第97話 絶望へ向かう
~~まえがき~~
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします~(*´▽`*)
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「ここに来る前にね、道夏ちゃんにも声を掛けてみたんだけど、やっぱりまだ一人でゆっくりしたいんだって。本当に大丈夫かなぁ」
黒川はそう言って、不安げに眉を寄せる。
彼女にとって熱海は恋敵であるはずなのに、熱海を嫌うようなそぶりは一切見られない。まぁ俺と熱海の恋を応援したぐらいだし、本当に優しい子なんだろうな。
こんなに可愛くて、性格も良くて、俺と趣味も好みも一緒だという黒川のことを、どうして好きになれなかったのだろう――そんな風に思う。そうすればすべてが綺麗におさまっていたと思うのだけど、やはり俺はどうしても熱海のことが好きだった。
振られてもなお、好きなままだった。
あいつの根っこにある優しさが、気安さが、ドジなところが、俺のいじめられた過去を聞いても、まったく軽蔑しないでくれて、代わりに怒ってくれて――そして笑顔が可愛い。
「返事をしてくれる元気があるなら、まだ平気だとは思うけどね。少しは話をしたりした?」
「うん! でも、会話した内容は宿題の話だったり、恋愛以外のところだけど」
「そっかそっか。まぁしばらくはそういう話をして、気持ちを落ち着けてもいいかもね」
由布がそう言うと、黒川は『そうする! ありがとう由布さん!』と明るい笑みを浮かべていた。彼女もこういったことを相談する友人は熱海だけみたいだし、その熱海がこうなっている以上、由布の言葉はありがたいだろう。
俺もできればそういったフォローをさせてもらいたいが、できる立場じゃないからなぁ。
その後、俺たちはゲームをしたり、だらだらと話したり、恋の話は一旦わきにおいて、それを忘れるかのように日常を過ごした。
おかげさまで、俺と黒川は完全に元通り――とまではいかないけれど、告白のことを意識せずとも会話ができるレベルには戻れた。
先に『用事があるから』と帰った由布と蓮を二人で見送り、黒川と二人になる。
「ねぇ有馬くん、一度道夏ちゃんに声を掛けてみてもいい? 帰る前に、もし道夏ちゃんが大丈夫そうなら、会っておきたいから」
「それはもうご自由に。俺が許可を出すようなことじゃないだろう」
意味合いとしては、俺と話す時間を熱海と話す時間に変えてもいいか――ということだから、確認を取りたい気持ちもわかるけど、言い方が変わったとしても俺に拒否権はそもそもない。
黒川が『いま有馬くんの家にいるんだけど、そっちに行ってもいい? 行くのは私だけだよ!』というチャットを熱海に送信。律儀に画面を俺に見せてくれた。
「どうかなぁ、道夏ちゃん、会ってくれるかなぁ」
「会えたらいいな」
気休めの言葉をかける。
これで『有馬がいないなら』という返事がきたらそれはそれでショックではあるのだけど、まぁそれは当然のこと。とりあえず、いつもの熱海に戻ってほしいというのが俺今の願いだ。
――が、しかし。
「……ダメみたい」
黒川は眉を八の字に曲げて、俺にスマホを見せてくる。「別に見せなくてもいいんだぞ」と口にしながらも、俺は画面を確認した。
『ごめんね陽菜乃。あと三日ぐらいはひとりにさせて』
……ふむ。断られることは断られたけど、こう言ってくれると少し安心だな。少なくとも、三日後には話すことができるのだから。
その考えは黒川も同じだったようで、スマホの画面を眺めながら、少し安堵の表情を浮かべている。会えなくて残念だけど、終わりが見えて安心したって感じだろう。
黒川はそれから熱海に返信をして、スッと立ち上がって伸びをする。グググっと手を天井に向かって伸ばし、身体をそらす。胸に装着された兵器が俺に牙をむいていることを理解しているのかいないのか――俺は一瞬だけ目を吸い寄せられ、すぐに明後日の方向にそらした。
幸い、俺の視線の動きは彼女に悟られていなかったようで、
「ねぇ有馬くん、帰りにちょっと公園寄っていこうよ! 体を動かしたらさ、少しは気分転換になるかもしれないし」
少し暗くなってしまった場の空気を入れ替えるように、さわやかな声で彼女は言う。
「そ、そうだな……」
「うんうん! まだ五時過ぎだし、一時間ぐらい遊べるね!」
片付けて出発だー! と息巻いている黒川を見て、思わず顔が引きつってしまった。
何しろこのマンションの近くに、公園は一つしかない。
そしてその公園は、先日俺が熱海に告白して、玉砕した場所だからなぁ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「忘れ物なーし!」
リビングから出る際、指さし確認をして忘れ物チェックを終えた黒川が先導して、マンションの廊下に出た。
「でも本当に羨ましいなぁ……家が隣って。有馬くんと道夏ちゃんって、一緒に学校来るときここで待ち合わせするんでしょ?」
「まぁそんな感じだな。熱海が『家出る』ってチャットで教えてくれるから」
「いいなぁ……私も有馬くんと家の前から一緒に学校行きたかったよ」
「面白い話はできないけどな」
「それでもいいの! 好きだから!」
「ははは……黒川はほんとにグイグイくるなぁ」
そんな風に話をしながら、エレベーターにのり、公園へと向かう。
黒川には、公園で振られたことについて話していない。だから、本当に彼女の意図としては『気分転換』だけなのだろう。
もしかしたら、負の記憶として残ってしまいそうなこの場所が、黒川と遊んだという楽しい記憶で中和されたりするのだろうか。そんな、淡い期待を抱いた。
でも、期待は期待だった。
この公園は、さらなる絶望を生み出すきっかけとなるのだから。
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