第120話 プレゼント購入




 いちおう、プレゼントの候補は決めていたのだ。


 ネックレスみたいなアクセサリーも考えたのだけど、自分のセンスが信じられないし、熱海に服を選んでもらっていたような俺が、彼女に似合うものをプレゼントできるとは到底思えなかった。


 次回のプレゼントの機会までに、勉強しておこうと思う。


 で、俺が考えたものは何かというと、プリザーブドフラワーである。


 ステーショナリー系にしようかな――とか、実用的で便利なものがいいのかな――とか、いろいろ考えたけれど、最終的にこれになった。ドライフラワーと悩んだけれど、プリザーブドフラワーのほうが長持ちらしいし、色合いも華やかだし。


 そしてなんとなく、俺は熱海に花を送りたかったのだ。


 プレゼントと言えば『花』だろう! という、まぁ固定観念に近いものがあったのかもしれないけれど、熱海がプレゼントを眺める姿を想像して、喜んでくれそうだなと思ったのだ。


「それにしても、お花とはやるねぇ有馬くん」


「――うっ、こういうのって変かな?」


「あははっ! 冗談冗談、きっと喜んでくれると思うよ! たぶん色々なお店で取り扱ってると思うから、全部見てみようよ! 私もいろいろ見たいし! せっかくだから喜んでもらいたいもんね!」


 いちおう、黒川的に俺のプレゼント案は大丈夫だったようだ。


 もし俺の案がまともじゃなかったとしても、黒川なら『有馬くんが考えたものだから、きっと嬉しいよ』みたいな感じで言ってくれそうだけど。


 だけど不安だから、なにかプラスアルファを付けてもいいかもなぁ……。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 プレゼント選びは、無事に終了した。


 黒川は宣言通り、熱海にリップクリームとハンドクリームを買っていた。色々な香りを必死に選んでいたけれど、内容自体はそのままで。


 それに対して俺は、ちょっとだけ変更があった。

 変更があったというか、俺がこういう商品に関して無知すぎたというか……。


 プリザーブドフラワーはプリザーブドフラワーなのだけど、クマのぬいぐるみが筒状のプラスチックに入ったプリザーブドフラワーを抱きしめている商品があったのだ。


 見つけた瞬間、『こいつだ!』とビビッと来たね。値段は五千円と他の商品に比べると少しお高めだったが、熱海へのプレゼントであることを考えると気にはならない。


 サイズとしても大きくはないし、邪魔にはならないだろう。彼女の部屋に置いているところを頭で想像してみたけど、変に目立つということもない。


 そんな風に自分に言い聞かせつつ、黒川と一緒に地元へ帰る。まだ時間は夕方の五時前だけど、晩御飯はそれぞれの家で食べる予定だし、これ以降に用事があるわけでもないので、駅を出てバス停に付いたらそこで解散だ。


「……有馬くん、本当に運動神経すごいよねぇ」


 駅の階段を下りながら、黒川がしみじみと言う。


 たぶん、ここで自分が落ちてしまっときのことを思い出しているのだろう。あれが俺と黒川の、ファーストコンタクトだったからな。


 そして、俺と熱海が七年ぶりに再開した場所でもあるわけだ。


「まぁ得意分野だからな」


 と、少し自慢げに言ってはみたが、骨はばっちり折れてしまったからなぁ。格好がつかない。


 階段を降り、駅を出たところで黒川が再度口を開く。


「道夏ちゃんと話したり、由布さんと話したりしてさ、色々考えがまとまったの」


 彼女は立ち止まって、こちらを見上げる。真面目な口調だけれど、表情は晴れやかなものだった。


「道夏ちゃんと、有馬くんが恋人になるのは、きっと運命だった。そして、私が有馬くんに恋をして、振られるのもまた、運命だった」


 なぜそんな悲しい言葉を、嬉しそうに言えるのか。


 黒川にとって、喜べることではないだろうに――そんなことを、傷つけた当事者が考えていると知れば、彼女は不満に思うかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。


 だけど、どうやらそう考えるのは早計だったらしい。


「――有馬くんに恋をして、振られたからこそ出会える人が、きっとこの先現れてくれると思うの。有馬くんに出会わなければ、一生顔を合わせることもなかった人が、この世界にはいると思うの」


 振り返れば、全て必要なことだった――そんなじいちゃんの言葉を思い出す。


 だけど、彼女は俺のように、全てが終わったあとに振り返っているのではない。先を見据えて、現状を運命だと言う。


 本当に、黒川は強い女子だ。そう思わざるをえない。


「――だからね、ありがとう有馬くん! 私と出会ってくれて! これからもずっと、道夏ちゃんと一緒に私の大切な友達でいてください」


「……そんなの、こちらこそだよ。知っての通り、俺は友達が少ないんでね。由布や蓮を見ていたらわかると思うが、俺たちは狭く深い付き合いなんだ」


 自虐を交えながらそう言うと、彼女は口に手を当ててクスクスと笑う。

 可愛いな――とは思うけれど、そこに恋愛の感情はもう湧いてこなかった。


「有馬くん、男子より女子の友達のほうが多くなっちゃったね! ひゅーひゅーっ! モテる男はつらいね!」


「すげぇツッコミづらいんですけど……」


 モテないよ! と言いたいところだったが、実際、学年トップクラスの美少女二人と三角関係でこうなってしまったのだし……否定もしづらい。


「えへへ~。ほら、アレだよ! なんとかの子をいじめたくなるって言うからさ! 有馬くんも我慢しなきゃ!」


「それこそツッコミづらいんですけど!」


 好きな子をいじめたくなるってやつだろ! というかそれって小学生までじゃない?


 ケラケラと楽しそうに笑う黒川を見ていると、なんだか俺も面白くなって二人で笑ってしまった。駅から出てくる人が二度見三度見ぐらいしていたけれど、それも気にせずに笑った。


 彼女なら、きっといい人に出会えるんだろうな――俺は目をぬぐいながら笑っている黒川を見て、そう思うのだった。





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