第20話 特殊不明生物対策本部<イレギュラーズ>②
いつかはこんな日が来ると思っていた。なんなら遅すぎたとさえ思うくらいだ。俺は政府の代表者と名乗る女性の訪問にも対して驚かずに対応して見せた。
結局、自分たちの正体を細かく隠蔽するとなると常に認識阻害の魔法やシャドウサーバントを展開したり、記憶の改竄に手を染めなくてはならない。それは、倫理的にも手間的にも金銭的にも、現実的ではない。
だったら、政府の出方を確認してみて、俺達を利用しようとしたり偽物だったりしたらどうにかした方が手っ取り早いし、とりあえず視聴者に身バレしなきゃいいという結論に至ったという訳だ。
「初めまして、際田さん。私はこういう者です」
「頂戴します」
一応、社会人であるからして、名刺の受け取り方は知っている。何の役にも立たないと思うが、俺の勤め先の名刺も差し出す。目の前の女性の名前は佐渡島というらしい。眼鏡姿でスーツが良く似合う。年齢的にはアンコと同じくらいだろうか。
「あの、念の為に録画や録音機器が無いか調べさせてもらってもいいですか? 何分、機密性の高いお話ですので、万が一配信などされると相応の処置を取らなければなりませんので」
「どうぞどうぞ。なんなら盗聴器とか仕掛けられてないか調べてもらえてお得な気分ですよ」
世間の反応的に半数程度は配信で儲けてやろうとしている迷惑系と思われてる訳だから警戒するのも無理はない。まぁ、配信で儲ける方針に違いは無いが、何でもかんでもアクセス稼ぎに利用するつもりはない。
「協力的な対応で恐縮です。あ、もう大丈夫みたいです」
「いえいえ。あ、こちらが例の保護している異世界人、ベアリーです」
ヌルっと我が家の異世界人を紹介してみた。
「失礼ですが、ほとんど地球の人間と変わらないんですね」
「そのようですね。魔素に順応するかどうかと、魔法が使えるかどうか以外に身体的特徴に差異は無いみたいです」
佐渡島は興味津々の様子だが、実験動物の様な扱いをされても困るので一旦話を先に進めた。
「今日、来てもらったのはやっぱり……?」
「謎の生物の詳細と、あなた方の目的をお伺いするためです」
ベアリーはキシカイ星の事、ゲンカイジャーの事、魔王ヒンスレーバの事、配信を始めた理由などをかいつまんで話した。あまり金儲けを前面に出しても信用を失うかと思い、表向きは注意喚起の為と強調したが。
「――ちなみに、今魔法や変身と言った超常的な現象を拝見することは可能でしょうか」
「魔法については様々な制約があってお見せできませんが、変身であれば」
さも当然のように答えたのが意外だったのか、佐渡島はほんの少しだけ表情を崩して、立ち上がる俺を見ていた。
「リヴァイヴ」
一応、腕時計を触るような仕草を追加した。これが無いと変身できないと思ってくれたら儲けものだ。光に包まれ、俺はギリギリレッドとして再び佐渡島の前に立った。
「こ、これは……」
呆気にとられる佐渡島とその取り巻き達。
「恥ずかしい話ですが、今、事の重大性を再認識しました」
「この力は異世界の魔物を撃退する目的以外に使うつもりはありません」
これもまた、念の為。危害を加える気は無いという意志表示と同時に、利用されるつもりもないということで釘を刺しておく。
「なるほど……現時点では地球の人間と敵対する意志は無いということですね?」
「そうですね。現時点では敵対する理由がありません」
含みのある質問だ。魔王軍による地球侵攻を防ぐのは共通の目的だが、ベアリーの中には異世界の知識、特に魔法や召喚術に関する秘伝が詰まっている。ただのミソラーメンスキーではないのだ。それを奪おうとするなら……。
「分かりました。では、今後日本政府は出来る限りであなた方の支援を行いましょう。いくつか前提条件はありますが、まずそちらのご要望はありますか?」
ほら来た! 前提条件! 武力として取り込むとか諸外国がどうとかそういうややこしい話は御免被る。まだ先に条件を聞いてくれるだけ良心的とも言えるが。
「まず、大前提として我々の正体を明かすのはイレギュラーズ内部だけに留めて頂くこと。指揮系統はイレギュラーズに属さないこと、秘匿技術に関しては開示を求めないこと、家族に接触又は追跡等しないこと、ですかね」
「妥当でしょう。我々も国内外での戦闘行為は認められておりませんので、情報共有に留めておいた方が都合のいい部分もあります。力の悪用を認めないというのは我々としても同じです。直ちに、超法規的措置の適用を上に求めていきます」
思いのほか簡単に引き下がったが、監視の目は付くんだろうな。なんてったって異世界のバケモノを屠る武力を持ってしまってるし。ただでさえ窮屈な務め人にこれ以上窮屈な思いをさせないで欲しい。
「では、後は書面で詰めて下さい。宜しくお願いします」
「はい。では、今日のところはこれにて」
そういうと、佐渡島を含めた黒服たちはウチを出ていった。
「さて、改めて盗聴器ないか探るか。ベアリー」
「はい、キワム」
ベアリーの魔法で部屋に変わった点がないかを探る。
「よし、大丈夫そうだな」
「みたいです」
「ベアリー、佐渡島とかいう人にシャドウ付けられるよな?」
「大丈夫です。召喚はこちらの精霊を使いますので」
地球上にも霊的物質は存在するらしい。神様と同じ次元から呼び出せることはシャドウサーバントで実証済みだ。ただし、
ハッキリ言って、いくら配信で稼ごうともおいそれと出せる金額ではない。大体まだ初配信の結果も詳細は不明なのだ。一体召喚するのがやっとである。神社も今頃異常な賽銭の量にびっくりしている頃だろう。
「プライベートな情報以外は報告するように頼んでくれ」
「了解です、キワム」
シャドウは影に潜む事が出来る精霊。監視の目はお互い様だ。書面でのやりとりなんて実際問題信じちゃいない。これで、どう動いてくるかが重要だ。ホントのところはもっと数を増やしたいが。あんまり面倒起こされると俺の懐がどんどん寂しくなる。要するに死ぬる。
「後はしばらく様子見だな」
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