第二章【第一話】「妹+ヒロイン=究極」

 ――いーちゃーん おーい おーにいーちゃーん――

 「………」

 ――おーい おにーちゃーん――

 「………」

 ――こんだけ呼んでも起きねえとは… ああ お兄ちゃん 死んでしまうとは情けない――

 「…………」

 ――ん? 今お兄ちゃんの眉がちょーっと動いた気がしたけど?――

 「………………」

 ――いやこれは確信犯ですねはい いいから起きんかい!――

 そう捲し立てると、その細っそりとした腕や腰からは想像もつかない様な怪力で、少女は兄の布団を引っぺがす。あまりの力に、【少年】は瞬時に目を覚まし臨戦体制へ移行し……急速に緊張が解けた。

「もうちょいフツーに起こせんのか、我が妹よ。おはよう。」

「こんな起こされ方しても、なお挨拶をしようとするその姿勢は好きだぜ、マイブラザー。でも二度寝はさせねえぞ?」

 おはよう、といいながらもモゾモゾとベッドに入ろうとする兄を、妹は容赦もなく蹴り飛ばす。【少年】は20cmほど飛んだ。結構痛い。

 「それよりも、だ。我が妹よ。」

 「何でしょうか、我がお兄ちゃん様?」

 「なぜ、僕が起きていると分かったんだ?」

 まるで、ピンチに駆けつけたマフィアの同僚が実は裏切り者だった事が判明したシーンのように、トーンを落として【少年】は言った。

 それに対し、妹は何言ってんだこいつ、みたいな目を向けてハッキリと言った。

 「いや、『…』が多かったからだけど…」

 「なるほど、でも僕の思考は読んでくれるなとあれほど…」

 何も知らない人が聞けば、「は?」一択の返事に、しかしシンクロ率120%超えの双子の兄である【少年】は、驚いた素振りもなく答える。

     ◇◆◇◆◇

 双子の兄妹――もはや説明不要、どころか説明するのは無粋とすら思わせる程のアツい関係。どうアツくなるのかは作品次第ではあるものの、どんなシチュでもおいしく頂けるくらいには完成しているためか、受信者の多くの目が肥えつつある。ちなみに、【少年】の誕生日は十二月二十二日。その冬休み突入直後という微妙な日付から【少年】は家族以外に誕生日を祝われたことはない。決して、【少年】が陰キャ過ぎて誰にも誘われなかった事実だったり、同じ日付に生まれた妹はその日に限って家に帰ってくるのが遅い怪異だったり、二回ほど終業式の日に被った真実だったり、これは全て作者の体験談であるという史実は指摘してはならない。決して。――

     ◇◆◇◆◇

 「それよりも、今日からお兄ちゃんは晴れてD2Kになるんだろう? どんな気分なんだい、あんちゃん」

 「それはお前もだろ。 あとD2Kって何だよ、いや分かるけど。」

 「もちろん、男子高校生の略さ。なんかD4●っぽいだろ? ちなみにあんちゃんが目指してる男子東大生はD――」

 「封印」

 「されねえよ」

 「されとけ。 法的にも倫理的にも感情的にもされとけ」

 「ひどい! 私がこんなにも愛しているっていうのに!」

 「ごめん。 君とは遊びなんだ」

 「恐ろしく分かりにくい『君すい』ネタ 私じゃなきゃ見逃しちゃうね」

 「畜生。 思考の共有をいい加減解除してくれ。もう疲れたんだ、我が妹よ」

 「別に共有はしてないじゃん。 私が、お兄ちゃんならこうするかなーってのを予測してるだけだし」

 「憎き双子の血統に、今こそ終止符を打つとき…」

 「D●Oか」

 「というか今更だけど、終業式は明日だろ? 今日は代休じゃ?」

 「何、言ってんの?」

 「何って、それはこっ――」 

 そこまで言って、【少年】は言葉を呑んだ。目の前にいる、【少年】のよく知る【妹】は……

 ――【少年】のよく知る、【少女】の容姿をしていた…

 目の前の女の子が、ホントにどうしたの お兄ちゃん?と心底不思議そうに呟く様は、美しく、可愛く、愛らしく、それでいて【少年】には、薄気味悪く見えた。――

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