第5話 絶望
「これは一体どういうことじゃ…?」
怪訝な国王の声に恐る恐る顔を上げると、
「光が…無い…」
「なんだこれは!」
「総統殿、お静かに。王が対話しておられる。」
国王は目を瞑り、ぶつぶつと何かを話す。
「……!」
王は突然目を見開き、僕の目を真っ直ぐに見つめる。その目には、
「今すぐ此奴を殺せ!」
混乱とも憎悪ともとれる感情があった。
「何故でございますか!」
「総統殿、話は後だ。」
いつの間にか後ろに移動していた騎士団長が剣を抜く。その途端、
「理由もわからぬままですまないが、どのような理由であろうと、神の意思であることに変わりはない。」
先程までは微塵も感じられなかった、圧迫感が…
「大人しくしてくれ。」
「危ないっす!」
激しい音がして、目の前で火花が散る。
「貴様は!」
「やっぱ親子ですね!いきなり剣を抜くとは…ぐっ…」
「それが『
騎士団長の剣を受けていたのは大きく、淡く緑に輝く盾だった。
「わ!なんか出てるっす!」
「ありがとうエスト!」
「礼はいいっす!今はとにかくここを離れたほうがいいっす!」
僕は慌てて立ち上がり、祭壇を降りて駆け出す。
「待て小僧!」
「人が多すぎる…誰でもいい、そいつを捕えろ!」
大混乱の中をくぐり抜け、大聖堂を出る。そのまま後ろは振り返らずに走った。
「逃げられた…軍に後を追わせる!騎士団長殿は王の警護を!」
「ありがたい。だが、私も力を貸そう。…リンドバーグ!」
騎士団長が呼ぶと、物陰から青年が現れた。
「はい、団長。」
「街中の全騎士団に通達。お前の『
「拝命します。」
「行け!」
命令を聞くやいなや、青年は一瞬で物陰に消えていった。
人がいなくなった大聖堂。震える国王に騎士団長が駆け寄る。
「国王様。あの者は…」
「サリオン神から啓示があった…『彼の者はいずれ世界を滅ぼし、我をも殺しうる者。
「
「そういうことじゃ。一刻も早く見つけ出して殺せ。」
「失礼ながら間違いなどは…」
「お前、神を疑うのか?」
「いえ、啓示は全てが絶対的真実。そこに一切の疑念を挟む余地はありません。」
「そうじゃ。…あれを人と思うなよ。あれは神に反逆した獣だ。情けをくれてやる必要は無い。」
「…承知しました。」
「…はぁっ、はっ、一体、どういうことだよ…」
流石にもう足が動かない。一応街の外まで来たものの、まだ油断はできない。相手は国だ。一刻も早く遠くに行かないと…
「…大体、なんで『
いくら力を込めても、手を振っても、何も起こらない。
「帰ったらなんて言えばいいんだ…いや、家が一番安全だ。家に帰ろう。」
重たい足を引きずり、家に戻るとそこには、
「…!(あれは…国軍!?)」
家の周りに十数人の軍人が立って辺りを警戒している。僕はとっさに茂みに隠れた。
「(声が聞こえる…?)」
「まったく、なんなんだアイツは!大した武術の才能も無く、体格も貧相、挙句の果てに
「お父様、落ち着いてください。」
「落ち着いていられるか!それに私はもうアイツの父でもなんでもない!虫ケラを育てた覚えなどない!」
「…ねぇ、この懸賞金って、私達が捕まえても貰えるのかしら…?」
「(懸賞金だって?)」
母さんが持っている紙切れには僕の顔写真が貼ってある。その下には0がたくさん並んだ数字が書かれている。街から逃げ出したことが知られ、おそらくもう国中に僕の顔が広まっているのだろう。―神に反逆した、極悪人として。
「確認は取りますが…事件解決にご協力いただけるのであれば、おそらく対象内ではあるかと…」
「ほら、あなた聞いた?ここは一旦軍人さん達には隠れてもらって、アイツが帰ってくるのを待ちましょうよ。」
「…アイツともう一度顔を合わせろと?絶対に嫌だぞ!」
「少し我慢するだけよ!…16年よ…今日までの私達の16年を無駄にしたんだもの…少しくらい役に立ってもらわないと、ね…?」
戦慄した。目の前で繰り広げられる会話が、今朝、暖かく送り出してくれた両親の会話だとは微塵も思えなかった。
「そうと決まれば準備しましょう。…軍人さん、引き渡しは生死問わず、だったわよね?」
「ええ、そうですが。」
「ふふふふふふ…なら、これまでのお礼をたっぷりしないとね…ふふふふふふふ…」
今まで見たことのない両親の顔と声に、ただ目と耳を疑った。
「(逃げなきゃ…!もっと遠くに、もっと、もっと…)」
茂みをそっと抜け出し、音を立てないようにその場を離れる。
耳には、あの気味の悪い笑い声がこびりついたままだった。
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