第253話 全ての猫から嫌われる草

 ノアザミの集落しゅうらくを後にして、しばらく行くと、進めなくなった。


 ドクダミの群生地ぐんせいち(いっぱいえている場所)が広がっていたからだ。


 ドクダミは、葉っぱが♡型で、花も特徴的とくちょうてきだから、すぐ分かる。


 ドクダミは、薬草としては、ヨモギに並ぶ優秀ゆうしゅう万能薬ばんのうやくなんだけど。


 とにかく、めちゃくちゃくさい。


 例えるなら、生魚とパクチーを混ぜたような、ムッとする生臭なまぐささ。


 近付いただけで、においが鼻をく。


 猫除ねこよけに使われるくらい、猫はドクダミのにおいが苦手。


 もちろんぼくも、このにおいが大嫌だいきらい。


 1回だけ、薬として使ったことがあるんだけど、くさくて大変だった。 


 洗っても洗っても、しばらくにおいが落ちなかった。


 においのせいで、猫が1匹も近付かなくなった悲しい経験がある。


 あれ以来、絶対にドクダミにはさわらないと、心にちかった。


 今後、ドクダミじゃなきゃ治らない病気と出会わない限り、使うことはないだろう。


 お父さんとお母さんも、ドクダミの群生地ぐんせいちに、顔をしかめている。


「シロちゃん、ここを通って行くのニャー?」


「ごめんなさいニャ。とってもくさいから、ここは通りたくないニャ」


「ミャ」


 ぼくも、このにおいは苦手だから、遠回りして行こう。


「それが良いニャー」


「良かったニャ」


 お父さんとお母さんは、ホッとした顔で笑った。


 グレイさんは、不思議そうに首をかしげている。


『シロちゃん、急に立ち止まって、どうしたんだ?』


「グレイさんは、くさくないのミャ?」


『確かにくさいが、そんなに気になるほどか?』


 グレイさんは、ドクダミのにおいが平気なようだ。


 トマークトゥスは、ぼくたち猫とはにおいの感じ方が違うのかな?


 イヌハッカの匂いも、猫以外の動物は全然効果ないもんね。


 何も知らないグレイさんが、ドクダミをもうとしていたので、あわてて止める。


「グレイさん、その草は絶対にんじゃダメミャッ!」


『なんでだ? シロちゃんにとって、そんなに大事な草なのか?』


「その草をんだら、ぼく、グレイさんのこときらいになるミャッ!」


 この言葉は、グレイさんにとって、かなりショックだったようだ。


 グレイさんは、物凄ものすごく驚いた顔をして、素早すばやく足をひっこめた。


『シロちゃんが、このオレを、き、きらいになるっ? そんなことが……』


「ぼくだけじゃないミャ、全ての猫からきらわれる草ミャ」


『全ての猫からきらわれる草っ? そんな恐ろしい草が、こんなに身近みぢかに、しかもこんなにたくさんあるのかっ!』


「猫にきらわれたくなかったら、この草にはさわっちゃダメミャ」


『ああ、分かった! 絶対、さわらないっ! 猫にきらわれたくない! シロちゃんにきらわれたら、オレは生きていけないからなっ!』


 グレイさんは恐怖にブルブルふるえながら、何度も大きくうなづいた。


 ―――――――――――


蕺草どくだみとは?】

 

 第1部第60話に出てきたけど、軽くおさらい。


 5~8月頃に白い花を咲かせる、日本三大民間薬にほんさんだいみんかんやくのひとつ。


魚腥草ぎょせいそう(魚がくさったみたいなにおいがするくさくさ)」という有名な漢方薬かんぽうやく


 猫が大嫌だいきらいなにおいなので、猫除ねこよけになる。


 犬は、あまり気にならないにおいらしい。 


 犬も猫も、「こうカリウム血症けっしょう」や「腸閉塞ちょうへいそく」などになる可能性があるから、絶対に食べちゃダメ。


 重度じゅうどの「こうカリウム血症けっしょう」や「腸閉塞ちょうへいそく」は、突然死とつぜんしする危険がある。 


 ちゃんと、犬猫用に加工かこうされた、栄養補助食品サプリメントなら安心安全。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る