#004 変態スナイパー、スキルを作る。
「シャドウ、スキルの作成はこの場でできるか?」
早速【跳弾】スキルを作成するべく、シャドウを呼び出すとほぼノータイムでポリゴンと共に出現した。
『はい、可能です。現在
「頼んだ。で、俺は何をすればいい?」
『
これが例のスキル生成システムってやつか。なるほど、シャドウはこのスキル生成のために付き添っているのだろうか?
「んじゃあ、頼んだ、シャドウ」
『了解しました。それでは強く思い描きください』
そう言ってシャドウは俺の近くで高速で浮遊し、スキャンを始めた。
俺が強く思い描くはAimsで存在する反射する弾の存在。自分の思い描いた方向に、壁や地面を縦横無尽に駆け回る俺の頼れる相棒。俺を俺たらしめるもの。
『対象解析中……分析中……スキル自動生成システム起動……形成中……形成、完了』
ほんの数秒でシャドウは解析を完了し、俺の手元まで下りてくる。
『スキャニングが完了しました、スキルをご確認ください』
シャドウはそのままポリゴンとなって消え、その代わりにウインドウが表示される。
――――――――
【スキル生成システム】
スキャニングの結果、【跳弾】スキルが作成されました。
この結果で確定しますか?
【YES】【NO】
――――――――
よし、完璧だ。だが、その詳細までは確認できないようだ。名前はその通りでも詳細が確認できないのはちと不便ではあるが、それを許したら厳選されてゲームバランスが崩れるしな……。
一呼吸置いてYESをタップすると続けてウインドウが表示された。
――――――――
【跳弾】必要スキルポイント5pt
投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面を反射するようになるスキル。
――――――――
「はい勝ち申した!!」
「うわうっせ!!」
拳を高々と掲げ、望み通りどころかそれ以上の利益を得れたことを確信して喜ぶ。正直弓だけでも良かったのに投擲アイテム込みとは。これは本当にありがたいスキルだぞ……!幅広く応用が利きそうだ。
「どう、跳弾スキル取れた?」
「完璧完璧。ちょっと試してみるわ」
早速スキルポイントを使い、【跳弾】スキルを獲得する。そして、地面に転がっていた石を拾い上げて木に向かって投げてみる。すると、石は2回木を反射してライジンの頭に直撃した。
「あだっ!?村人お前狙っただろ!?」
「やだなあそんなわけないじゃないか。……試し撃ちは完璧、と。まあ二回反射程度なら誰だって出来るだろうからとりあえず当面の目標は25回以上の反射だなぁ……」
「やっぱり狙ってんじゃねえか!はあ…二回でも結構難しいんだけどな…。つか25回ってお前、チーターどころかチートそのものになるつもりか?」
失敬な。俺だってそれ以上になると計算追いつかなくて滅茶苦茶大変なんだぞ。
「とりあえずの今の限界知りたいし、ちょっとやってみるか?」
弓を構えて矢を放ってみると、弓矢は完全に折れる角度で飛んで行っているのに何故か折れないという面白い挙動を起こしながら反射されていく。と、三回反射し、四回目の反射というところで矢が木に突き刺さった。
「今のスキルレベルだと三回が限度って事か……」
「スキルポイントで無理やり上げることも出来るけど村人なら普段から使うだろうしあっという間にスキルカンストすると思うよ」
ふむ。跳弾は今後絶対使いまくるスキルだろうから上げておいても損は無いのだが、使用回数とかに伴って上がって行くなら貴重なスキルポイントを無駄にしかねないからなぁ…。
「やっぱり弾丸と弓矢だと勝手が違うから挙動の検証とかもしないとなぁ……。いやぁ楽しくなってきましたなあ!!」
リーチも射程も全然違うからAimsの対物ライフルの弾丸とは勝手が違う。跳弾させようにもまた一から計算をしなければならない。ふふふ、検証が捗りますなあ!!
