ねこねこ仔猫なお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話 第２部

第353話 秋の訪れ

　走る練習（リハビリ）をすること、１週間。

　ようやく、走り回ったり、跳（は）ねたり出来るようになった。

　これでやっと、イチモツの集落（しゅうらく）へ帰れる。

　これなら、冬を迎（むか）える前に集落（しゅうらく）に辿（たど）り着（つ）けそうだ。

　マダニ感染症（かんせんしょう）に罹（かか）ったせいで、ずいぶんと遅くなってしまった。

　寝込（ねこ）まなければ、他の集落（しゅうらく）もいくつか回る余裕（よゆう）があったはずなのに……悔（くや）しい。

　ここで何日、足止（あしど）めさせられたか分からないけれど。

　秋が深まってきていることは、周囲の変化でなんとなく分かる。

　お日様が早く沈むようになって、暗くなるのが早くなった。

　暑（あつ）さが和（やわ）らぎ、朝晩（あさばん）が肌寒（はだざむ）くなってきた。

　入道雲（にゅうどうぐも）は見られなくなり、すじ雲（ぐも）や羊雲（ひつじぐも）が見られるようになった。

　いつの間にか、蝉（せみ）の声が聞こえなくなっていた。

　夜になると、鈴虫（すずむし）の合唱（がっしょう）が聞こえるようになった。

　秋に咲く花が、あちらこちらで見られるようになった。

　空や風、虫や植物たちが、ぼくに秋の訪（おとず）れを教えてくれる。

　もうすっかり秋だなぁ。

　秋といえば、食欲の秋。

　秋は、美味（おい）しいものがたくさんある。

　猫は肉食動物だから、食べられるものと食べられないものがある。

　秋といえば、栗だよね。

　栗は、犬も猫も食べられるんだよ。

　火が使えるようになったから、今まで食べられなかった焼き栗が食べられる。

　人間だった頃、秋になるとおばあちゃんがおやつに栗をよく買ってくれた。

　焼く前に、皮に切れ込みを入れておくと、弾（はじ）けないんだって。

　焚火（たきび）には、毬栗（トゲトゲ）ごと火に放り込んで丸焼きにすると、毬栗（トゲトゲ）が燃料になって良い感じに焼けるらしいよ。

　栗を食べると、どんな効果があるの？　

　教えて、『走査（そうさ）』

『対象（たいしょう）：ブナ科クリ属クリ』

『薬効（やっこう）：疲労回復（ひろうかいふく）、皮膚（ひふ）や粘膜（ねんまく）の維持（いじ）、解毒作用（げどくさよう）、免疫機能（めんえききのう）の促進（そくしん）、高血圧予防（こうけつあつよぼう）、便秘（べんぴ）、心臓や筋肉の働きを調整（ちょうせい）する、代謝（たいしゃ）を上げる』

『注意事項（ちゅういじこう）：カロリーが高い為、食べ過ぎると肥満（ひまん）や尿路結石（にょうろけっせき）になる可能性（かのうせい）がある』

　なるほど、栗も薬効成分（やっこうせいぶん）があるのか。

　美味（おい）しくて体に良いなら、一石二鳥（いっせきにちょう）。

　栗は、食べ頃になると自然に落ちてくる。

　木に成（な）っている栗は、食べ頃じゃないから、まだ食べられない。

　さっそく、落ちている栗はないかと探してみたんだけど。

　栗は、どこにも落ちていなかった。

　栗の時季（じき）には、まだ少し早いみたい……残念。