Rising Sun of far east
秦野 駿一
第1話
「ガガガ...ガガガ...ガガ..」
「どこかで見た風景だな。」
一面コンクリートの破片の焼野原。鉄筋がむき出しになっている。この場所で私はがれきをあさり、解体し、使えるものを拾っては収入になるものを探している。
ウクライナ、ロシアの戦争から端を発し、中国の権威が猛威を振るった。この時、日本は大阪都構想が勃発し、奇しくもそれが日本を東西と分ける結果となった。この都構想を練った政治家は売国奴として名をはせたが、中国側に身柄を補足された。結果としては西部、関西地方以西部の結束のためにその売国奴の名を文字通り売って公開処刑された。これによって西部はある意味の政治的安定がなされた。
東側はというと、諸々のアメリカ軍の基地が西部に偏って配備されていたが、それが押し返されるように横浜などの東の基地へと移っていった。つまりは実質の敗北であった。
この戦争で緊迫感はあるものの、東側の生活はさほど変化はなかった。各々の権利は尊重され、兵役はあるものの、自由は保障されていた。一方、西側は中国の教育の手が入った。かつての日本帝国、いや、それ以下だ。中国語の教育をされ、過酷な労働。メタンハイドレートの潜水掘削士などと人非人の扱いが続いた。私の仕事はまだましな方だった。ただのがれき集めだった。かつてのホームレスとなんら変わりない。いかに我々日本人が恵まれた生活を送ってきたかだ。私は精神疾患を持っていたが、それでも簡単な仕事を与えられ、それをこなしていれば給料はもらえた。そして何より障害者年金というものもあった。私は障害者だから...と卑屈になっていたものの、現在ではそんな余裕なんてない。ただひたすら仕事をしなくてはならなかった。生きるために。明日のために。私のために...。
「おい、秦野、今日スロットにいかないか?」
伴場が声をかけてきた。伴場は私にスロットなどを教えてきた言わば悪友である。
「お前また行くの?俺は金がないよ。」
と私は答えた。すると伴場が
「1万jen貸すよ。」
と言ってきた。jenとは元と円が混じった西側での通貨の呼称のことである。
「それなら酒をおごってくれよ。」
と私が言うと
「スロット行ってくれたらな。」
と伴場が答えた。
伴場は寂しがりな性格である。私はとても話しにくい人間、所謂、コミュ障なのだが、伴場はよく私をスロットなどに誘ってくれた。
この頃のスロット台はVRゴーグルとヘッドホンをつけて3Dの臨場感があふれるものが主流だった。ここぞという場面で倍プッシュできて掛け金も多くなる。その分儲けも多いが負けも酷くなる。なにせ中国企業が作ったもので勝とうとする方がおかしいというものだ。しかしそこは中国側も分かっている。適度に勝たせて負けさせる。今までやってきたやり方では日本には通じないということを国民性から学んだようだ。
そう、国民性というと、西側の中国人の国民性も変わってきているのだ。初めは中国特有の小中華思想であったが、日本の文化に触れることによってどんどんその境界の曖昧な文化を吸収しだした。中国ではありえなかった開放的な文化、思想、そういったものに触れることになった。もちろん、西側での言論封鎖や監視の目はキツイが、日本人を飼いならすためにはある程度の娯楽は容認された。人非人扱いの日本人と比較して中国人はその日本の思想にある意味の憧れを持ってきていたようだ。
話は元に戻り、結局伴場とスロットに行く事になった。その結果、普段勝てない私が大勝をして伴場が負けることとなった。
「おい、秦野、お前が酒をおごれ。」
「ああ、いいよ。特上の紹興酒をおごるよ。」
そう言って二人は飲み屋街へと向かった。
飲み屋街は治安は悪い。権力を傘に中国兵が横暴にしていた。
「该死的日本人挡道了!」
「え、え?なんですか?」
と私が言うと、中国兵は殴りかかってきて
「勉強しろ。中国語。」
と言われ、私は
「対不起。」
と言った。
と言って我々を後にした。私たち40過ぎの中年は中国語教育は受けていない。だから中国語は分からないのだ。わかるとしたら。「謝謝」「対不起」ぐらいなものである。「ありがとう」と「ごめんなさい」を知っていればたいていの場合なんとかなる。
「くっそ。なんだよあいつら。民度が低いんだよ。クソ!」
「シー!黙ってろ、秦野。聞かれたらまずいぞ。」
伴場の言う通りである。下手のことを言うと拘束されてしまうか、リンチにあうかどっちかである。
「まぁ、酒飲んで忘れようぜ。」
と伴場が言い、
「そうだな。」
と私が言って居酒屋に入った。
日本食は中国人にも人気だ。刺身や枝豆、牛タン、馬刺しなどと昔からあったコース料理が人気だ。おでんなんかも人気が高い。つまり、居酒屋のメニューはほとんど変わっていない。そのままのメニューが好まれているのだ。酒は青島ビールと紹興酒が入ったぐらいだ。
「しかしよう、伴場、こうして俺たちは紹興酒飲んでるけど、いつこんな生活から解放されると思うか?生まれた場所が西ってだけでこうも差がある生活を送っている。」
「それはな、かつての韓国と北朝鮮の関係と一緒だ。生まれながらに不平等なんだよ。それを嘆いてもしかたがない。明日のことを考えるんだな。」
「伴場は大人だな。」
このとき朝鮮半島情勢も全て中国に取り込まれていた。far eastの覇権は全て中国のものとなった。東日本を除いては。
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