転生チートの空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~国でもトップレベルの美人・美少女パーティに探されてますが、それ俺ですとは言えません~

岳鳥翁

第1章:魔物の大暴走最前線ボーリス

第1話:どうにも規模が予想外




 人気者になりたかった。


 物語の主人公のように目立ってみたかった。


 けど、そんな勇気と自信を持っていなかった。


 だから、自分ではない自分にその役を押し付けた。







「あの魔法使いはいないのですか! 黒いローブを目深に被った魔法使いの男です!」


「いやぁ……そう言われましても……」


 ところどころが砕けてしまってはいるものの、元はかなり良質であったであろう鎧を纏った金髪の女性がギルドの受付嬢へと迫る。


 対して、語気の強い彼女の圧のせいなのか、そんな彼女を前にした受付嬢は僅かながらに体を仰け反らせて目に涙を浮かべていた。


「さ、さきほど言いました通り、そのような人物はこのギルドには訪れておりません。一名はアイシャさんが来る前に新しく登録しましたが、魔法使いではなく剣士の方でしたし……ア、アイシャさんの見間違い、もしくは聞き違いと言うことは……」


「わ、わたくしがおかしいと言いたいのですか!?」


 アイシャさんと受付嬢に呼ばれていた彼女が受付の台に向けて勢いよく拳を振り下ろせば、バキッ! という木が折れるような音がギルド全体へと響き渡った。

 流石にやりすぎたと感じたのか、どこかバツの悪そうな表情のアイシャさんとやら。


 対して受付嬢は体をびくりと震わした。


「ひぅっ……!? す、すみませんすみません!!」


「あ、いや……すみません……怖がらせようと思ったわけでは……」


「おい、アイシャ。その辺にしておけ」


 気持ちはわかるが、と受付嬢へと手を伸ばしていたアイシャさんの腕をつかんだのは、ボロボロとはいえ鎧姿であったアイシャさんとは対照的に最低限の防具のみを身に着けた褐色肌の大柄な女性。180以上あるんじゃなかろうか?


 ただ筋骨隆々というわけではない、女性的な魅力のある体だ。体中の傷跡が彼女がこれまでくぐってきた修羅場の数を物語っているため、気の弱い男性は怖がるかもしれないが。


「リリタン……いや、私は……」


「それ以上やっても逆効果だ。すまねぇが、ギルド長を呼んでくれ。今回の件について報告したいことがある」


「は、はい……! わ、わかりました……!」


 すぐにでも! と受付の後ろの扉を開けてその場を後にした受付嬢。

 俺のギルド登録をしてくれた時はものすごく仕事のできる女の人、みたいなイメージだったがアレを見るとギャップってすごいなと感じてしまう。


 ギャップっていいよなぁ、と事の成り行きを見守っていると、やがて扉から顔を出したのはこちらも大きな体躯のおじいさんだった。


 上半身裸だった。

 なんでやねん。


 褐色肌のリリタンと呼ばれていた女性と同じくらい傷だらけの筋骨隆々ボディで一度サイドチェストを決めたおじいさんは、その後クイッと親指で後ろを指し示すと扉の奥へと引っ込んでいった。

 恐らくついて来い、という意味だったのだろう。


 アイシャさんとリリタンさんの二人はお互いの顔を見合って頷くと、おじいさんの後に続いて扉へと続いた。


 そして二人が去った瞬間、息が詰まりそうなほど物静かだったギルド内に徐々に喧騒が戻ってくる。


 ようやく一息付けたかぁー、と机に突っ伏した俺は現実逃避のため思考を放棄してただただテーブルに顔を伏せた。


 だが、そういう時に限って周りの声と言うものはよく耳に入ってくる。


「おいおい……いったい何があったってんだよ……なんで『白亜はくあつるぎ』の二人が……それもボロボロになってるなんて……」


「なんだ、おめぇ知らねぇのか? 何でも、『白亜の剣』でも苦戦するような強力な魔物が出たらしい。あの『魔女』や『獣狩り』もその時の怪我で今は教会で治療中だ」


「なっ……!? う、嘘だろう!? 『白亜の剣』はこのボーリスどころか、国でもトップのパーティだぞ!? 彼女らが苦戦する魔物なんて俺たちじゃとても……!」


「安心しろって、もう討伐されてるそうだ。どこの誰ともわからない、男の魔法使いが片手間に倒しちまったんだとよ」


「……は? な、なんだそりゃ?」


 片方の男の言葉に拍子抜けしたような反応の男。

 その男の言葉に、もう片方は「だよなぁー」と言葉を漏らす。


「俺だって知らねぇよ。だから『白亜の剣』の連中も探してるんだろうさ。治療用のポーションだって分けてもらったそうだしな。それも無償で」


「そ、そんなことが……だが確かに、そりゃあれだけ必死になって探すだろうな……何せ命の恩人だ。あんな美女美少女ぞろいの『白亜の剣』からのお礼だ。命を救ったなら、もしかして夜のお誘いとかか? カーッ、羨ましいねぇ!」


