#009 変態スナイパーと緊急メンテ
「さて、ライジン君。早めにセカンダリアに行きたいのだがファウストに何か言い残すことはあるか?」
「なんで死を迫ってる風な言い方なんだよ、どうしたんだ急に」
午後10時。流石に検証も疲れてきたのでポンと一緒に掲示板を眺めていると、ライジンがようやく動画の編集が終わったらしく、インしたので開口一番そう切り出した。
「いやなんか俺原因でいろいろ面倒ごと起きてるっぽいんで夜逃げしたいんすよ」
「本当にどうしたんだ?やらかし体質なのは知ってるけど事を起こすの早すぎない?」
情報収集がてら掲示板を覗いていたら色々と書き込まれていたのだ。名前こそ書いてはいなかったが書き込まれた行動から推測するに俺以外に考えられない。
どうやら始まりの平原での俺の奇行及びスライム大蹂躙が見られていて、しかもその影響でスローター抑制Mobが湧いてしまい、それでゲームを開始したばかりの沢山の新規プレイヤーが狩られてしまったらしい。それだけでなく、先ほどまで行っていた検証、そしてゴブジェネ君との戦闘も遠目から見られていたらしい。
変に噂されて広まったらこのゲームにインすること自体が厳しくなりそうだ…。まあそうなったらAimsに逃げ帰れば良いんだけど。
「結果だけ言うとスローター抑制Mob放置して始まりの平原が地獄と化したらしい」
「……それ大分やらかしてない?」
「いやだって俺そんなもんいるとは思ってなかったし、催促されてファウストに向かったから出会わなかったって言うか……」
「責任転嫁すな」
「僕たちは良いことも悪いことも二人で分かち合う。だってマブダチだもんな!」
「友達辞退してもいい?」
うーん辛辣ゥ。
ライジンも似たような経験があるのか苦笑し。
「まあネトゲって情報出回るの結構早いからなぁ……。変なPKとかに粘着されないうちにさっさと行くに越したことはないかな?俺もアンチ過激派に粘着されんのやだし」
「いやその度に動画化してるやんキミ」
アンチにPKされそうになったので逆に狩ってみた、とかそういった類の動画を。
「いいネタにはなるんだけど流石にマンネリというかさ……。しかも大体粘着する人同じなんだよね。暇なのかっていう」
「アンチは好意の裏返しだぞ、好きでもなきゃ絡んで来ねえって」
「やべえ罵詈雑言吐いてきて殺してこようとする奴に好きって言われたくはないかな……」
まあ確かに死ね!(好きです!)とは言われたくないかなぁ……。
「そういえば動画って言って思い出したけど、村人、お前顔晒して平気なの?まあ
「別にそういうの気にしてねえし。もし仮にプロゲーマーになるんだとしたら顔がっつり晒すだろ?そん時のための予行練習だ予行練習。まあまだなると決めたわけじゃないけどな。それに……」
「それに?」
「ライジン君が勘違いして告白してきたこの顔に不満があるわけじゃないですしぃ?」
「おい、やめろ本気でやめろ記憶の彼方に忘却しろ今すぐ抹消しろ」
俺の言葉に慌てて顔を真っ赤にしたライジンが掴みかかってくる。
俺とライジンが出会った切っ掛け。中学に進学して一人黙々とFPSをやるだけで友達がほぼいなかった俺が、ある日別のクラスだったライジンに告白され、煽り倒しながら笑い転げまわったという思い出がある。……今でも時折その時の事をネタにして弄っている。
ポンはその話は初耳だったのか、耳まで赤くして俺らに何度も視線を往復させる。
「いやだってなぁ!?ぱっと見美少女に見えなくもないだろ!?顔立ち整ってるしあの時はおとなしかったし本当に女の子にしか見えなかったんだって!」
「これ掲示板に投稿したら一発でホモ説確定だよなぁ……。あ、俺はお断りだからなライジン」
「俺もお断りだっての!俺は普通に女の子の方が好きなんだって!」
まあライジンが惚れてる人知ってんだけどね。くっそ分かりやすいし。
「ポンは俺を一目で男だって気付いたよな?」
ニヤニヤ笑みのままポンの方へと振り向く。それに対してわずかに顔を赤くして、そっぽを向きながらぽしょりと。
「…………お、女の子だと思いました」
「あっれぇ裏切られた!?」
そんな馬鹿な!?ポンは味方だと思ってたのに!?
