あちら側の幸せ

加藤やま

あちら側の幸せ

――やっぱり、もうこんなこと終わりにしよう。


 決意を胸にいつものベンチに腰かける。

 それでも、いつものように笑って手を振りながらやってくる姿に思わず胸が高鳴ってしまう。


「いやぁ、今の今まで離してくれなくてさ、困っちゃうよなぁ……」


――それは私が1番聞きたくない話でしょ。なのに、あなたは何も気づかないでうれしそうにするよね。笑顔であいづちを打ってしまう私が悪いのかな。


「毎回結奈を待たせるのは悪いなって思うんだけど。」


――気安く下の名前で呼ばないで。いちいち胸が反応してしまう自分が嫌になる。


「そういえば、こないだ一緒にプレゼント選んでくれてありがとな。」


――そんなの…仕方ないじゃない、それくらいしかあなたに会う口実はないんだから。でも、もうこういうのももう終わりにするの。


「あいつめっちゃセンス良いって喜んでたわ。相談して良かったぁ。毎年結奈がくれる誕生日プレゼントのセンス良いもんな。」


――当たり前よ。どれだけあなたのことを考えて選んでると思ってるの。


「これからも頼りにしてるからさ。よろしくな。」


――そんなこと言っても無駄。もう会わないって決めたんだから。


「もう遅くなったな。そろそろ電車なくなるんじゃないか?」


――そんなの気づかなくても…遅刻してくるくせに私といるときはいつも時計を気にしてるの。やっぱり、あなたなんかと会うのは今日で終わりにしよう。


「ねぇ、私たち……」

「あっ、そうそう。髪切ったんだな、その内巻きもいいじゃん。」


――ずるい。どうしてそういうことをさらっと言ってしまうの。私が髪切ったってどうでもいいくせに。


「それじゃあ、またな。」

「……うん、またね。」


――いつも、あなたのたった一言で縛られてしまう。

  同じ決意を何度固め直しても、どうしてこんなに簡単にほどかれてしまうの……

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あちら側の幸せ 加藤やま @katouyama

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