第252話 グレイさんの天職

 ぼくたちはしばらくの間、ノアザミの集落しゅうらくとどまって、ゆっくりと疲れをいやすことにした。


 病気の猫たちの看病かんびょうをし続けたから、疲れちゃったんだよね。


 正確には、お父さんとお母さんは集落しゅうらくの中で。


 ぼくとグレイさんは集落しゅうらくの外で、休むことになった。


 グレイさんは、猫たちに見つからないように、集落しゅうらくからはなれた高いがけの上から、集落しゅうらくを見守っている。


 以前から、グレイさんには見張みはりばかりさせて、申し訳ないと思っていたんだけど。


『可愛い猫は、見飽みあきるということがない。ずっと猫たちをながめていられる見張みはりは、とても楽しい』


 グレイさんは集落しゅうらくを見下ろしながら、とても良い笑顔でそう言った。


 見張みはりは、グレイさんにとって天職てんしょく(自分の才能をかせる職業)だったようだ。


 それを聞いて安心したぼくは、グレイさんの足元で寝転ねころがる。


「ぼくは、ねむいからお昼寝するミャ。何かあったら、すぐ起こしてミャ」


『ああ、見張みはりはオレに任せてくれ。もちろん、シロちゃんも守る。だから、安心して寝てくれ』


「ありがとうミャ。それじゃ、おやすみなさいミャ」


『おやすみ、シロちゃん』


 グレイさんはせをして、前足でぼくを抱き寄せてくれた。


 ぼくはグレイさんに体をすり寄せて、体をあずける。


 モフモフのあったかい毛に包まれると、すぐにねむくなってくる。


 こうして、安心してねむれるのも、グレイさんのおかげだよね。


 グレイさんがいるだけで、天敵てんてきねらわれにくくなった。


 お父さんとお母さんと3匹で旅をしていた頃より、ずっと安全に旅が出来ている。


 何よりも、趣味が合う親友と一緒にいられることが、すごく楽しい。


 集落しゅうらくに立ち寄る度、「美人さんの猫がいた」とか、「ふてぶてしい顔をしたデブニャンがいた」とか、ふたりで話している。


 結局、「どの猫も、みんな可愛い」になるんだけどね。


 最近は、グレイさんが、「だけどやっぱり、一番可愛いのはオレのシロちゃんだけどな」と、言って締めくくるのが、お約束になっている。


 グレイさんに「可愛い可愛い」と言われるけど、自分の姿を見たことがない。


 かがみがあったら良いんだけど、そんなものはない。


 水たまりに自分の姿をうつしても、ハッキリとは分からない。


 正直、周りの猫たちが可愛ければ、自分の姿なんてどうでも良いんだけどね。


 そんなことを考えながら、目を閉じた。



 それから、数日後。


 ゆっくり休んで疲れが取れたぼくたちは、ノアザミの集落しゅうらくから旅立つことにした。


 集落しゅうらくの猫たちは笑顔で、「また来てニャー」と、大きく手を振ってお見送りをしてくれた。


 おさのシロクロは、泣きながら別れをしんでくれた。


「お医者さん、また近くを通られた時には、ぜひとも、お立ち寄り下さいナァ~。ワシらは、いつでも歓迎かんげいしますナァ~」


 この2週間ほどで、ぼくは優しいシロクロのことが好きになっていた。


 ぼくの方からシロクロの手をにぎり、「また来ます」と約束をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る