第5話 幻界魔王、ヒンスレーバ・ドンスル②
敵の名乗りを信じるなら、俺の眼の前に居るのは俺が倒すべき最終目標というわけだ。不思議な事に手っ取り早いなどという気持ちは全く起きない。もっと角が生えた筋骨隆々の化け物みたいなのを想像してたが、そういうわけでもないらしい。変身を三回残しているのかも知れないが。もうそこまで召喚術の解析が済んだというのだろあか? 仲間も集め終わってないのに絶望感しかない。
「ベアリー! 本物なのか!?」
「私も直接見たことはありませんが、このプレッシャーは恐らく……!」
「あぁ、安心したまえ。コレは只の人形だよ。挨拶用のね。本来の実力の十分の一も無い。この空間を満たす魔素ではろくに活動もできやしない」
どの程度信用すべきか迷っていたが自称魔王とやらはあたりを見回し、勝手に話を進めた。
「フム、しかしそうだな。ここは記念すべき王の初顕現の場所としてはイマイチだ。見晴らしはもう少しいい方が我に相応しい」
魔王の手にエネルギーの塊の様な黒い球体が出来上がる。セリフも含めて何が起こるか察するのは容易な話だ。
「消え去れ」
「待てぇぇぇぇぇっ!!!」
どんなに恐ろしくても惨劇を起こすわけにはいかない。俺は咄嗟に駆け出すと魔王の手の上の球体を蹴り上げた。硬いし重い。もしかしたら熱いのかもしれない。接触したスーツの一部がバチバチ音を立てて溶けている。
「うぉぉぉぉっ!!」
蹴り上げた勢いで後方に宙返りした。所謂、サマーソルトキックというやつだ。蹴り上げた球体は空高く上昇し、(恐らく)宇宙空間で大爆発を起こして消えた。
「なるほどなるほど。流石は、と言ったところか。もう殆ど魔素が残っていないな。ならば」
さっきよりも小ぶりの球体が浮かぶ。魔王が手の平を押し出すとそれは真っ直ぐベアリーに向かっていった。
「まず邪魔な召喚士に消えてもらおう」
気が付いたら勝手に体が動いていた。まだ会って間もない素性も良くわからない女の子。そう、女の子だ。俺が守らなくては。
「キワムっ!!!!」
球体は俺のスーツの背中部分を焼き、俺本体にまで届いた。
「ぐ、があああぁぁぁっ!!」
ゴブリンの攻撃を無傷に抑えきるスーツがこうも簡単に。コレは死んだかもしれない。
「神よ! 奇跡の御業を! 正しき心に宿り、光と慈愛の心で以て悪の所業を弾き給え!!」
ベアリーが呪文らしきものを唱えると、黒い球体はけたたましい音と共に霧散した。
「フム、駄目か。まあよい。さて、倒すべき敵も認識できたことだし、今日のところはこれで失礼するよ。残念ながら早くも魔素切れだ。では、また会おう『ゲンカイジャー』」
そう言うと、魔王は満足気な笑みを残して消えた。
「き、キワム! しっかりしてください! キワム!」
「ベアリー、無事か?」
「どう見てもキワムの方が重傷です!」
「つっっ……!!」
「しっかりして下さい! 今魔法で傷を塞ぎます!!!」
「聖石は……消耗品なんだろう?」
「それがなんだというんです! キワムの命には代えられません!!」
「無駄遣いしちゃ……ダメ……だぞ」
「キワム? キワム!? 起きて下さい! キワム!」
☆☆☆
気がつくと、俺は自分の家のベッドに寝ていた。
側には看病疲れか寝てしまっているベアリーがいた。男の部屋に居るというのに警戒心はないのかコイツ。
「おい、起きろ」
「!? 目覚めましたか! キワム!」
「あぁ、お陰様で」
「良かったぁ……」
涙目のベアリー。
「聖石はどれくらい使ったんだ?」
「傷の回復も含めて手持ちは……殆どです」
「つまりこの先、ベアリーのサポートは絶望的ってことか」
「…………はい」
「無理だ。勝てるわけがない」
奴が去った今も恐怖の影が消えない。仲間を集めてどうにかなるものなのだろうか。俺にはそうは思えない。実力の差に開きがあり過ぎる。奴の言葉を信じるなら、本体はあの10倍強いって事だ。
「大丈夫です、必ず勝てます!」
「どうやって! 敵はあんなバケモノなんだぞ!」
「実は、貴方の着ているそのバトルスーツ。古文書によるとそれは『満身装衣』という聖なる衣なのです」
新しい謎ワードが追加された。なんで満身創痍が聖なる衣なのだ。死にかけてるじゃないか。
「こんな時に冗談はよせ!」
「冗談ではありません、キワム。この『満身装衣』は敵から採取できるユニーククォーツ、つまり
「満身創痍が有休消化でパワーアップだと!?」
止めどなく謎ワードが溢れ出てくる。そりゃあ確かに有休を消化出来ればパワーアップするだろうよ。いや、体力の回復か?
「これが、そのUQです。キワムがゴブリンやオークをを倒した後に落ちていたものを回収したものです」
ユニーククォーツ、つまり謎の力を秘めた水晶。俺はやけっぱちでUQをスーツに近づけてみた。すると、獅子の様な意匠の装飾品はまるで生きているかのように口を開け、UQを吸い込んだ。そしてなんと少しの間が空いて、獅子の口から剣が吐き出されたではないか。
「これが新たな戦う力。『ゲンカイソード』。古文書によると武器だけではなく、スーツ自体の性能も上昇するようです。奴らが召喚術の解析を終えるまでに、限界までパワーアップしましょう」
奴らが戦力を逐次投入してくれるならこちらにとって都合がいい。各個撃破出来るし、その敵が落としたUQを使ってパワーアップも出来るってわけだ。
「一種の賭けだなそれは。仲間もどんどん集めないと」
「ええ」
襲い来る絶望感の中、真の意味でギリギリの戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます