192話:拾い人

「侵入成功っと。初めて中に入ったけど……見た目通り、やっぱり中もすげぇな。さすが王族住まう王城。まぁ、俺の知ってる王族があれなんだが」


 脳裏に思い浮かぶのは、俺が唯一知っている王女様の姿。

 王都で助けに入った時に一度、ダンジョンの街ダンジムで二度あっただけだが、その存在そのものは俺の中に深く刻み込まれている。


 主に危険人物として。


「そんじゃ、調べに回りますか」


 屋根から侵入すると同時に、その場に【分隔】で足場を形成することで下まで降りてしまうことを防ぐ。

 一応【探知】で確認はしているが、降りた瞬間を見られる可能性を考慮してのことだ。


 王城内の天井はかなり高くなっているため、わざわざ上を気にする者は少ないだろう。


 そのまま足場を形成して歩きながら、俺は城の中を見て回ることにした。


 ただ俺の侵入してきた場所がよかったのか悪かったのか、眼下の通路を歩く人影は一つもない。

 誰かいれば、そいつの話を上から盗み聞きして状況確認をしたかったのだが……ここまで人がいないとなると、それも叶わないだろう。


 仕方ない、ともう一度【探知】を使用する。先ほどは人がいないことを確認するための使用だったが、今度は人を探すために魔法を使った。

 できれば、アイシャさんやリリタンさん。マリーンがどうなったのかを知りたいため、意識を集中させて王城内を探る。


 こういう特定の人物を探すとなると、モノの形しか捉えることができない【探知】は不便なようにも思えてしまう。

 魔物のような明らかな人外の形ならともかく、人を探そうと思うとここまで難しいか。


「……うーむ。これは、地下か? ところどころ【探知】できない場所がある。無魔領域だな、こりゃ」


 ハンルドの泉の下に展開されていた無魔領域。それと同じような反応が、王城の地下のあちこちで確認できた。

 はっきりとはわからないが……周囲の様子からして、地下牢と考えるべきだろう。他にも多くが地下牢に捕らえられていることが予想できた。


 つまるところ、俺たちは一歩遅かったというべきか。すでに聖女神国は、この城を手中に収めているらしい。


「人質とは、またなんとベタなことをするもんだ。もっとも、逃がすことは簡単だけど」


 見張りさえ何とかしてしまえば、どれだけの人数がいようとも空間魔法を使っての救出が可能だ。地下から地上に向かわずとも、【接続】で地上に繋がる穴を開けてやれば、後はそこを通るだけで脱出が完了する。


 となると、仕掛けると同時に避難経路の確保をした方がいいだろう。

 地下に人がいる状態じゃ、下が気になって迂闊に戦えなくなる可能性もある。相手方がそれを気にもしない性格なら最悪だ。


「となると、人手がいる。俺とヴィーヴルヴァイゼン。あとウィーネさんの三人じゃ、どう考えても戦力不足だ。城を攻める前に、なんとかマリーンたちを救助して戦力に加えたいんだが……あれ?」


