いつからか離れていった君へ (旧)

色彩

バッドエンドルート

高校1年 慎二編 最後の勇気


▶︎始めから

 続きから



ピッ



プログラムを起動。正常に作動しました。

「いつからか離れていった君へ」を開始。








-------------------------------------------------------------



突然だが、僕には彼女がいる。

新崎遥っていう女の子だ。


彼女との出会いは僕が屋上から飛び降りようとした時だった。その頃の僕は日頃の学校生活での自分を取り繕うという行為から自分の不満を誰にも言えずに溜め込んでしまっていた。そしてもう生きているのが辛いと思って飛び降りようとしていた。


そんな時に彼女と出会い、死ぬのを止められた。そこからだんだんと接してくれた。いつのまにか本音を言いあえる仲になりいつのまにか惚れていた。そして、冬休みが入る前に勇気を出して告白した。


彼女は戸惑いながらも最後には喜んでと言ってくれた。そこからの中学校生活は彼女と一緒に受験勉強したり、一緒に神社に行ったりと楽しい生活を送れていた。


いつのまにか学校に行くことが楽しみになってもいた。この時の僕は彼女とずっと一緒にいられると、そう思って疑わなかった。


彼女が変わったのは中学最後のバレンタインの時だった。遥はチョコを渡してくれる時に


「私が綺麗になったら、シンくんは嬉しい?」


と聞いてきた。僕はどんな彼女でもよかった。なぜなら外見に惚れたのではなく、内面に惚れたからだ。だが、聞いてくるということは変わってみたいということなのだろう。そう思った僕は


「嬉しい...かな。」


と言った。そしたら彼女は頑張るねっとまぶしい笑顔でそう言ってくれた。やっぱり優しくて明るい彼女が好きだと改めて認識した。


その次の日から彼女は変わっていった。ファッションに気を使うようになり、どんどんより女の子っぽくなってとても綺麗になっていった。彼氏の僕ですら驚いてしまったくらいに。


嬉しくもあったけど、他の人が近づいてこないかとても不安になった。幸い中学校では遥の悪い噂が流れていたのもあって、人は近づいては来なかった。彼女は授業をよくサボったりしていたので不良みたいに扱われていた。


僕が遥と接してると知られてからなんども止められるくらい悪い噂は侵食していた。僕の彼女を悪くいう噂は嫌だったけど、彼女に近づく男がいないという点では感謝していた。そんなわけで僕たちは誰にも邪魔されずに中学校生活を楽しむことができた。








しかし、高校に行ってから全ては変わった。


高校には僕と遥以外、誰も同じ中学の人はいなかった。だから、噂を知る人はいない。僕たちが付き合っていると知っている人もいない。その結果どうなるかはハッキリしていた。男女問わず遥と仲良くなりたい人が沸いて出たのだ。


初日から遊びにも誘われていた。でも彼女は僕と帰るからと言って抜け出してくれた。嬉しかった。他の人と仲良くするより僕と帰ることを選んでくれたことがとても嬉しかったんだ。


中学の頃は毎日一緒に帰っていた。それに高校に入ってからも2ヶ月はずっと一緒に帰ってくれた。コレからも一緒に帰れると心のどこかで信じていた。


でもだんだんと彼女は僕と帰ることがなくなっていった。一週間に4回、3回、2回、1回、2週間に1回となっていっていつのまにか1ヶ月に1回一緒に帰るかどうかになっていた。


僕はどんどん一緒に帰れなくなっていって心が痛かった。学校でも彼女は囲まれていてあまり話すことができない。だから一緒に帰る時だけが僕と遥の2人きりになれた。


でもそんな時間も減っていったのだ。もっと一緒に帰りたいと伝えたらよかったのだろう。でも、彼女に迷惑をかけたくはなかった。迷惑をかけて、嫌われて別れられるなんてことが起きるのが怖かったんだ。


あまり接することもない男女、いつも友達といてキラキラかがやいている女の子といつも教室の隅で最低限の会話しかしない男の子、そんな2人が話の話題も合うはずがなかった。


貴重な2人きりの間でも話すことができなかった話してみても会話が合わず途中で途切れてしまう。気まずい空気が続いていた。


あまり話さなくなってから数ヶ月、彼女も僕の前で笑顔を見せることも、話しかけてくれることもなくなっていた。ただ無言で並んで帰るだけ。そんな2人を見て誰がまだ付き合っていると思うのだろうか。少なくとも僕ならそうは思わない。


実際に彼女はよく告白されるようになった。

このままじゃいつか奪われることなんてわかってた。いつか、僕よりいい人が彼女に告白して彼女は受けてしまうだろうとわかっていた。


でも言えなかった。告白受けるのをやめて欲しいと。他の男と一緒にいすぎだと。もっと一緒にいたいと。臆病な僕に言えるはずがなかった。


高校入って初めてのバレンタインの日、僕は課題を忘れて居残りをさせられていた。課題を終わらせ顔を上げると、いつのまにか最後の1人になっていた。


教室の鍵をかけ、職員室で鍵と課題を担任に渡し、学校を出た。もちろん彼女が課題が終わるまで校門の前で待ってくれているなんてことはなかった。


トボトボと帰り道を歩く。周りはすっかり暗くなっていて、古い街灯がチカチカと光っていた。一回バレンタインのチョコをもらえなかっただけでこんなにも気持ちが暗くなるのか。とことん僕は惨めだと思った。


(冷たっ)


急に冷たい何かが顔に当たった。なんだと思い、上を見上げると、白い綿がゆっくりと天から降りてきていた。


(雪....か...)


