ヘンリーが銃の構造を考えている間に、ビクターは既存の銃について学びを深め、構造が固まったらすぐにでも製作できるように準備を整えた。メアリーは家事を担った。

 そうした日々を送って充実を感じるようになった矢先、ビクターはあることに気付いた。

 どうやらヘンリーとメアリーは恋愛関係に発展したらしい。メアリーは夜が更けると、いつもヘンリーの部屋に行っていた。艶かしい声が聞こえる日もあった。しかし、二人はビクターの前では平静を装っている。痺れを切らした彼は、三人揃って食事をしている時、言った。

「兄さんとメアリー、結婚しないのか?」

 ヘンリーは慌てふためき、メアリーは恥ずかしそうに俯いた。そして、そっと二人は見つめ合った。ヘンリーが口を開く。

「僕と、結婚……してくれませんか?」

「はい」

 嬉しそうにメアリーは答えた。二人とも顔を真っ赤にして、目を潤ませた。

 その日からの日常は幸せだった。銃の開発も、プライベートも順調だった。

 ヘンリーが銃の構造のアイデアを完成させ、ビクターはわずか一日で形にしてみせた。これはどうやら作った本人たちが一番驚いたようだが、その試作品第一号は素晴らしい出来栄えだった。大量生産する方法や機械は、兄弟で協力して完成させた。二人とも、機械開発の才能はあったらしい。たった二人で、全く新しい物とその製造方法を作り上げてしまうなど、現代でも有り得ないと言えるだろう。


 北軍司令部に書を送り、戦地でこの銃を使うことが決まる。工場も稼働し始め、完成品は次々と前線に送られた。

 何もかもがとんとん拍子に進み、ビクターとメアリーは毎日だらだらと暮らすようになった。明らかに天狗になっていた。

 しかし、ヘンリーだけは違った。分厚い本を読みながら、物思いに耽るようになった。本にはカバーが付けられ、何を読んでいるのかは分からなかった。誰にも理由を告げず、声を押し殺して泣いている日もあった。季節は冬を迎え、徐々にヘンリーの情緒不安定は生活に支障をきたすようになった。夜に眠れず、寝られても悪夢にうなされるようになった。妻に迷惑をかけないために、ヘンリーはメアリーと部屋を別々にすると決めた。食欲がなくなり、メアリーが作る食事をほとんど食べなくなった。心配で仕方ないメアリーは、実家に帰ろうと言う。ビクターもその案に賛成し、自分たちの功績を持ち帰り、今後は生まれ育った家で暮らそうと決めた。ヘンリーは何も言わなかった。


 小屋を離れる前日、午後から天気が荒れ始め、太陽が沈むとブリザードになった。いつも通りの時間に就寝し、雹が小屋の壁を叩きつける音を聴きながら、眠りについた。

 どのくらい眠ったのだろうか。突然、短く乾いた音が聴こえた。ビクターはその音で目覚めた。彼は嫌な予感を感じた。自室を飛び出し、居間に行った。既にそこにはメアリーがいて、彼女はビクターに言った。

「ビクターさん、ハリーがいなくなってるんです!」

「出ていったのか?

 いや、でも戸を開ける音は聞こえなかった。」

 ビクターは、兄には何事もないと自分に言い聞かせているようだった。

「この天気なら、戸を開ける音なんかかき消されます。でも、ビクターさんも、聞きましたよね、あれ。」

「ああ。」

 居間は不穏な空気に包まれた。それを破ったのはビクターだった。

「まずこの小屋の中を隅々まで見て、何か異変がないか確認しよう。とりあえず、兄さんの部屋を頼む。」

 メアリーは走っていった。ビクターはまず作業場に来た。

 北軍銃の試作品第一号が所定の場所から消えている。彼の状態は、心ここにあらず。深呼吸している時、メアリーが大きな足音を立てて作業場へ走ってきた。

「ビクターさん、これ……」

 メアリーが持ってきたものは、手紙だった。「愛する妻と我が弟へ」と封筒の表に記されていた。

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