 いっそ俺だって名乗り出てやろうか! と酒でも飲んでいるのか上機嫌に笑う後ろの冒険者。


「そうなりゃ、おめぇの首が胴体とさよならすることになるからやめとけ。だが……暫くはその男の魔法使いの捜索が始まるだろうよ。このボーリスどころか、国中で、な」


「……ま、だろうな。あの『白亜の剣』でも怪我人が出るほどの相手を片手間にっていうなら当然だろうさ」


 いったい誰なんだろうな、と話を締めくくった後ろの冒険者たち。

 そしてそんな彼らの話を盗み聞く俺は、うへぇーと心の中で顔を顰めた。


「(すっごい楽しみたい状況……なんだけどなぁー! 予想以上に話が大きくなりすぎて怖ぇよっ……! 何だよ国ってぇ!? まだそこまでの規模を求めてねぇよ!!)」


 そりゃ目立つなら目立つだけいいのかもしれないけど!!

 段階と言うものがあるだろう!? 最初は場末の酒場とかからスタートすればいいかと思ってたのに、何で初手から最大値にいってんだ!?


 表情には一切そんな感情は出さず、俺は一人立ち上がる。

 こうなったらもう知らん。今はとりあえず金を稼がなければならない。

 最悪売れば金になると思っていた虎の子だったポーションも、かっこつけのためにあげてしまったため本当にまずい。


 まだこの街に、どころか、この世界に来て一日すら経っていないのだ。生活のための資金は必須。働かざるもの食うべからず。

 けっっっっっっっして、現実逃避ではない。戦略的撤退である。


 掲示板に張り出されていた依頼書の中から、最低ランクである星1つでも受けられるものを選び取る。

 内容はボーリスの街から出た先にある森での薬草採取。森の入り口付近であるため、登録したての新人冒険者でも比較的安全に受けられる依頼だ。


「すみません、この依頼を受けたいのですが」

「わかりました。それではこちらにサインをお願いします。代筆も可能ですが如何しますか?」

「書けるので問題ありません。ありがとうございます」


 受付嬢から写しの依頼書を受け取り、持ってきた方の依頼書にサインを書き込む。

 異世界の言葉で『トーリ』と書かれたその依頼書を見た受付嬢は、「確かに」と一言告げるとその場で一礼する。


「無事帰還することを祈っています」

「ありがとうございます。それでは」


 丁寧にお辞儀してくれた受付嬢の姿を見て、反射的にこちらも頭を下げる。

 その様子に一瞬驚いたような表情を浮かべていた受付嬢だったが、すぐにその顔も無のそれとなっていた。


 そんな感じで、表情には出さないものの、実はあの女性二人がいつ戻ってくるのかと気が気でなかった俺は足早にギルドを後にして一直線に街の外へと出る門へと向かう。


 そして街を出て、少し進んで周りに誰の気配もないことを確認した俺は、森へと続く道から少し外れて呟いた。


「『転移』」


 一瞬の浮遊感の後、俺の視界は道ではなく、鬱蒼と生い茂る森の中を映す。

 転生直後に降り立った場所だ。街から近いとは言っても、それなりに歩くため少し楽をさせてもらった。


 ここからもう少し歩けば、森の入り口付近にまで出られるだろう。


「……どうすっかねぇ」


 入り口へと向かう道すがら、依頼にあった薬草を採取し、襲ってくる魔物を『断裂』で引き裂く……のは少々見た目があれだったので『分隔ぶんかく』で作った壁で弾き飛ばしながら零した。


「いやさ、確かにそうなれって思って行動したさ。実際? かわいい女の子達も助けられたし……なんなら、凄腕の謎の魔法使い! みたいな噂も広まって一石二鳥だ! みたいにも思ってたよ。でもさぁ」


 東山ひがしやま東里とうり。25歳。神様の力によって現代日本からこの異世界ファンタジーみたいな世界に転生した転生者。

 

 そして俺ではない自分を演じて目立ち、その噂を酒場の端で酒を飲みながらニヤニヤしていたいだけの純粋無垢な少年心の持ち主である。


「目立ちはしたけど、助けた子たちが国でもトップの実力者で? 話が国規模になるとか? 誰がそこまで大事にしろって言ったんだよ本当に……!!」

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