第1章 事件の臭い

くるってるのはぼくじゃない

「ただいま」

「お帰り、ご飯できてるよ」

「あぁ、ありがとう」


さっきまで小学校からの悪友と遊びにいっていたところから帰ってきた

悪友っていうのは小学校の頃に虐めてしまったやつがいるから

正直、今思い返すとあの頃の俺らは今よりもずっとクソ野郎だった

今あいつはどうしてるんだろう

きっと児童相談所だか何だかを出て真面目に仕事でもしてるんだろう


「借金まみれの俺とは大違いだよなぁ」

「なに?お友達の話?あんたそんなこと言ってる暇あったら借金返しなさい?」

「いや違うよ、知り合いというかなんというか・・・まぁ昔のこと思い出してた」

「そう、それよりあんた最近はギャンブルしてないみたいだけど借金返済も終わってないんじゃない?大丈夫?」

「わかったわかった、ごめんって」


まあいい、昔のこと思い出していても仕方がない

正直申し訳ないとは思ってる

すまんな、でも今の俺はこんな社会不適合者だから許してくれ


「ご馳走様」

「はい、洗っとくから早く寝なさいね?」

「うん、もう寝る」

「はい、おやすみ」

「親父は?」

「今日は出張で帰ってこないみたいよ」

「あ、そうなんだ。まあおやすみ」

「おやすみ」


そそくさと二階に上がりベッドに入る

明日からは仕事だからさっさと寝ないと


結婚もしたことないし付き合ってる彼女もいないから

実家暮らしなんだが、将来は彼女と同棲でもしたいな

とか、どうせ叶わないのにそんな夢を考えながら眠りにつく




「おはよう」

「ん?え?」


見知らぬ場所、そして見知らぬ人


「ここ、どこだ!?ちょっと、え?コレ夢じゃないんだけど、は?」


後ろで縛られているのか、手が動かない

縛られている痛みでこれが夢では無いことを強制的に感じさせられる


「覚えてる?ぼくのこと」

「おい、ここどこだよ!というかお前誰だよ!縄解け!」

「覚えてないんだ、そっかそっか、じゃあぼくにはいたぼう言の数々も?」


暴言を吐いた?それってまさか


「いや、まて、お前、小学校の頃虐めてた奴か?」

「あ、覚えてたんだ。よかった、だったらこの状きょう分かるよね?」


待て待て待て、どういう事なんだよこれ

俺は家のベッドで寝たはず、だけどこの状況が夢ということはまず無いだろう

何故なら縄で縛られてる俺の手が痛いから


「いやいや、まて、何するつもりなんだ!?というか、おい!俺の母さんまで居るじゃねぇか!解けよ!」


この部屋はなんなんだ、薄暗く明かりはないが少し見える

そこには壁に大量の刃物がぶら下げてあり、明らかに好意的な部屋では無い

さらに後ろには馬鹿みたいに大きなミートチョッパーがある

おそらく挽いた肉を出す場所の下にはガラス張りの受け皿、というか大きな水槽がある


中には見るもおぞましい光景が広がっていた

何の肉かは知らないし、知りたくもないが大きなミートチョッパーで引かれた肉。

バキバキになっている骨。

見るだけで吐き気を催す変色した血。


これは、確実に死ぬ


「ま、待ってくれ!あの頃は本当に申し訳なかったって思ってる!」

「え、何急に」

「確か俺がお前に暴言吐いたんだよな、それは本当にすまなかったと思ってる!」

「へぇ、それで?」

「生かしてくれるんだったら本当に何でもする!だから殺さないでくれ!お願いだ!」

「反せいした?」

「ああ、もちろん!本当に悪かったと思ってる!」


怖い、死がそれこそ目の前にある

目の前の奴の目は何も笑っていない

自分のせいで母さんが死ぬかもしれないと思うと余計怖い

本当に申し訳なかったって思ってるんだ

本当にだ!ごめん、ごめん!!!


「そっか、じゃあいいよ」

「あ・・・へ?」

「ほんとに反せいしてるんでしょ、だったらいいよ」

「え、えほんとか?」

「あはは、うそだよ!」


俺自身が昔虐めてしまっていた目の前の奴は化け物のような笑顔を浮かべて

壁に掛かった近くにある刃物を慣れた手付きで取り外す


「あがぁ!・・・ゴフッ!!!」

「ゆるすと思った?そんなわけないでしょ、お前たちがぼくの人生をこわしたんだ」

「ゲホッゲホゲホ!!!はぁはぁ、やめ、て、くれ」

「ぼくも、ぼくも言ったよ。『やめてよ』って。でもそれを聞いてくれた?悪口言わなくなった?」

「あ、あああ、いや、い、ってt・・・」

「だよね!?じゃあ!こうされても!文句は!言えないでしょ!」


そう言いながら奴は俺の体をグサグサと滅多刺しにする

体が熱い、痛いという感覚が薄れ、

ただただ体が熱かった

どうしよう、どうしよう


「もう、どうもすることなんてできないよ」


俺の心が読まれたかのように俺を滅多刺しにしながら奴は言う


「きずってかん単にはなおらないんだよ、それは心だって同じ」

「あっ、がぁあ」

「同じ所を同じ様に何度もきずつけられて。どんな気持ち?絶対になおらないきずは」

「や、あ、やめ、て」

「いやだよね、知ってる。ぼくもそうだったから」


俺はこいつに何をしたんだ?

命を奪おうとなんてしていないし。ここまで刺されるようなことも言った記憶はない

それにとても昔のことなのに、今日思い出した位は後悔している


「な、なんで、こ、なに、するんだ」

「何でこんなにするのかって?じゃあ逆に聞くけど、あんなにやめてって言ったのになんであんなにしたの?」

「ぅぅ・・・」

「それと同じ、だよ!」

「ゴフッ!!!」


最後の一振りと言わんばかりに何度も刺された傷口に思い切り刃物を突き刺す

もう、意識を保っていられない

どうなっても死ぬという事実があった

だから、これだけは最後に言いたかった


「か、母さ、ん、は、やめ、て・・・」

「えー仕方ないな」

「い、いい、の、か?」

「特別だよ?」

「あ、ありが」

「なんていうと思った?」

「お、おねが、いだから」

「ぼくも」

「あ、ぇ?」

「ぼくも昔そんなことがあったな」

「な、なに、いってる、んだ?」


突然意味の分からないことを言い始めた

何で今殺されかけている俺が言った事がこいつにもあったんだ

あるわけないだろ、死んでないんだから

いや、まて、こいつの親がいないのってまさか!


「お前も、俺と、お、同じ?」

「・・・そうだよ、結局ぼくだけが助かったけど、君は一緒に送ってあげる。地獄に」

「あ、ぁぁああ」


本当に、本当にごめん

こいつも、母さんも、親父も

今まで色々迷惑かけてごめん


ごめん


「さよなら」

「ぁ」


意識が完全に途絶えた


〇●〇●〇●〇


「あぁ、今回のこいつはホントに反せいしてそうだったな」


そう言いながら、たった今息たえた目の前のやつを

ミートチョッパーに繋がっているベルトコンベアに乗せる

こいつの母親も、ねむっている間にベルトコンベアに乗せる


完全にしょうこは消さないといけない

なぜか父親はいなかったみたいだから、少しけいかいしないと


「ああ、出てきた」


ぐちゃぐちゃのにくになって出てきた

まるで、ぼくの心の中からぐちゃぐちゃが出てきたみたいな

そんな、少しすっきりした気持ち


ぼくの人生をうばったやつの人生は全員うばう

それはそいつらの家族もそうだ、こんな子供を育てた家族は死ぬべきなんだ


よう少期、なにもしてないのにりょう親も、自分の人生も、そんげんも

何もかもをうばわれた

それは、りょう親を殺したやつらだけじゃない

周りの言葉や悪口だって、ぼくを殺した

ぼくの心を殺した


今のぼくを見て、くるっていると言うやつは全員おかしい

くるっているのはぼくじゃない


「こんなぼくを作り出した世の中がくるってるんだよ」


言葉の重さ、君たちは知らなかったんだね

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