「出た出た検証厨」
「うるさい考察厨。自己研鑽は良いことだぞ」
貴重な弓矢を回収し、矢筒に入れる。さて、先ほど地面に撃ったものと今回反射で使ったので残りの8本すべてが再利用回数が残り一回となってしまった。これ以上無駄撃ちしたら勿体ないな……。
「じゃあ俺は石ころで跳弾のスキルレベル上げするからライジン前線でガンガン狩ってくれ」
「はいはい。ポンもしっかりついて来いよ」
「は!私、すっかり空気だったので忘れられてるものかと思ってました!」
石ころを回収し、ポケットに詰めていく。ライジンはツインダガーを握り直し、ポンはミニボムを握った。
「「ポンは
「はい……」
しょんぼりするポンを尻目に、フェリオ樹海の探索を再開した。
◇
「あ、すいませんお二人とも。ちょっとこれから用事があるので一旦落ちますね」
「あら、もう落ちるのか?」
狩りを始めて一時間。ゴブとスライム、時々レッドボアという猪を狩り続けた結果、レベルは8まで上がり、跳弾のスキルレベルは3まで上がった。マニーもそこそこ稼いだし、これなら替えの弓も余裕をもって買えるだろう。狩りが終わって一時的にファウストに戻ると、ポンがそう切り出した。
「ええ。ちょっとした野暮用で……。また夜にはインしますので……」
「おっけー。またインしたらメッセ飛ばしてくれ」
「あ。その前にこのゲームでのフレ登録しませんか?」
「了解。ほれライジン、お前もしとこうぜ」
「俺はもうポンとフレ登録してあるよ。お前がチュートリアルエリアで苦戦している間に」
「いつも一言多いんだよなぁ……」
そう言いながらポンにメニューのフレンド依頼を送信すると、すごく嬉しそうな表情でポンが承認する。え?なんでそんな嬉しそうなの?やだなんか照れる。
「え?村人俺は?」
ライジンがつんつんしながら構ってほしそうな表情を浮かべているのを見て、俺の心の中の悪魔が囁いた。
「定期的に煽り入れてくるやつとはフレンドになりたくないかなぁ……」
「えっちょ、マジな表情やめてくんない?つかお前も煽り返してくるやん」
「てへ」
「てへじゃねえ不安にさせんな」
なんだかんだで仲がいい俺らは毎度こんなやり取りをしている。おいそこライジンアンチスレ内のホモ説浮上スレを声に出して読むんじゃない。あれ俺も被害者なんだからな。
「それではまた夜インしますね!それでは!」
「おつおつー」
ポンがメニューを操作すると、その姿が黄色い粒子となって消えて俺とライジンが残された。軽く手を振ってポンを見届けてからボロボロの弓を手に取ってライジンの方へと振り向く。
「武器屋行きたいんだけどどこにあるんだ?」
「こっから南西に歩いたところにあるよ」
「案内よろしく、シャドウ」
『お任せください』
「やっぱり俺じゃないんかい!」
シャドウの案内を元に、ライジンが言った武器屋へと歩き出した。
◇
SBO内の武器屋を含むショップ類は基本的に価格が固定というわけではなく、仕入れ先の状況、プレイヤー達の武器の売買によって価格が変動するというシステムらしい。なので人気ジョブや需要の高い消費アイテムなどは仕入れ次第で高騰するし、その分売却値も高くなる。しかし、流石に売り切れによるプレイヤー間のごたごたを避けるためか、売り切れは存在しないし、価格も一定値に達するとその価格以上にはならないらしい。(ライジン談)
「ってことは
「なんか言い方に凄いトゲ無い?」
ライジン君からジト目で見られました。僕はいい子なので無視します。
「んで、逆に俺は不人気一位のジョブだから購入の値段は安値ってことか」
「いや、そうとも限らんぞ?」
「は?いやまたまたご冗談を」
「一応さっきも伝えたはずなんだけどなあ……。
「うそーん……」
不遇職はそういったシステム的優遇ぐらいあるかと思ったけどそんな慈悲は無かった。そもそも弓が当たらん時点で優遇なんてあるはずがなかったわ。ここまで酷いと運営の関係者弓使いに何かしら恨みがあるのを疑ってしまうぞ。
俺は少しびくつきながら武器屋の店主の前に行く。
「あのー武器を購入したいんですけど」
「にいちゃん弓使いかい?すまんね、入荷が少なくてちょっと高くなってるけど我慢してくれ」
はぁー、いくらぐらいになってるのかねえ。嫌だなあ、見たくないなあ。予算は2300マニーちょいだからあんまり減らされたくないんだけど……。
「木の弓、木の弓っと……」
大量の武器が表示されたウインドウをスクロールしていく。確かライジンが言ってた値段だと800マニーだっけか?それでも高い……!?
