第359話 焦げる猫

「グレイさん、目薬めぐすりすから、おめめを開けててミャ」


『え? 目を開けていないといけないのか? なんだか怖いぞ』


目薬めぐすりしたら、おめめをパチパチして、なじませてミャ」


『……あ、ああ、分かった。怖いけど、我慢がまんする』


目薬めぐすりしたら、すぐかゆみがおさまるからミャ」


 おびえるグレイさんにやさしく言い聞かせながら、グレイさんの目にアロエの葉の汁をした。


 アロエの葉の汁には、かゆみの原因のヒスタミンをおさえる効果こうかがある。


 アロエのこうヒスタミン作用さようは、ってすぐ効果こうかあらわれる。


 殺菌作用さっきんさよう抗炎症作用こうえんしょうさようもあるから、傷薬きずぐすりとしてとっても優秀ゆうしゅうなんだ。


 火傷やけどにも、アロエの汁をれば、すぐにヒリヒリした痛みが引く。


 火を使えるようになってから、火傷やけどうようになっちゃって、アロエには大変お世話せわになっている。


 火を使う時は、防火対策ぼうかたいさくとして、出来るだけ河原かわらでやるようにしている。


 猫のヒゲは精密せいみつなセンサーの役割やくわりをしているんだけど、実は熱を感じることが出来ない。


 気が付いたら、ヒゲがチリチリになっていた、なんてことがある。


 それに猫は、全身をあつい毛でおおわれていているから、はだで熱を感じにくい。


 いつの間にか、毛がげて茶色くなっていたこともあった。


 どんなに気を付けていても、火の側にいれば火のうし、毛はげる。


 げてチリチリになった毛やヒゲは切らずに、わるまで待つしかない。


 焚火たきびの側にいると、熱中症ねっちゅうしょう脱水症状しょうじょうにもなりやすいから、水分補給すいぶんほきゅうかせない。


 火を使う時は、水が入った葉っぱのお皿を近くに置いて、水をかぶって毛をらしたり、いっぱい水を飲むように心掛こころがけている。




 あれからグレイさんには、毎日、イチョウとイヌハッカのブレンドハーブティーを飲ませて、アロエの目薬めぐすりしている。


 それでも、くしゃみと鼻水と鼻詰はなづまりは、おさまらないみたい。


 なんとかしてあげたいけど、花粉かふん時季じきが終わるまで、花粉症かふんしょうは治らない。


 とても苦しそうで、可哀想かわいそうで仕方がない。


 せめて、ブラッシングをして、毛に付いた花粉かふんを落としてあげよう。


 花粉かふんを落とせば、少しはマシになるかもしれない。


「グレイさん、毛づくろいしてあげるミャ」


『おおっ、本当か? ありがとう』


 グレイさんはうれしそうに、地面に寝転ねころがる。


 ぼくは松の葉でブラシを作り、グレイさんをブラッシングする。


 換毛期かんもうきだから、毛がごっそり抜けた。


 花粉症かふんしょう換毛期かんもうきは春と秋で、ちょうどかさなる。


 春の花粉症かふんしょう時季じきにも、ブラッシングしてあげたっけ。


 夏毛なつげから冬毛ふゆげわっているということは、そろそろ秋の終わりが近付いている。


 濃い緑色の葉を付けていた森の木々も、少しずつ黄緑色きみどりいろへ変わりつつある。


 急がなければ、もうすぐ冬がやって来る。


 ぼくたちは、少し急ぎ足でイチモツの集落しゅうらくへ向かった。

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