同日、特定魔導現象及び固有魔導についての授業
午後になると、どこからか現れた双子がぐるぐると天音を囲むように回って、ピタリと止まった。
「どっちがどっち?」
「どっち?」
急に言われると非常に困る。
元気なときならばわかったかもしれないが、今の天音は腕を上げることさえ億劫だ。
直感に頼ろう。
「こっちが……はるかさんですかね……」
天音の右側に立つ方を示して言うと、2人は揃って首を振った。
「はずれー」
「ふせいかーい」
「私がはるか」
「私がかなた」
「お決まりの遊びなんですよ、それ」
天音にも慣れてきたのか、緊張した様子の無い和馬が教えてくれた。
彼は疲れている天音のために、魔力回復効果のあるハーブティーを淹れていて、カップにお茶を注ぎながら笑っている。
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
「疲れてるね」
「お疲れ様だね」
数日過ごしてわかったが、よく先に話しだすのがはるかで、その後がかなただ。ただ、容姿だけで見分けるのは難しい。他の研究員が困っているところを見たことはないので、そのうちわかるようになるのだろうか。
「ここでやろうか」
「楽だもんね」
午後の座学の担当は、そう言えばこの2人だった。疲れ果てている天音のために、この場で授業をしてくれるらしい。
「すみません、よろしくお願いします……」
「よろしい」
「では始めます」
腰に手をあて、やや胸を張るようにして双子は応じた。
メニュー表のあるホワイトボードの裏面を使って授業を始めるようだ。
教官たちにもシェフから飲み物が差し入れられる。もしかしてこれを狙っていたのか。
「今日のテーマは、教科書に載ってない魔導の話」
「私たちの話、してあげる」
どういう内容なのだろうか。天音は酷使した右手をマッサージしつつ、話の続きを待った。
ホワイトボードに文字が書かれていく。
「特定魔導現象と固有魔導についてですか? それなら……」
養成学校でも習ったことがある、と言いかけたのだが、それを遮るように双子が天音の前に手を出した。
「実例を教えてあげる」
「私たちの、ここに来るまでの話」
ふいに、雅の話を思い出した。この2人は、特定魔導現象のせいで入退院を繰り返していたのだという。詳しくは聞かなかったが、その話だろうか。
「私たちがここに配属されたのは、3年くらい前」
「カラシが配属された後のこと」
空気を読んだのか、そっと和馬が立ち去った。
それを合図に、まず口を開いたのはかなただった。
「私の魔導生成値は1しかない」
「え?」
魔導生成値が1。すなわち、魔導発動に必要な魔力量を満たしていないということだ。だというのに、彼女は魔導師として国立の研究所に配属されている。一体、どういうことだろうか。それに答えるように、今度ははるかが口を開いた。
「私は魔導生成値が100ある。正確には、それ以上らしい」
「けれど反対に私は魔導耐久値が100以上ある」
「私は1しかない」
まるで2人で1つのように、双子の数値は分かれていた。つまりはるかは過剰生成、かなたは低生成ということか。それと雅の言っていた入退院がどうつながるのか、天音にはわからなかった。
「私、昔は体が弱いって言われてた。すぐ体調を崩して入院するから」
「でもはるかは私と離れれば離れるほど何故かもっと具合が悪くなった」
思い出すのは、そう。
はるかの入院していた病院に、小さな子どもが2人やってきたあの日のことだ。
「はるかちゃん、お友達がお見舞いに来てるわよ」
ナースが笑顔でそう言った。
見舞いに来ていたかなたが、驚いたようにはるかを振り返る。
入院ばかりしていたはるかと、それに付き添うかなた。そんな2人には友達なんてできたことがない。
「誰」
「嘘だ」
「怪しい」
「ナースコール押せるようにしなきゃ」
ひそひそと話し合う。もしかしたら、過保護な両親が無理矢理誰かを「お友達」として送り込んだのかもしれない。そう考えていると、ナースの背後にすっぽりと隠れてしまっていた「お友達」が顔を覗かせた。
「あのね看護師さん、あたしたち、友達じゃなくて魔導師なんだって」
「うふふ、そういえばそうだったわね、ごめんなさい魔導師さん」
ナースはまるで信じていないようで、微笑ましそうに笑っている。
が、かなたの目には、国立研究所の紋章が入った魔導衣がしっかりと目に入った。
あれはそうそう真似できるものではない。模倣などすれば法律違反で罰金は確定だ。すなわち、あの小さな少女は本当に魔導師であり、自分たちに何らかの目的で近づいてきたということだ。
「……来てくれてありがとう」
「嬉しい」
ひとまず、「お友達」に挨拶をして、ナースを病室から出そう。
話は、それからだ。
「じゃあ、面会時間が終わるころにまた来るわね」
はるかたちと同じくらいの娘がいるのだというナースは、2人を気にかけていて、こうしてよく世話を焼いてくれていた。かなたは母親よりこのナースを頼りにしていたくらいだ。
だからこそ、何かに巻き込むわけにはいかない。
彼女の言葉に頷いて、その背中が見えなくなるのを待った。
「……どちら様ですか」
「ご用件は」
冷たい視線をものともせず、「お友達」はにっこりと笑って名乗った。
「あたしは国立第5研究所副所長の清水夏希。で、こっちが……」
夏希の後ろに、もう1人子どもが隠れていた。ぶかぶかの白衣を纏った小学生くらいの少女は、古風な口調で言う。
「同じく、第5研究所の魔導医師、武村雅じゃ」
「今日は2人をスカウトしにきたんだ」
2人の手には、魔導考古学省発行の免許があった。魔導師と言うのは嘘ではないらしい。ひとまず、ナースコールから手を放した。
「どういうこと?」
「意味がわからない」
怪しむ双子と笑う「お友達」。4人の出会いは、ここから始まる。
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