第281話 初めて火を起こした猫

 せっかく、いた小さな火種ひだねを消さないように、枯草かれくさを追加して、ふーっふーっと息を吹き込む。


 枯草かれくさに燃えうつって、少しずつ火が大きくなってきたところで、上に枯枝かれえだで漢字の「井」を作って、何段も重ねていく。


 枯草かれくさから枯枝かれえだに火が燃え広がって、焚火たきびが出来た。


 火を起こすまで、かなり時間がかったし、思ったよりもずっと難しくて大変だった。


 でも、頑張がんばってやれば、出来るもんだね。


 好奇心旺盛こうきしんおうせい集落しゅうらくの猫たちが、「なんニャなんニャ?」と、不思議そうな顔で集まって来た。


 アグチ先生が興味津々きょうみしんしんの顔で、ぼくに声を掛けてくる。


仔猫こねこちゃん、これはなんにゃ~?」


「ミャ?」


 アグチ先生は、火を見たことがありませんか?


 この焚火たきびがあれば、寒い日もあったかく過ごせますよ。


 それに夏まで待たなくても、これでキノコをジュージュー出来ますよ。


「にゃんとっ? 確かに、近付くととっても熱いにゃ~。これで、キノコがジュージュー出来るのにゃ~? だったらさっそく、キノコを持って来るにゃ~」 


 アグチ先生はそう言うと、どこかへ向かって歩いて行った。


 ぼくも一緒に、キノコをりについて行きたかったけど。


 火のばんをしなきゃいけないから、焚火たきびからはなれられなかった。


 今日は風が冷たくて肌寒はだざむいから、あったかさを求めて猫たちが焚火たきびの周りに集まってきた。


 猫が火を恐れないというのは、本当らしい。


 猫たちは、焚火たきびから適度てきど距離きょりたもって、火に当たっている。


「なんだか分かんないけど、この周りがあったかいにゃー」


「これ、なんニャ?」


 どの猫も、火が何か分かっていないようだ。


 みんな、火を見たことがないからだ。


 火を使う動物は、人間だけだからな。


 と言っても、人間だって最初から火を使えた訳じゃない。


 火山かざん噴火ふんかや、落雷らくらいによる山火事やまかじが、人類が一番最初に見た火だった。


 火を発見した人類は、火を使うことをおぼえた。


 火が使いこなせるようになると、初めて「料理」をするようになる。


 今まで食べられなかったものが、焼くことで食べられるようになった。


 その代表となる物が、キノコや木の実や動物の肉。


 火を使えば、夜も行動出来るようになり、冬の寒さをしのぐことが出来た。


 しかし、使うことは出来ても、火の起こし方は誰も知らなかった。


 長い年月をけて、ようやく、火の起こし方を発見したと言われている。


 火を使えるようになってから、人類は大きく進化していった。


 もしかしたらぼくは、初めて火を起こした猫になったのかもしれない。




 しばらくすると、アグチ先生がニコニコ笑いながら、たくさんのキノコを抱えて戻って来た。


「さぁ、みんな、キノコをジュージューして食べるにゃ~」


 やったー! これで焼きキノコが食べられるぞっ!


 どんな味がするのか、とっても楽しみだなっ!

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