第297話 猫は魚が好きという誤解

 アマゴ(体長約30cmのサケの仲間)を、雨水あまみず綺麗きれいに洗った後、くしして焼いていく。


 魚の焼ける良いにおいが、巣穴すあなに広がった。


 気象病きしょうびょうでぐったりしていたお父さんとお母さんが、くんくんと鼻を動かして目をました。


「ニャニャー? いだことがない、美味おいしそうなにおいがするニャー」


「とっても良いにおいニャ、早く食べたいニャ」


『焼いた魚を食べるのは、初めてだ。シロちゃんが作ったものは、みんな美味おいしいから、楽しみだ』


 3匹とも待ちきれない様子で、よだれらしている。


 ぼくだって、猫になって初めての魚だから、楽しみで仕方ないんだよね。


 本来、猫は肉食で魚を食べない。


 猫は人間からあたえられないと、魚を食べることはない。


 漁村ぎょそんの近くにんでいる猫は、人間がった魚を食べる習慣しゅうかんがある。


 実は、「猫は魚が好き」というイメージがあるのは、日本だけ。


 日本は昔、肉を食べる文化がなく、おもに魚を食べていた。


 もちろん、猫にも魚をあたえていた。


 だから日本だけ、「猫は魚が好き」と勘違かんちがいしちゃったんだ。 




 アニサキス食中毒しょくちゅうどくやチアミン欠乏症けつぼうしょうふせため、アマゴを念入ねんいりに焼く。


 生焼なまやけの魚を食べて、病気になっちゃったら大変だからね。


 しっかり火を通そうとしたら、ちょっぴりげちゃった。

 

 でも、生焼なまやけよりはいいよね。


 皮にはコラーゲンがふくまれているから、食べた方が良い。


 だけど、真っ黒にげちゃった皮は、食べちゃダメだよ。


 焼けたら、くしから外して、さわれる温度になるまでます。


 お父さんとお母さんとグレイさんは、「まだかまだか」と、待ちかねている。


 早く食べたい気持ちは分かるけど、みんな猫舌ねこじただから食べられないよ。


 みんな、「待て」だよ。


 さわれる温度になったところで、みんなに魚を差し出した。


「みんな、そろそろ食べて大丈夫ミャ」


「待ってたニャー!」


「いただきますニャ」


『肉とは全然違う味がして、これはこれでとっても美味おいしいぞっ!』 


 みんな、大喜おおよろこびでガツガツと食べている。

 

 さっそく、ぼくも食べてみよう。


 魚の肉はあぶらが少なくさっぱりしていて、ほっくりほろほろとやわらかく、くせもなくて食べやすい。


 肉とは違う、魚特有さかなとくゆう美味おいしさが口いっぱいに広がる。


 人間の頃に食べたことがある、さけの味に似ている気がする。


 猫になって初めて食べる魚は、とっても美味おいしかった。


 お父さんとお母さんとグレイさんも、満足まんぞくげに口元くちもとめている。


 みんな、美味おいしかったみたいで良かった。


 食べられないアマゴの骨は、焚火たきび燃料ねんりょうにした。

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