第1話 女王様のお使い(その1)

 冬祐は、八角形の部屋にいた。

 天井と壁には巨大な同心円が意味ありげに描かれているが、それ以外にはなにもない。

 初めて見る部屋の様子に不安になり、自身の身体に目を落とす。

 着ている高校の制服も、履いているスニーカーも、そろそろ切ろうと思うくらいうっとうしく伸びてきた前髪も、見慣れた自分のものに違いない。

 しかし、ポケットの中にはいつも入れているはずの財布も、スマホも、ハンカチも、生徒手帳も、入っていない。

 改めて周囲を見渡す。

 壁の一画に扉があった。

 扉は近づいた冬祐に反応して、ヴンというかすかな音とともに自動で開く。

 扉の外には左右に通路が延びており、それぞれの突き当たりに扉がある。

 それ以外には窓も扉も人の気配も物音もない。

 一度、室内を振り返る。

 やはり、室内ここにはなにもない。

 ということは、ここに閉じこもっていても意味はない――そう判断して部屋を出る。

 右を見る。

 突き当たりの扉には“出発”と書かれている。

 左を見る。

 突き当たりの扉に書かれているのは“出発 進入不可 一方通行”。

 “進入不可 一方通行”ということは、この扉はこちらからは開かないことを表している。

 しょうがないので、右方向にある“出発”とだけ書かれた扉に向かう。

 その扉の先にあったのは、小さな部屋。

 部屋の中央まで足を進めて、ぐるりと見回す。

 壁の一面はテレビで見たホテルのフロントみたいなカウンターが設けられているが、やはり、そこにも人の姿はない。

 カウンターの両側には扉。

 冬祐が出てきた、カウンターの左側に位置する扉には、またしても“出発 進入不可 一方通行”の文字。

 カウンターの右側にある扉には“到着”の文字。

 そして、もうひとつ――カウンターの向かいにも扉があるが、そこにはなにも書かれていない。

 手近なところから、なにも書かれていない扉に向かってみる。

 その時、ふと、感じた。

 背後からの視線を。

 おそるおそる、振り返る。

 そこには無人のカウンターがあるだけで、やはり、人影も人の気配すらもない。

 湧き上がる不安を感じて――

「うん。大丈夫」

 ――あえて、声に出す。

 そして、改めてなにも書かれていない扉の前に立つ。

 静かに扉が開く。

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