第22話 結成! ギリギリ戦隊ゲンカイジャー!
「という訳で五人揃った」
「はい、おめでとうございます」
アルミラージを倒した後、黒塗りの高級車で運ばれた俺達が案内されたのは、内閣情報調査室特異災害部門の持っている中で最高のセキュリティレベルを誇るらしい建物の一室。佐渡島は相変わらず表情を崩さず、俺達を祝ってくれた。
「今回は面談に応じて頂きありがとうございます。あなた方の正体はこの建物より外に一ミリたりとも持ち出させないことを私が誓います」
「お、おう……」
固い挨拶もそこそこに、俺達はまず自己紹介を始める事にした。新顔である松浦カンナも居るからだ。
「えー……、僭越ながらギリギリレッドをやっております、際田極と申します。レッドなのにブラック企業に勤めてます。宜しく」
佐渡島はもちろん、松浦の表情さえ動くことは無かった。スベる、とはこういうことを言うのか。胃にダメージが来る。
「あ、あの……宜しくお願いします」
初めて会った時のハルカ並の反応だ。動画を見た限りでは、俺の知っている松浦カンナは溌剌とした笑顔で歌って踊ってたはずだが別人のように影が差している。これが本来の彼女の姿なのだろうか。それとも、ハルカみたいに戦闘中だけ豹変するのか?
「異世界からやってきました、ベアリー=スタインフェルドです。皆さんには大変な苦労をおかけして申し訳ないのですが、ご協力お願いします」
ベアリーもしおらしい態度で挨拶をしている。優良サラリーマンである俺の背中を見て成長したのだ。この子はワシが育てた。
「ゴホッ……、失礼。ギリギリブルーの鰯田剛です。教師をやっていました。宜しくお願いします」
鰯田は戦い終わった後、車いすに乗せて運んだ。ベアリーが対策を練っているが症状の緩和はまだ見られない。第二、第三の魔素中毒者が出てこないとも限らないので早急に対策を練りたいところだ。
「あ、あ、あ、ぎ、ギリギリ、ぴ、ピンクの影山遥夏で、です。学生です。カンナさん、動画、み、見ました! すっごく素敵……でふゅす」
顔を真っ赤にしてモジモジしている女子二人。ハルカの例もあるしその内慣れるだろう。アイドルなんだから仮面の一つや二つ被れなくては。
「ギリギリイエローの肥川よ♡ アンコって呼んでね♡」
アンコから差し出された手はそのままカンナの頭を包めそうなぐらい大きくたくましかったが、肌ケアは完璧で何なら少しいい香りがする。カンナはその手を両手で握り、大人と子供の様な握手をした。
「あ、ま、松浦カンナです。一応、アイドルやってます。あ、あの、皆さんの配信見てました。私が選ばれた理由は分かりませんが、小さな子供を脅威から守れるのであれば全力で頑張りますので宜しくお願いします」
流石は謎の力が選んだメンバーだ。奇跡的に人格に恵まれている。俺を除いて。
「私は特殊不明生物対策本部、通称イレギュラーズの本部長、佐渡島真子です。どうぞ宜しくお願いします」
佐渡島に付けたシャドウから特に変わった報告は無い。今のところ会議の内容も際立って不審な点は無いし、とりあえずは信用してみる事にする。苦労性の人間にはつい親近感を覚えてしまうなぁ。
「さて、政府といたしましては当面、対象である特殊不明生物に対して注意喚起の広報を打ち出すとともに、警察あるいは自衛隊との連携、避難誘導マニュアルの策定、関連法案の整備などやるべき事が山積しておりまして、主に後方支援がメインとなっていくかと思います」
「うわ、大人って大変……」
「米軍は出てこないんだな」
「今のところは国内問題ですので。ただ、情報の提供については再三要請が来ております」
「やっぱりアレですかね? スパイとかエージェント的な人が派遣されて来るんですか?」
「国内外から公式、非公式問わず介入はしてくると思います。未知のエネルギーが絡んでますので。妹さんの事が気になるようでしたら、視界に入らない範囲で警護を付けますが」
「ああ、それについては一旦こっちで預かる。これ以上お手を煩わせるのは忍びないからな」
「畏まりました。では、そのように」
俺達が見てきたヒーローの図とはだいぶ違う……。まぁ、こんな汚い舞台裏を見せられて喜んでくれるのは大きなお友達だけだろうしな。俺だってもっとシンプルに悪い奴、ズバァァァン! 非道な奴、ドゴォォォンだけしていたい。
「あ、後、今更ですが重要な事を」
「な、なんだ?」
「皆様の正式名称を『ギリギリ戦隊ゲンカイジャー』と呼称させていただきますが宜しいですか? 一度正式な書面に記載すると変更の手続きが煩雑になりますので」
昔やったゲームで、「一度付けた名前は変更できないがいいんだな?」としつこく確認されたのを思い出した。大抵の場合、いい加減な名前を付けると重要な場面で世界観が台無しになったものだ。
「みんな、いいか?」
「僕は、まぁ。もうそれで認識されてますし」
「ぼ、ボクも……いいです。戦隊ヒーローっぽくて」
「アタシは……まぁ源氏名からして……ね」
「私も配信で馴染みがあるので……特に」
俺はというと別に積極的支持ではないが、別に素顔を晒し物にされるわけでもなし、別にどう呼ばれようがどこか他人事のような気がしているので全く問題なし。
「じゃあ、それで宜しく」
「私の意見は聞かないんですかー!?」
「元々ゲンカイジャー言い出したのお前(ベアリー)だろ」
「それはそうですけど……」
「あれ? ちょっと待て、ギリギリ戦隊って言いだしたのハルカ発信じゃないか?」
「ギクッ」
リアルにギクッとか言うな。
「あ、アレはネットミームと言いますかその場のノリが拡散していった結果と言いますか……」
「ほぼ自称じゃねーか、恥ずかしい」
「若気の至りってヤツね♡」
「まぁ、もう世間にはそれで認知されてるからいいよ」
「畏まりました。では、『ギリギリ戦隊ゲンカイジャー』として諸般の手続きを進めさせていただきます。皆様、地球を守る為に一丸となって頑張りましょう」
こうして俺達は、“ギリギリ戦隊ゲンカイジャー”としての一歩を踏み出した。
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