「ほら見ろ村人お前は女の子っぽいんだって。認めなさい」
「そうやって自分を正当化しようとしても過去は変えられないからね、ライジン」
「ちっ!」
と、ぎゃーすか騒いでいる俺らだったが、突然ピンポンパンポーンといったアナウンスコールの開始音が辺り一帯に響いた。急にどうしたんだろうか。
《World Announce:午後11時より緊急メンテナンスを行います。メンテナンス開始10分前には強制ログアウトしますのでご注意ください。お知らせと公式ホームページにてパッチノートを公開していますので修正内容についてはそちらをご確認ください》
「うわ発売初日にメンテナンスとかいろいろ大変だなあ」
「ベータでそれなりに不安要素は解決してたんだけどやっぱり不遇職の扱いとか不満がいろいろあったんだろうね……」
「Aimsの制作班も調整極端だからなぁ……」
同じ会社なら同じ人が携わっていることもあるだろうし。Aimsなんかは何か追加する度に環境変えまくってたからなぁ……。
「パッチノートが公開されているって言ってたよね?確認しとこう?」
ライジンがそう言うので頷いてからメニューを開き、お知らせを確認する。
―――――――――――――――
【修正内容】
・一部のエリアでの粛清Mobの廃止、出現時間の減少、出現までの時間の延長
・敵Mobの出現位置のパターンの変更
・一部ジョブのスキル補正の修正
・一部スキルの弱体化
・弓使いの矢が正常に飛ばないバグの修正
・スキル生成システムの誤作動の修正
・PK側のデスペナルティの増加、受けた側のデスペナルティの減少
・PT内でのFFのダメージ減少
・流通システムの改善
・その他、細かなバグや修正を行います。
メンテナンス終了時刻は未定です。
―――――――――――――――
「緊急メンテにしては内容濃いな」
つか俺に関連する内容がそれなりにある気がするんだけど……。これ監視されてるとかないよね?もしかして俺ブラックリスト入りしてる?
顔を引くつかせてるとライジンがため息を吐いてこちらを見る。
「多分一番上のお前が原因だと思うぞ……」
「それは言わないでくれ頼むから……」
薄々そんな気がしてたんだよぉ!絶対俺が始まりの平原でスローター抑制Mob……いや公式だと粛清Mobって奴か?を出したからじゃん!これ多分被害にあったプレイヤーが報告しまくったんだろうなぁ……。
「というか弓のあの挙動ってバグだったんだね。てっきり仕様なのかと」
「弓使いスキルをレベル10まであげて二分の一の命中率な時点でバグだろうとは思ってたけど身近にそのバグすら使いこなす変態がいたからいまいち実感湧かなかったんだよな」
「Aimsのアレ泥使ってればどんな挙動もへっちゃらさ!」
「あのなんか弾が見当違いの方向に行くスナイパーだっけ?」
「そうそう。運ゲだからこそ当たった時の快感ヤバいんだよなぁ……」
あの当たれば一撃即死という快感が病みつきになる。アレ泥はレアリティもそんな高くないから誰でも手に入りやすい!みんなも試してみてね!(なおほぼゼロ距離じゃないと当たらん模様)
「相当期待されてたから発売を延長する訳にも行かなくて、結局発売までに弓の不具合修正しきれなかったっぽいよね」
「運営さんも苦労しますなぁ」
まあ別に修正されようがされまいが、矢は当たるから気にしないけども。…ちょっと待て、挙動が変わる?
いやいや、そんなまさか。跳弾の反射角が変わるとかそんなアホな事があるわけ。
「スキルの弱体化……あっ、【クリティカルゾーン】に修正予定って書いてあるし…やっぱこのスキル強過ぎたよなぁ」
「それライジンが持ってるスキル?どっから確認した?」
「普通にステータスからスキルをタップすると詳細が見れるじゃん?そこに名前の横に修正予定って書いてあるよ」
そう言われてすぐに手持ちのスキルを確認する。【弓使い】……修正予定。【鷹の目】なし。【近接格闘術】なし。【跳弾】……修正、予定。
最後の【跳弾】の横についた修正予定の文字を確認した瞬間、膝から崩れ落ちる。やっぱ強スキルだもんなぁ…。そりゃ修正入れるよなぁ…。
「その様子だと【跳弾】に修正予定って書いてあった?」
「ソウデスネー」
どう弱体化するのか分からないが、俺のアイデンティティの弱体化というだけでもうガチ泣きたい気分になる。お願いだからそこまで弱体化しないで……!
「多分行動監視システムから跳弾の様子を観察されたんだろうね。いくら何でも狩りが楽になりすぎるから……」
「げっそんなのもあるの!?Aimsみたいにカスタムゲームでの検証みたいなこと出来なくなるのか……」
「一応報告を受けたプレイヤーが
あー、結局町の前で狩りしてた時に仕様の範囲内って言ったのに報告されちゃったのか……。
「まあこればっかりは運営の裁量次第だよね。まあそこまで弱体化しないと思うから安心しなよ。せっかくのスキル生成システムを無駄にするような調整は加えないだろうさ」
「そうだと良いんだけどね……」
ポンが心配そうにこちらを見てくるので何となく心境を察して軽く微笑む。
「まあ心配せずともこのゲームをやめることはないよ。弱体化されたなら弱体化されたでそれすら活かして使いこなしてやるさ」
「そ、そうですか……」
ポンはほんの少し安堵したのか、胸をなでおろしたような仕草をする。
まあせっかくフレンドもやってるゲームだしそんな簡単に引退するわけにはいかないしな。
「まあ今日はこれで落ちて、明日メンテ後にボス攻略していこう」
「私、ベータの時のボス情報を収集しておきます!」
「俺もメンテ内容とか調べておくよ。じゃ、また明日」
そのままメニューを開いて、ログアウトボタンを押し、現実の世界へと戻った。
◇
むくり、とVR機器から身体を起こしてあくびを一つする。
長時間のダイブは身体的にも疲労が蓄積する。今日一日ずっとダイブし続けていたから程よい疲労感が睡眠欲を加速させた。
そのまま寝室へと歩いていき、ベッドに身を投げ出すように飛び込み、すぐに眠りについた。
嘘です跳弾の弱体化が怖くてほとんど眠れませんでした、ハイ。
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