第24話 ゲンカイジャー、NewTuberとも戦う①

「さてさて、そういえば皆さん。政府からの発表ご覧になりましたか? どうです? 信じられます? 僕はちょっとなぁ。やっぱりいきなり言われても無理のある設定っていうか、異世界でしょ? 僕も持ってますよ? ラノベとか漫画とか映画にアニメ。擦り倒されて来た題材ですよ。にわかには信じがたいっていうか。この目で見ないことには信じられないでしょ。もう、政府がゴブリンとか言い出した日には大丈夫か、この国? とか思ったんですけど」


 都市伝説や、怪奇現象、陰謀論に社会の闇。それらの真相を軽妙な口調で暴く、というのがこのNewTuber、白馬はくば 王子おうじのスタイルだった。その歯に着せぬ物言いと、端麗な容姿をもって今や界隈では絶大な人気を誇るNewTuberである。


「名前がもうフザケてるでしょ。ギリギリ戦隊って。さすがに小学生で卒業しないと。いや、今日日小学生でも見ないか」


“この国の政府のやることは信用できない”

“あんな胡散臭い動画を公式認定するとか”

“戦隊はさすがに無いよなぁ”

“これにもやっぱり裏側があるんですよね”


「コメントもたくさん来てますね。ウチの視聴者さんは九割方嘘だと思ってます。賢明だと思いますよ。普段から僕の動画見てくれてるからね。やっぱ、世間の雰囲気にズルズル流される愚民とは一線を画すって言うか。350万人の登録者の皆様はちょっとやっぱり見る目が違うよね」


“今日もイケボイケメン”

“本気の提言助かる”

“なんでみんな騙されてるってわかんないかな?”


「僕は絶対、信じないし騙されない。むしろ、闇を暴きたくてうずうずしてるんでこの件に関しては」


“期待”

“王子様ならやってくれると信じてた”

“投げ”

“支援”


「あ、スパチャありがとうございます。ギリギリ戦隊ゲンカイジャーの裏側を暴く動画、楽しみに待っていてください! ご視聴ありがとうございました~」


 白馬は驚愕していた。時事のネタを取り扱ったとは言え、同接はいつもの倍近い。チャンネル登録者数も見る間に跳ね上がっていく。


「なんだこれすげぇ!」


 政府なのか、巷を騒がすヒーローなのか。何にしても巨大なコンテンツになればなるほど必ずアンチは発生する。今回の様に賛否両論の話題には中間層が多く存在するが、白馬はそういう“どちらかというとそう思う”“ややそう思う”層を引っ張り、掌握する操心術を心得ていた。


「調査費用とか言っとけば金を投げてくれる連中もいるし、最高じゃねーか」


 闇を暴くと言っても、白馬が白黒つける話題はほとんどない。証明のしようのない事を問題提起し、もっともらしい結論を提示すれば後は視聴者が勝手に補完して自己解決してくれる。多少の炎上は既に経験済みだし、謝罪してみればそれすら評価してくれる奴らもいる。今回の件は白馬の名を売る絶好の機会と言えた。


「ギリギリ戦隊か、またバズっちゃうかもな……フフフ」



  ☆☆☆



「御機嫌よう! アーサー・ヒルデ・ヨルンである。今日は緊急配信だ! 私は怒っている! 地球が危ないというのに、日本政府はあんなふざけた格好した連中に任せておいていいのか!」


“お前が言うな”

“騎士のコスプレで練り歩いているヤツが言うのか……”

“やったぜ”

“待ってた”


「誰がコスプレだ! 誰が! 私は英国貴族に繋がる出自だぞ!」


“はいはい”

“ご機嫌麗しゅう”

“次は何に寄生するんです?”


「フン、モノの道理の分からん奴らよ。私はな、あの世間を騒がしているゲンカイジャーとかいう奴らを成敗するのだ!」


“はいはい”

“あっ……(察し)”

“正直何やらかすか気になってる俺ガイル”

“ホットなとこに凸っていくスタイル”


「貴族ならやはり民に施してこそ。魔物との戦いという良質なコンテンツを独占する卑劣な輩は駆逐するべし! そして、配信を全てのNewTuberに解放するのだ! これこそまさにノブレスオブリージュなり!」


“要するに自分も配信させろと”

“何匹目のドジョウや”

“躊躇が無いモンスターを舐めてるやろ”


「フン、斯様かような魔物など恐るるに足らず! 騎士の戦いというものをお見せしよう」


“無茶な事言っててワロタ”

“いいぞもっとやれ”

“今度こそBANかな”


「絶対に捕まえてみせるぞ! ゲンカイジャー! 勝負だ!」



 刺激を求める層は、実に根深く存在する。配信主が何をやらかそうと、笑えればそれでよし。気に入らなければ、そっと画面を閉じるか、立ち上がれないほど叩けばいい。画面越しの世界に対する実感は希薄で、どこか遠い国の出来事のように過ぎていく。もっと新しい何かを。もっと過激な何かを。社会的地位の低下を恐れて誰も手が出せないそんなブルーオーシャンに、一発逆転を求めて群がるNewTuber達がいる。


 アーサー・ヒルデ・ヨルンこと、朝田あさだ 智之ともゆきもそんなNewTuberの一人だ。彼は中世騎士に憧れ……ているわけでは全然なく、とにかく目立てば勝ちだと、騎士の出で立ちであらゆるところに現れては一般人の迷惑を顧みない動画を配信していた。


「悪名は無名に勝る」


 これが、彼の信条。TAHOOニュースのトップに出ればしめたもの。飽きられないように、そして、逮捕されない程度に、彼は炎上を繰り返し、徐々にその視聴者を増やしていった。彼の目標もとい標的はその配信がバズりにバズっている『ギリギリ戦隊ゲンカイジャー』である。正式にコラボなど持ちかけても相手にされるわけがない。ならば、現地で勝手に接触すればいい。彼はそのチャンスを虎視眈々と狙っていた。



  ☆☆☆



「いや、大袈裟でしょ。俺だったらゴブリンはこう倒すね」


“ゴブリン倒したところで何の自慢にもならない。オーク辺りから語ろう”


「オークはまぁ、武器次第よ。ゴーレムがなぁ……。銃弾効かないって本当かよ」


“イエローは張り手で砕いたぞ”


「でもなぁ、なんかやれそうな気はしてるんだよねぇ」


“ぜひ見たいです!”

“タクティカル岩田さんならどう戦いますか?”

“やれるやれる”


「今度さぁ、近くに出たらちょっと行ってみるわ。さすがに国内で銃は撃てないから得物はナックルとかになると思うけど」


 タクティカル岩田。NewTuber。元傭兵。戦術評論家であり、格闘家であり、そして無類の戦闘マニアでもある。数々の戦場を渡り歩いてきた経験を背景に、己の心身の強さには絶対の自身があった。


「大体、あんなコスプレで戦えるなら世話ないんだよな。しっかり自分の身を守れる武装ってやつをしないと」


“ですよね!”

“最低限アサルトライフルは必要w”

“岩田式戦闘術の出番じゃないですか!?”

“頑張れ! 応援してる!”


「よし、決めたわ。相手が魔物ならこっちだって好きにやれるし、最近、視聴者さんから本当に強いのか疑惑出てたし俺にやれる事でゲンカイジャーに協力していくわ」


“いいぞー!”

“さすが岩田さんやでぇ”

“ゲンカイジャーに岩田さんが加われば百名、いや万人力じゃ”


 こうして、タクティカル岩田は100%の善意からモンスター討伐に身を投じる事を決めた。



  ☆☆☆




「我々、『紡ぐ会』は断固として魔物の討伐に反対します!」


“そうだそうだ!”

“ゲンカイジャーは無差別に生物を害するのを止めろ!”

“先生、今日も政府広報には苦情を入れておきました”


「我々を支持していただいている皆様は既にご存知かと思いますが、我々には300人を超える犯罪者の更生実績があります!」


“先生の奉仕精神には頭が下がります”

“みんな、先生のお言葉に救われたのですよ”

“素晴らしい事です。紡ぐ会の会員として誇らしい気持ちでいっぱいです”


「あの、ごぶりんとかおーくと名付けられている彼らにもきっとそうせざるを得ない理由があったに違いないのです! それをあのゲンカイジャーは有無を言わさず……うっ……うぅ……」


“先生、心中お察しいたします”

“邪悪極まりない所業です。先生が心を痛めておられます。ゲンカイジャーは今すぐ解散を!”

“暴力による解決は何も生まないといつになったら理解るのでしょうか”


「私は、これ以上血が流れることを容認できません! 必ずや! 私が! ゲンカイジャーの蛮行を止め! 魔物と蔑まれている彼らにも生きる権利があると! 証明してみせます!」


“先生……”

“ああ、先生の前途に幸多からんことを”

“私達は先生のご支援に励みます”

“少ないですがお納め下さい”


「皆様からのご支援、この両肩に背負います。不肖、愛野あいの あきら! 身命を賭してみなさまのご声援に応えて参ります!」


 愛野晶、紡ぐ会代表。肩書こそNewTuberではないが、NewTubeにおいて相当数の登録者を得ている。表向きは慈善活動を生業としているが、その実、政治活動団体の別働隊である。犯罪者の更生を謳っているが、実際は犯罪者の再利用。脅し、宥め、すかし、あるいは報酬をちらつかせ、表に出せない仕事を担当させている。彼等もまた、ゲンカイジャーの知名度を利用せんとする団体の一つである。



 NewTuberの闇の部分が、ギリギリ戦隊ゲンカイジャーに牙を剥こうとしていた。

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