「1500……マニー……だと……!?」
やったーライジンが買い物に来た時の二倍近くの値段になってるー。うふふ、しんどいなあ(白目)
「なあライジン。俺決めた。引退しまーす!やってられっかこんなクソゲー!」
「おい早まるな楽しくなってきたところじゃねえか」
俺がメニューを操作してログアウトボタンを押そうとしたところをライジンが止めた。
「なんでこの運営はマジで狩人に対して辛辣すぎるんだよ……」
「近々パッチ入ると思うからそれまで耐えてくれとしか言いようがない…」
俺は半泣きになりながら木の弓を購入する。はー散財散財!こんな豪遊してていいのだろうか。(木の弓買っただけ)
「ま、毎度あり……。あぁ、その、なんだ。今度からうちの店では安く売ってやるから、な?そ、そんな悲しそうな顔しないでくれよぉ……」
この世の終わりのような顔をしていたら武器屋の店主に同情されました。ふむ、なるほど。独自の思考を持ったAIっていうのは凄いな。プレイヤーの感情まで繊細に読み取ってそのケアまでしてくれるなんて。これは他にも使えるな(あくどい笑み)
俺が邪悪な思想に取りつかれていると、ライジンがため息を吐いた。
「なにその同情商法……」
「あ、すっげ全部20パーセントオフになってる……」
これ特殊イベント的な奴なんだろうか?これ情報出したら高値で売れそうだな。発生原因分からんけど。
俺のウインドウを覗き見たライジンが、目をぱちくりさせる。
「うわずりい、俺もツインダガー買うときお前のような感じの表情すれば良かった」
「いや表情で左右されるイベントじゃないと思うぞ……」
流石にAIもそこまでアホじゃないだろ。……アホじゃ、ないよな?
と、その時だった。
「おっと」
「どうした?」
周りの人には聞こえていないであろうベルの音が鳴り響く。これはVR機器に取り付けられている機能で、現実と完全に感覚をシャットアウトしてるので来客が来た場合のために家のインターホンとVR機器を直接接続できる機能だ。ということは自分の家に来客が来たということだ。
「来客。うーん、アマゾネスでなんか頼んだ覚えないんだけどなあ」
「セールスとかだったら最悪だな」
「まあちょっと出てくるよ。ライジンはしばらく買い物でもしてて」
「了解」
急いでログアウトボタンを押し、SBOの世界から俺は離れていった。
◇
「う…ん」
RPGの世界からマンションの自室へと景色が変わった。
長時間の使用でも身体の負担にならないように座り心地が良い材質で作られたリクライニングチェアタイプのVR機器から身体を起こすと、首をゴキゴキと鳴らし、ぐいっと身体を伸ばした。
「あー、カップ麺ついでに食っとこ」
コンビニで買ってきたカップ麺をテーブルに置くともう一度インターホンが鳴った。
「はいはーい、すいません、今出まーす」
危ない危ない、忘れるところだった。
慌ててリビングに備えつけているモニターの電源を入れて玄関の様子を見る。
「どなたでしょう?」
『先日お隣に引っ越してきた
ああ、そういえば隣に引っ越してきている人がいたなぁ。そうかそうか、ご近所付き合いは大切だからね。変な印象与えないようにしないと。第一声が大事。
紺野さんと名乗る女性は、少し幼げながらもきちんと女性とした魅力を携えた美少女……おっと、柄でもなく実況しかけてしまった。
ん?待て?ちょっと待て。この人、見覚えあるぞ。
どこでみたんだっけ……?そうそう、こんな美少女見ないはずなんだけど……。
あ、もしかして。
「………………………ポン?」
頑張って思考をふり絞った結果、俺は間違えたら恥ずかしい上に、第一声がそれかよと思う発言をしてしまったのだった。
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