第4話 瓦礫に埋まる街(その5)
テーブルと、椅子と、鏡台くらいしかない部屋で、定睦はテーブルの安定性を確かめてから翠に声を掛ける。
「ここにおろしてくれい」
「はい」
翠がテーブルにホーネットを座らせる。
ホーネットは顔を伏せ、やっと聞こえるくらいの声でぼそりと翠にささやく。
「ありがとう」
そのホーネットへ定睦が声を掛ける。
「ほれ、横になれ」
ホーネットは少しだけ苦痛に顔をゆがめながら、仰向けになる。
定睦がさらに促す。
「さて、キャストオフしてもらおうかの」
「……」
ホーネットは答えず、黙って天井を見ている。
「どうした?」
訝しげに見る定睦に、翠が声を掛ける。
「標準規格の構造だと、第二肋骨を長押しすればキャストオフされますけど……」
しかし、定睦は穏やかに笑って返す。
「いや、当人に意識がある場合は、当人の意志を優先させることにしとるのじゃ」
そして、改めて促す。
「さ、キャストオフじゃ」
冬祐は、手にしたままだったホーネットの右足を鏡台のサイドテーブルに置きながら、ヒメにひそひそと訊く。
「キャストオフって、なんだ?」
「“脱ぐ”ってことだよ。外装とか」
そこでようやく言葉の意味を理解した冬祐が、定睦に声を掛ける。
「その、キャストオフしないってのは……僕がいるから、ですかね」
ヒメが笑う。
「絶対、そうだよ」
「だよな。じゃあ」
冬祐が出ていこうとした時、ホーネットがため息をついた。
そして、定睦を睨む。
「そんなに見たいなら見せてやる」
ホーネットの外装――マイクロミニのワンピースのみならず、全身を覆っていた皮膚が解除されて素体が現れた。
そのグロテスクな素体は、冬祐には解剖途中の人体にしか見えなかった。
元の美しい姿とのコントラストが、余計にグロテスクさを際立たせているのかもしれないが。
しかし、定睦は動じない。
「最初からそうやって素直にすればよいのじゃ。わはは」
笑いながら大腿部の切断部に顔を寄せる。
そして、ポケットから歯医者が使うような
その間、ホーネットはじっと天井を見ている。
なにかを考えているような表情で。
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