第5話 手紙 〜陽光の季節〜
ウェンリー子爵家 執事 ザック・レーゲン殿
祝福の季節が過ぎ、陽光の季節になりました。こちらではもう窓を開けて夜を過ごしていますが、そちらはいかがでしょうか。
ザック、あなたへこんな手紙を書くと少し前のわたしは考えていなかったでしょう。
いえ、手紙を書くことは決めていたのです。ですが、もっとありきたりなこと、例えば、上手くやっていけそうだとか、何も不自由はないだとか、そういった内容を書こうとわたしは考えていました。
けれどそう書くことはやめたのです。
それはなぜかというと、わたしを送り出す時、ザックをはじめ古くからウェンリー家を支えてきた人たちの、辛そうな顔を思い出すと、ただ安心させるためだけの言葉を書きたくなかったからです。
ても、上手くやっていけそうなのはそうだし、不自由なんてこともないのも確か。それにお父さまとお母さまの導きもあって。
ああ、これじゃ何をいってるかわからないわね。
つまり、もっと良い状況にわたしはあるということなのだけれど、それを手紙に書くことは難しくて。
書けるとすれば、オスカー様はとても優しい方で噂されているようなことはなにもないということかしら。それに、なんだか心が軽いの。
心配してくれて嬉しかった。わたしは元気だから安心して。
この出会いをもたらしてくれた父と母、守り育ててきてくれたザックと皆に感謝を。
ジェラルド・ウェンリーの子 マリアンヌ
◆
ブラッド辺境伯家 マリアンヌ・ウェンリーさま
お手紙頂き感激致しました。
陽光が力を増し暑さは日ごと増すばかりですが、恵雨祭が近づいた証でもあり、日々を楽しみながら過ごしております。
マリアンヌ様が辺境伯家様で無事にお過ごしであることがお手紙から伝わり、胸が一杯でございます。
見送ることしかできぬ老いぼれめに過分な感謝のお言葉を書き添えて頂き恐縮でございます。
ジェラルド様、ティア様の御霊へ必ずお伝えさせて頂きたく。
辺境伯家、ご家中の皆さまへお伝えしたいことを同封しておりますので、お手数ですがお渡し願います。
マリアンヌ様の幸せを願って。
ウェンリー子爵家 執事 ザック・マルク・レーゲン
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