第283話 美味しいものはすぐなくなる

 お日様が沈んで暗くなり、集落しゅうらくの猫たちが寝静ねしずまった頃。


 ぼくは焼きキノコをかかえて、こっそりと集落しゅうらくを出た。


走査そうさ』に案内してもらって、グレイさんへとけてって行く。


「グレイさん、見張みはり、お疲れ様ミャ」


『おおっ、シロちゃん、会いたかったぞ!』


 声を掛けると、グレイさんはうれしそうに笑って、しっぽをブンブン振り出した。


 ぼくがかかえている焼きキノコを見て、不思議そうに首をかしげる。


『それはなんだ? それに今日は何やら、いつもとちがって変わったことをしていたな。あれは、何をしていたんだ?』


「焼きキノコを作っていたんだミャ。グレイさんにも、お土産みやげミャ」


 焼きキノコを差し出すと、グレイさんは初めて見る食べ物だからか、様子をうかがうように、しばらくにおいをいでいた。


『これは、焼きキノコというのか。美味おいしそうなにおいがするな。さっそく、いただこう』


 パクリと口に入れて、もぐもぐとんだ後、パッと笑顔を浮かべる。


美味うまい! こんなに美味うまいものは、初めて食べたぞっ! きっと、シロちゃんがオレの為に愛を込めて作ってくれたから、美味うまいのだな』


 グレイさんも、焼きキノコを美味おいしく食べてくれて良かった。


 グレイさんは、ぼくが持って来た焼きキノコを、あっという間に食べ切った。


 焼きキノコがなくなったのを見て、グレイさんはしょぼんとする。


『ああ、もうなくなってしまった……。何故なぜ美味おいしいものは、すぐなくなってしまうのだろう? 余計よけいに、腹が減ってしまったぞ』


 ぼくよりも3倍以上も体が大きなグレイさんには、全然足りなかったようだ。


 しょんぼりするグレイさんに、ぼくは笑い掛ける。


「じゃあ、一緒に狩りをして、美味おいしいお肉を食べようミャ」


『そうだな。集落しゅうらくの猫たちに、お土産みやげはいるか?』


集落しゅうらくの猫たちは、おなかをゴロゴロ壊しているピーちゃんだから、今はお肉を食べられないミャ」


『ここの猫たちも、おなかをゴロゴロ壊しているピーちゃんなのか……可哀想かわいそうにな』


 グレイさんは、集落しゅうらくの猫たちを悲しそうな目で見た後、ぼくに笑顔を向ける。


『では、狩りをしよう。シロちゃん、何が食べたい?』


「すぐ狩れるものが良いミャ」


『だったら、近くに鳥がいるから、ソイツを狩ろう』


 グレイさんはそう言って、スキップするような軽い足取あしどりで走り出した。


 ぼくも、グレイさんの後ろをついて走りながら、思い付く。


 そうだ! 火を使えるようになったから、焼き鳥が作れるじゃないかっ!


 猫に生まれ変わってから生肉を食べられるようになったけど、焼き鳥も食べてみたい。


 近くにいる鳥が、Gastornisガストルニス(体長2m、体重500kgの飛べない鳥)みたいな大きな鳥だったら、ふたりじゃ食べきれない。


 残った鳥肉を焼き鳥にして、お父さんとお母さんへのお土産にしよう。


 火を通せば、おなかをゴロゴロ壊しているピーちゃんの猫たちも少しは食べられるかもしれない。



 ――――――――――――――――


おなかをゴロゴロ壊しているピーちゃんの時の食事とは?】


 ピーちゃんの時は、胃腸いちょうが弱っているので、何も食べない方が良い。


 ピーちゃんの症状がおさまってきたら、消化の良いものを食べる。


 すりおろしたりんご、おかゆ、柔らかく煮たうどん、あったかい豆腐とうふ半熟卵はんじゅくたまご脂肪分しぼうぶんが少ない白身魚しろみざかなとりのささみなどが、おすすめ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る