第6話

東日本では自衛隊に志願する日本人は多いが、西日本では中国側につく者は皆無である。無論、中国側もそれを強行させようとしたこともあるが、それらの日本人は中国兵を撃ち殺すか自殺するかのどちらかだったから結局は中国人民軍で動くしかなかったのであった。街ではいばり散らしてる中国兵ではあるが、日本人からは冷ややかな目で見られているだけで、なかなか中国教育が浸透しないのもそのせいである。


一方、飲み終わった二人は


「明日もフル回転だからもう帰るわ。」


と伴場が言った。


「ああ、そうするか。」


と言ってその場で解散することになった。私は次の日の仕事の内容を確認した。


「なになに?犬の散歩?朝5時?はや!酒残ってないかな?まあ、早く帰って寝よう。」


朝4時にアラームをセットして寝床についた。


翌朝。


「あ~眠い!こんちくしょうー!」


私は眠くて起きるのがしんどい時、罵声をあげると目が覚める。だから朝一叫んでいる。


「さて、あのお嬢ちゃんの所へ行ってくるか。」


戦争のせいでインフラは整っていない。だからほぼほぼ徒歩かよくて自転車だ。あのお嬢様みたいな方は車に乗れるけど、一般人が車に乗るなんてお上が許してくれない。中国人だって車に乗っているのは軍人だけだ。もっぱら焼野原になった日本に興味を持つ中国人は、日本の品質の良い製品を作り出す会社の技術を乗っ取って工場を再建している富裕層ぐらいだ。それらが車などを持っている。


そんなわけでいそいそお嬢さんの家まで走って行った。


「はぁ、はぁ、はぁ。これなら瘦せられるな。」


お屋敷のインターホンを鳴らした。すると二匹のドーベルマンが


「ガウ!ガウ!グルルルル!」


と吠えてきた。門は開いておらず、餌食にはならなかった。


「こら!ドー、ベル!やめなさい!おはようございます、しゅんちゃん!」


と件のお嬢さんが出てきた。


「おはようございます。詩織さん。ところでドー、ベルって結構安直な名前ですね。」


「フフフ。おじいちゃんがつけてくれたの。可愛いでしょ?」


「このワンちゃんを散歩させるんですか?少し怖いんですけど。」


「大丈夫よ。私がいたら何にもしないわ。それじゃあ行きましょう!」


「え?詩織さんも行くんですか?」


「もちろんです!」


「それだったら私が別に仕事をしに来なくてもいいのでは?だがそれでも給料になるから...」


「何か言いました?」


「いえ、何も。」


「それじゃあ行きましょう!」


しかし何だろう?私は今まで埃や油にまみれて仕事をしてきたのに、ことこのお嬢さんとの仕事は別世界だ。みんなは過酷な労働環境下で働いている。それなのにこのお嬢さんたちはそんなことも気にしないで生きている。この有事が起きる前はそれが当たり前だったからこの僻んだような気持ちが浮かぶのだろうか?それともただ単に妬みや嫉みなのだろうか?楽して金を稼ぐ。それはそれで嬉しいことだが、伴場達の顔が浮かぶ。そうか。罪悪感の一部でもあるのか。


「どうかしました?ドーとベルもしゅんちゃんになついているみたいですよ?ほら!」


ドーとベルが「ハッハッハッ」としっぽを振りながら私の顔を見上げている。


「おやつをあげてみてください!」


と詩織が言っておやつを手渡してきた。私はおやつを手に取ってドーとベルにあげてみた。すると無邪気におやつを二匹で競って食べた。


「本当ですね。私にもなついてくれるんですね。」


「この子たちは無垢です。喧嘩をすることはありますが、あの殺し合う人間とは違う...!」


詩織が最後に語気を強めて噛みしめるように言い放った。この子もただのお嬢様というわけでもないのだな、と初めて分かった。

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