 彼女らがどこに捕まっているのか、それを探ろう意識を集中させて【探知】の精度を上げていく。

 そんな中、ようやくと言えばいいのかこちらの通路へと向かってくる反応があった。


【探知】で見えた形からして二人組の女性。

 これで何かわかりそうだと、彼女らが曲がり角の天井付近で息を潜めて待っていたのだが、そんな俺の眼下に現れたのは今まさに探していた人物だった。


「アイシャさんに……リリタンさん?」


 どういうことなのか。

 俺はてっきり、この城は聖女神国の手に落ちたものだとばかり思っていたのだが、見たところ二人とも無事なように思える。

 周囲を警戒しながら歩くその様子は、まさにいつもの二人そのものだ。


「……上から見るだけじゃ、何にもわからねぇな」


 少しでも二人で会話をしてくれればと思ったが、どうも二人が話をする様子はない。

 そこで俺は【接続】で外への穴を開き、小石を一つ取って放り投げた。


 重力に従った小石はやがてカツーンと音を響かせながら通路を跳ね、その音を聞いた眼下の二人は武器を手に取って即座に構えた。

 だがしかし、何もないことを確認するとすぐさま先ほどのように無言での警備を続ける。


「やあやあ、お二人さん。こうして会うのは王都以来だけど、元気にしていたかな?」


「「っ……!?」」


 なので、今度は直接確かめるため、彼女らの前に出てみることにした。


【転移】で音もなく背後に現れた俺を見て、即座に武器を手にとった二人。

 だがその目には、おおよそ意思と呼べるものは存在していないようにも感じ取ることができた。


 どこか虚ろで、ボウッとしている。それなのに、行動そのものは実力者である彼女ららしい洗練された動き。


 二人の姿がブレるとともに、俺を覆うように展開した【分隔】へと武器が叩きつけられた。


「あ~……なるほど。こりゃ、ちょっと厄介なことになってるな……」


 刃が届いていないと判断したのか、続けざまに武器を振るう二人。

 美人な分、目にハイライトがないまま襲ってくるのをこんな近くで見るのは、なかなかにホラーみを感じてしまいそうだ。ヤンデレ好きなら歓喜していることだろう。


「とまぁ、冗談はさておき。これ、洗脳か何かされてます?」


 そんな俺の問いかけを無視して、代わりに剣と槍の猛攻を繰り出す二人。

 反撃はしない。そもそも、空間魔法の攻撃はたいてい殺意マシマシである。この二人に使いたくない。


「なんの音ダ!? 侵入者なら死んでも食い止めロ! 私が行くゾ!」


「おっと、今度はちゃんと意識がありそうな声だ」


 通路の向こうから響く、少し特徴のある女の声。

 そして、その女の命令が聞こえてから、アイシャさんたちの攻勢はよりきつい者へと変化した。

 さしづめ、今の二人の司令塔と言ったところか?


「とりあえず、まだマリーンの居場所がわかっていないんだ。今は見つかる前に撤退しておこう」


 本当なら、こちらに向かってきている奴も確認するために天井付近で待機したいのだが……敵が予想以上に厄介だとわかった以上、下手に動いて俺の存在が露呈することは避けたい。


「アイシャさん。それと、リリタンさんも。必ず助けるので、もう少し待っていてくれ」


 虚ろな目のまま武器を振るい続けている二人にそれだけ言い残した俺は、【転移】で王城の外へと飛ぶ。


 おそらくは洗脳、もしくはそれに類する何らかの力で操られていると考えていいだろう。

 そしてそう考えると、状況はかなり悪いようにも思える。王城ともなれば、あの王都の騒動でも見かけた近衛騎士や魔法使いも多数いたはずだ。

 その人たちに加えて、アイシャさんやリリタンさん。まだ見ていないが、マリーンやサランさんまで敵の可能性も出てきたわけか。


「せ、戦力差がとんでもねぇな……」


 一瞬、地下に捕らえられている人たちが仲間になればとも思ったが、あそこにいるのは皆戦力にならない人たちなのだろう。【探知】で確認できた限りだと、メイド服っぽい衣装を着た女性が多かったようにも思う。


 とにもかくにも、かなりこちらが不利だということが確認できたわけだ。


「さてそれじゃあ……この状況を、どうやって三人に伝えるか」


 手紙でも書くか……いや、手間がかかりすぎる。いっそのこと、《竜殺しの魔法使いドラゴンスレイヤー》から伝言を預かったとか言って、俺の口から……それも怪しすぎるな?


「……もう、正直に言うしかないか?」


 いよいよ隠し通すのも潮時かもしれないと思い悩む。

 想像していたよりもかなり悪い状況だ。おまけに、アイシャさんたちの身も危険なうえに、マリーンに関してはどうなっているのかすらわからない。


 俺の我儘を通すにも、少し無理があるのかもしれない。


「仕方ない、【転移】で戻る――ん?」


 周囲に誰もいないことを【探知】で確認し、そのまま【転移】で今夜の宿へと戻ろうとした俺だったのだが、【探知】の反応ですぐ近くに人がいることに気付き、慌ててそちらへと視線を向けた。


 反応があったのは、草木が茂る植木の中。

 王城から少し離れている場所だからか、それとも人の手が入っていないだけなのか、鬱蒼としていて酷く見えづらい。


 だが、どうも隠れているわけではないらしい。現に、反応は木を背にして座り込んだまま動く様子がなかった。

 気になって覗き込んでみれば、そこにいたのはフードで顔を隠した女性。


 しかし、俺はその服装からそれが誰なのかがわかってしまった。


「サ……サランさん!?」


「……」


 慌てて駆けよって状態を確認する。

 剣で切り付けられたのだろうか。夜でわかりにくいのだが、肩からお腹にかけての怪我がひどい。


 だが、それでも微かに、呼吸していることが確認できた。死んでいないことに安堵はしたが、それでもすぐに治療しなければ彼女の命の灯は消え失せてしまうだろう。


「教会……は無理だな。時間も時間だが、聖女神国が信用できない以上任せられない。サンクティアさんを頼るしかない……!」


 宿に戻れば聖女であるサンクティアさんがいる。

 彼女であれば、サランさんの治療もできるはずだ。そう考え、心の中でサランさんに謝ってから彼女を抱えた俺は、すぐに【転移】で宿まで飛んだ。


「お待ちしておりました。では、すぐにでも彼女の治療を」


「……は? え……はい?」


 だからこそ、俺の反応は当然のものであると考えたい。


【転移】で飛んだはずの俺の部屋。

 サランさんをベッドに寝かし、サンクティアさんを呼びに行こうと考えていた俺の目の前には、まるですべてわかっているかのような態度でこちらを見るサンクティアさんの姿。


 あまりの出来事に驚愕で固まる俺を、彼女は不思議そうに見つめて首を傾げる。


 その瞳は、黄金に染まっているのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

逃げのびていたサランさん。

そしてトーリよ。お前が活躍するべきは今ではないのだ。

もっと観客を集めなければな。


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