第261話 猫は美味しい匂いがする

 体のあちこちが痛くて、その痛みで目が覚めた。


 ずいぶん長い時間、ねむっていたような気がする。


 なんだか体が重くて、目を開ける気力きりょくすら起きない。


 寝ぼけているのか、頭がぼんやりとしている。


 何かを考えることも、面倒臭めんどうくさい。


 猫団子ねこだんごをしているみたいに、猫毛ねこげがふわふわとやわらかく、とてもあったかい。


 猫毛ねこげに顔をめて吸うと、焼き立てパンみたいなにおいがした。


 猫は、どこをいでも良いにおいがするよね。


 猫のおでこは、メイプルシロップやバターみたいなにおい。


 おなかは、お日様のにおい。


 肉球は、ポップコーンや焼き菓子みたいなこうばしいにおい。


 お尻は、大自然だいしぜんにおい。


 良く日向ぼっこをするから、お日様のにおいは分かるんだけど。


 なんで猫は、美味しそうなにおいがするんだろう?


 猫は、不思議だ。


 うつらうつらしていても、耳だけは聞こえていた。


 でも、「ニャーニャー」と、猫の鳴き声が聞こえるだけで、しゃべっている内容までは分からない。


 やっぱり、猫の鳴き声は可愛いなぁ。


 そんなことを考えているうちに、またねむってしまった。



 再び目覚めざめると、体の痛みがかなり軽くなっていた。


 猫は、自然治癒力しぜんちゆりょくが高い。


 たっぷり寝たから、回復したんだ。


 やっぱり、ケガや病気の時は安静第一良く寝るだね。


 だけど、いったいどれだけ長い時間寝ていたのかな?


 ゆっくりと目を開けると、すぐそばにハチワレミケネコがいた。


「ニャニャ? やっと起きたナォン」


「……ッ……」 


 何かしゃべろうと口を開けたけど、声が出なかった。


 口の中がカラカラで、舌もかわいて痛い。


 ずっと寝ていたから、とてものどかわいていた。


 とにかく、水が飲みたい。


 でも、同じあやまちはり返さないぞ。


 どんなにのどかわいていても、ばっちい水は飲んじゃダメ。


 ウィルスに汚染おせんされた水を飲んで、1回死んでいるからね。


「川の水が飲みたいから、川へ連れて行って欲しい」と、言いたかった。


 だけど、しゃべろうとしたら、口とのどが痛くて、はげしくき込んでしまった。


「大丈夫にゃお? ほら、川から綺麗きれいなお水をんできたから、飲みなさいにゃお」


 やさしい言葉を掛けられて、葉っぱのお皿を差し出された。


 お皿には、透明とうめい綺麗きれいな水が入っていたから、よろこんで飲んだ。


 水って、こんなに美味おいしかったっけって、思うくらい美味おいしかった。


 お皿に顔を突っ込むいきおいで、水を飲むぼくを見て、誰かが笑う。


「にゃはははっ、足りなかったらまたんでくるから、落ち着いて飲みなさいにゃお」


「誰だろう」と思って顔を上げると、水色と黄色の目を持つネコが、ぼくを見下みおろしていた。

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