なんだか動きたくなくなり、しばらく雪を見ていた。手を出してみると雪は魔法のように優しく溶けて消えた。僕も雪と一緒に消えてしまいたいと少し思った。


「....帰ろう。」


しばらく経ってから顔を帰る道の方へ向けた。その時だった。たまたまお店が目に入ったんだ。


お店だけならまだよかった。


でも...そこには僕の彼女であるはずの遥と知らない男がいた...

遥とその男は笑いながらチョコを選んでいた。その姿は周りから見ればカップルそのものだった。遥のあの笑顔も最近は全く見ていないものだった。


(嘘......だ...)


僕はどこかでまだ期待していた。僕と遥は心では繋がってるから大丈夫だと。話は合わなくとも別れることはない、ずっと一緒なんだと....


だからこそ、ダメージはとても大きかった。頭がフラフラする。何も考えられない。考えたくなかった。考えれば考えるほど、僕が振られたという事実だけが残るのだから....



そこから僕がどうやって帰ったか覚えていない。ベットの前まで行き、死人のように倒れ込みそのまま眠った。とにかく現実から目を背けたかった....









次の日の学校は休んだ。彼女の顔を見たくなかった。彼女を見たらまた嫌な想像しかできなくなるから。


幸い心配をかける人なんていなかった。家族は僕が幼稚園に行ってる時にみんな事故にあって死んでしまった。今は家族の遺産で生活をしていた。


(もうなにもやる気が起きない...)


家族を失ってから、本音を言いあえる人は遥だけだった。そんな偽りのない関係が僕は好きだった。でもいつからか自分の気持ちを出すことを躊躇って、すれ違って....


最終的にはこうして捨てられてしまった。

もう無理かもしれない。もう誰も信じることができない。誰かに心を開くのが怖い。心を開いて裏切られるのが怖い。


負の感情が僕の中を染めていく。今日一日はずっとそんなことを考えていた。




いつのまにか次の日になっていた。流石に連続で休むことはできない。授業についていけなくなるし、復帰した時に周りから変な視線を送られる。そうなるのは嫌だった。


ゆっくりと歩きチャイムギリギリを狙って教室に入った。少し見られはしたものの、もうすぐSHRが始まるので誰も話しかけてくることはなかった。


遥の方をチラリとみる。彼女も僕を見ていた。心配してくれているようだった。彼女は優しいから、元恋人の事も心配してくれるのだと思った。嬉しい。たとえ、もう好意を寄せられていないと分かっていても好きな人が心配してくれてとても嬉しかった。






僕は昨日決めたことがあった。何度も悩んだ末にある決断をした。そのことは彼女と別れるということだった。僕はまだ彼女が好きだ。でも僕なんかが彼女を縛ってはいけない、彼女の幸せを望むべきだと決めた。このことを決めた後、涙が止まらなかった。それでも決めたんだ。彼女と別れるって。









~放課後~

僕は勇気を出し、遥の周りにいるクラスメイトをどかして彼女に話しかけた。


「ちょっと大事なようがあるんだ。いいかな、遥?」


彼女も何か僕に言うことがあったのか快くOKしてくれた。そして僕たちは誰もいない教室へ向かった。


教室につき、誰も入ってこないように鍵を閉めた。遥ははこの音にビクッと肩をはねらせた。


「なんで鍵を閉めたの?」


どうやら何かされるのではないかと不安だったようだ。


「誰にも聞かれたくないから閉めたんだ。なにもしないから安心して。」


と彼女に説明する。


「別に慎二にならぁ.....」


何か彼女が呟いたが聞こえなかった。そんなことに注意を向けることなんて今の僕にはできなかった。別れようと言うことが僕には最大級の勇気がいるのだから。


「それで話ってなにかな?」


彼女は僕の要件を聞いてきた。その顔はどこか不安で、どこか期待も持っているように思えた。


...ふぅ


息を吐きこの瞬間に全てを集中させた。


「僕たち、もう別れよう...」


「...ぇ..」


言えた。言ってしまった。少しの後悔がチラチラと頭をよぎる。そんな頭を僕はブンブンとふり後悔を散らした。


(もう決めたことなんだ。逃げちゃいけない。)


心の中で自分を納得させる。コレで僕たちの関係が終わると思うと少し涙が出そうになってしまった。でも流さない。コレはいままで彼女と向き合ってこなかった僕が招いた結果なのだから。


コレで彼女が快く別れを告げてくれたら全てが終わる。後ちょっと頑張ればいいだけ、そう思っていた。でも彼女は何も言わない。


いままで彼女の顔を見ていなかったが、溜まっている勇気を全て使い切るつもりで顔を上げた。


彼女の目からは雫が1つこぼれ落ちていた...






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る