと無限に湧き上がってくるアクアリザードの脳天を正確に撃ちぬき、数を着実に減らそうと試みるが、倒す数よりも湧き上がってくる数の方が圧倒的に多い。
その様子を見てちっと舌打ちを漏らす。
「ポン!駄目だこれジリ貧だ!どうにかしてやりすごっ!?」
「村人君!?」
噛みついてくるように飛び出したアクアリザードを鏃で貫き、すぐさま放り投げるように振り払う。そうしている間にもアクアリザード達はじりじりと近寄り、飛びつこうと身構える。
「大丈夫だ!ポン、なんとかしてこっちにこい!一度態勢を整えてからじゃねえとうおっ!」
再び飛びついてきたアクアリザードを身を捩ってかわす。駄目だこいつら、会話する余裕すら与えてくれねえ。
「マジできつい!ポン!カムヒア!」
初期位置の問題で、俺とポンはかなり離されている。そのうえ、アクアリザードが次から次へと湧いてくるせいで距離は離される一方だ。どうにかして合流する必要がある。
「ミニボム、いけるか!?」
「ええと、はい!まだストックもあります!」
「よっしゃ上出来だ!取り敢えず俺は気にせずぶちかませ!」
「えええ!?」
「迷ってる暇は無い!この蜥蜴野郎を盾にでもなんでもして生き延びるから遠慮すんな!」
「え、えっと、了解です!」
ポンは迷っていたが、ミニボムを取り出し、【
「行きます!」
ポンがミニボムを放り投げると、アクアリザードの頭上を通過して中間あたりで起爆した。
爆音とともに爆炎と爆風が吹き荒れ、爆発でアクアリザードが消滅するだけなくその爆風によって崖下へと落下していくのが見えた。
もちろん自分もその爆炎に当てられそうになるが、尻尾を掴んで盾にしたアクアリザードが身代わりとなって蒸発する。半分ほどばかりHPバーが減ったのが視界端に映るが上出来だ、こんだけ残れば
「ポン!行くぞ!」
「はいっ!?」
爆発によって消し飛んだおかげで開いた空間を突っ切って、俺はポンの元へと駆け出す。
視線の先はアクアリザード達が這い上がってきた穴。地面に無数存在する中で、
「行くぞポン!掴まれ!」
「ええええええっ!?」
目を白黒させているポンの手を掴み、グイっと強引に引っ張った。
ようやく爆発から立ち直ったアクアリザード達はそんな俺らを再び追いかけ始める。
なんだか楽しくなってきて口角が吊り上がっていくのを感じた。
「高所からの落下だったらすまん!誹りは後でいくらでも受ける!少しだけ我慢してくれな!」
「ええええええええええええっ!?」
グイっと引っ張ったポンをそのままお姫様抱っこし、人間大のサイズに空いた穴へと飛び込んだ。
「ひゃっほおおおおおおおおおおおお!!!」
「きゃああああああああああああああ!!?」
ポンが俺の首にしがみつき悲鳴を上げる。穴の中は湿気やらアクアリザードの体表に付いているぬめりけか何かで滑りやすく、そして斜めに入り組んでいる構造になっていた。そのまま天然のスライダーで滑りやすいように俺は姿勢を変えて、一気に速度を上げながら下って行った。
◇
滑る事数十秒、天然スライダーを滑り切った俺らはその勢いのままこの崖内部の洞窟に落下した。穴から地面まで中々高かったので肝を冷やしたが、なんとか大丈夫だったようだ。
「ポン、生きてるか……」
「はい……なんとか……」
ぐったりとしながら呟くと、これまた力ない声が聞こえてくる。視界端のHPバーは赤くちょろっとだけ残っていた。それを確認して俺はようやく安堵のため息を漏らした。
横たわっている状態からむくりと身体を起こす。
「いやーまいったまいった。まさか狩りをするだけのつもりがあんなモンスターハウスみたいになるなんてな!心臓が未だにバクバク言ってるわ!」
「わ、私もです……。まあ、違う意味でもドキドキさせられましたけど……」
はっはっはと豪快に笑うとポンが顔を赤らめながら呟く。ポンだって女の子だしあれはさすがにやり過ぎた気がするな……。謝らないと。
「ポン、悪かったな。嫌だったら怒っていいんだからな?むしろ殴っても構わないまである。あ、今は殴られると全損しそうだから勘弁だけど」
「べ、別に怒ってないので平気ですよ」
ぷいっと顔を背けるポン。絶対これ怒ってるだろ、やっちまったなぁ……。
「まあ、取り敢えず危機から脱出できたのを喜ぼう。そして脱出手段なんだが……」
「……私、この洞窟について全然調べてないんですよね……」
ですよねー。どうやらこの崖内部の洞窟は入り組んでいて、出ようにも出口が先ほど滑ってきた穴しか分からないし、その穴は上空にある。直角になっている壁を登れと?ロッククライミングスキルでも作ろうかしら。
「はあ、まあゲームである以上、どっかに出口があるだろ」
「そうですね。……ん?えっと、あれってなんでしょう?」
「あれ?」
ポンが何かに気付いたように指を向けるので、そちらへと視線を向けた。そこには赤い二つの光があった。
薄暗い洞窟というのもあるが、純粋に距離が離れているせいでその赤い光がなんだか分からない。
首を傾げていると、途端に赤い光がぶわぁぁっと洞窟内で広がっていった。その様子に、思わずビクッと背筋を震わせる。おいおいおい、まさか。
「村人君、あれって」
ポンが声を震わせながら呟く。ああ、きっとそうだ、言わなくても分かってしまった。
アクアリザード達が這い上がってきていたのは地面の穴からだった。なら、その穴が繋がっている所といったら?
「ここ、あいつらの住処かよ」
顔を引きつらせながら俺がぼやくのと、アクアリザード達がこちらに向けて動きだすのは同時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます