第4話 瓦礫に埋まる街(その3)

 エントランスに入ってすぐ奥のメインホールでは“避難民”である数十体のアンドロイドが腰を下ろし、あるいは横たわっていた。

 その中から冬祐たちのもとへ駆け寄ったのは、人間の女の子だった。

 女の子の目線から目的を察した定睦が――

「お、これか」

 ――ペットロボットを差し出す。

「壊れとらんぞ。大切にの」

 女の子は満面の笑顔で定睦を見上げる。

「ありがとうっ」

 そして、翠に支えられるホーネットを見て、心配そうに表情を曇らせる。

「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

 ホーネットは驚いたような表情で女の子を見る。

 そんなホーネットの反応に、女の子は一転して気まずそうな表情を浮かべる。

 そこへ母親らしいスーツ姿の女が駆け寄り、女の子の手を引いた。

「瑠衣ちゃん。おねえちゃんは疲れてるから、そっとしておいてあげようね」

 口ではそう言いながらも、その硬い表情からホーネットを警戒していることは冬祐ですらわかった。

 女の子――瑠衣ちゃんは、改めてホーネットにぴょんと頭を下げる。

「ごめんね、おねえちゃん。ありがとう」

 そんな瑠衣ちゃんの様子にホーネットの表情が一瞬戸惑うが、すぐに思い直したように無表情に戻って顔を逸らせる。

 定睦と目があった。

 ホーネットは定睦を睨むと、吐き捨てるようにつぶやく。

「私が守ったのはペットロボットだ。人間に礼を言われる筋合いはない」

「ほほお」

 そんなホーネットを定睦が笑う。

 ホーネットはさらに不快な表情を強めて、噛みつくような勢いで問い掛ける。

「なにがおかしい」

 定睦は軽くいなす。

「いやいや。じゃあ、とりあえず傷を診ようかの」

 そして、その場を立ち去ろうとしている母親に声を掛ける。

「ちょっと、訪ねるが……個室はないかの」

 ホーネットがつぶやく。

「ここでいい」

 定睦がホーネットの顔を覗き込む。

「切断面を診るのにキャストオフの必要がある。個室の方がいいじゃろ」

 瑠衣ちゃんが母親に聞く。

「“こしつ”って、なあに?」

 定睦が答える。

「“ちいさいへや”じゃよ。どっかにないかの」

 翠が周囲を見渡す。

「多目的ホールなら、奥の方に事務室やゲストの控え室があると思いますけど」

 そこへ瑠衣ちゃんが手を挙げる。

「あたし、知ってる。こっちだよ」

 そして、困り顔の母親を引っ張って歩き出す。

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