第3話 駆け込み寺の大騒動(その3)

 夕方にはあれだけいたアンドロイドたちは、全員が充電ボックスに入っているのか気配すらなくなっていた。

 静まりかえった廊下を、ロボットに先導されて歩く。

 窓の外には、少しだけ丸くなった巨大な三日月が輝いていた。

 不意に聞こえる、風が木々を揺らす音と、鳥だか獣だかわからない鳴き声に、改めてここが山の中であることを再認識する。

 そして、考える。

 ここは一体なんなんだろう。

 由胡は、なぜ、ここに自分たちを運んだんだろう。

 先を歩いていたロボットが立ち止まって、冬祐を振り返る。

「あちらの部屋です」

 数メートル先の扉を指差す。

「ありがとうございます」

 冬祐は指示された扉の前に立って操作盤を見る。

 タッチパネルに並んでいるのは“開”と“閉”、そして“通話”。

 “開”と“閉”しか触ったことがなかったが、いきなり開けるのもどうかと思い、離れた所で見ているロボットへ聞いてみる。

「“通話”ですか」

 ロボットが上半身全体を使って会釈するように頷く。

 構造的に、首だけを上下させることすらないらしい。

 冬祐は“わかりました”と“ありがとうございます”を兼ねて手を振ると、改めて操作盤に向き直り“通話”を押す。

「誰じゃ」

 すぐに返った定睦の声に答える。

「垂水冬祐です」

 同時に扉が開く。

「なんじゃ、ひとりか」

 がっかりしたような定睦の肩越しに見えた室内の様子に、冬祐が目を見張る。

 その脇から定睦が身を乗り出し、離れた所でこっちを見ているロボットを手招きする。

 しかし、ロボットはさっき冬祐に見せたようにぎこちない礼を返すと、くるりと回れ右して去って行った。

 その後ろ姿に定睦が笑う。

「今時には珍しい旧型じゃろ? 二週間ほど前にふらっと来たんじゃが、優秀なんで秘書兼助手にしとる――」

 改めて冬祐を見る。

「――しかし、あいつはなぜかこの部屋にだけは近づこうとせんがのう。まあ入れ」

「は、はあ。……失礼します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る