第48話 お見舞い×4
翌朝。
起きた時間はいつも通りだったが、残念ながら風邪はまだ治っていないらしく、体温計は八度ちょうどを示していた。
母さんに熱の状況を伝え、担任への連絡を頼んだあと、熱海に『まだ治ってないから休む』という連絡をして、飲み物を飲んでから再びベッドに横になった。
母さんが今日休みだったということもあり、家での生活に不便することはなかった。食欲もあったし、気分もそこまで悪くない。少し頭が痛いのと、熱があるだけだ。
そして、夕方。
「「「「お邪魔します!」」」」
黒川さん、熱海、蓮、由布の四人が勢ぞろいで我が家を訪れた。
事情を知っている熱海を含め、全員から俺の体調を心配するチャットが届いていたが、俺はそのすべてに『もうほとんど治ってる』と返していた。実際、熱は七度三分まで下がってきているし、体調も普段と大差ない。
お見舞いに行っていい? というチャットが蓮から届いていたので、それに許可はしたけれど……まさか全員でくるとは。
「蓮くんも紬ちゃんも久しぶりね~。道夏ちゃんもいらっしゃい。そっちの子は初めましてかしら?」
母さんがそんな風に言葉をかけて、それぞれと挨拶を交わす。
母さんがいる状態でリビングに居座るわけにもいかないので、四人を俺の部屋へと案内した。俺の部屋は八畳あるから一人だと十分なスペースなのだが、五人入るとなるとさすがに窮屈に感じる。
全員ローテーブルを囲んで地べたに座り、俺だけがベッドに腰掛ける形で落ち着いた。
「大丈夫かい? 昨日から熱があったって聞いたよ? ――あ、そうそう、これ旅行のおみやげ。僕と紬から。日持ちするお菓子だから、体調が戻ってから食べるといいよ」
「みっちゃんとかヒナノンにも渡したから、遠慮なく受け取ってね~。お母さんにもあげるんだよ?」
「わかってるよ。ありがとな二人とも」
どうやら、彼らは旅行のついでにおみやげを買ってきてくれたらしい。蓮は俺に紙袋を見せたあと、勉強机の上にそれをポンとおいた。
「あっ、そういえばね有馬くん。今日学校で道夏ちゃん、先生に『体調悪いのか?』って聞かれてたんだよ~」
「ちょ、ちょっと陽菜乃!?」
黒川さんポワポワした雰囲気で言うと、熱海が黒川さんの肩をつかんで揺らす。黒川さんはヘラヘラとされるがままに揺らされていた。
熱海のやつ、もしかして体調が戻りきってなかったのか? と思ったが、熱海の反応を見るにそういう理由じゃない気がするんだよな。
「優介の席を何度も振り返っていたし、ため息も多かったよね」
「し、城崎までやめてよっ! そ、そういうのじゃないからね有馬! ただ、いつもの癖で振り返っちゃう自分に嫌気がさしただけだからっ!」
「あー……そういう感じか。俺も、熱海の席が空席だったら違和感がすごそうだ」
当たり前のようにあったものが突然なくなると、調子が狂うよな。
一か月という期間は、短いようで長い。俺と熱海の関わりは他の人よりも多いだろうから、なおさら奇妙な感覚になるのだろう。
「そういう陽菜乃だって、『有馬くんがいないとなんか寂しいね』って言ってたじゃない!」
「え? だってお友達が学校休んでたら寂しいよ~」
「ま、まぁ、それもそうね……」
どうやら、俺は女子二人の日常を壊してしまっていたらしい。
そういう立ち位置にいられるということは嬉しいが……なんだか気恥ずかしい。
これが男だったらどう思うのだろうかと、脳内で蓮に『寂しかったよ有馬~』と言わせてみることにした。美少女二人に言われたほうがやや嬉しいなと思ってしまった俺は、薄情な人間なのだろうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蓮と由布の二人は、黒川さんの門限に合わせて一緒に帰宅。
俺と熱海は玄関で彼らを見送った。
「今日はうちのお姉ちゃんも仕事休みだし、家で食べるわね」
パタリとライトノベルの本を閉じた熱海は、ベッドに肘をついて横になっている俺に向けてそう言った。どうやら、バトル漫画は熱海と相性が悪かったようなのだけど、我が家にあったラブコメは熱海の好みに合ったようだ。彼女は三十分ほど、集中して読書をしていた。
「まだそれ途中だろ? 家に持って行っていいぞ?」
テーブルをはさんで向こう側にいる熱海は、ぐっと背伸びをしてからあくびをしている。そして、ハッとした様子で口元を隠した。だからいまさらとりつくろわなくてもいいだろうに。俺としては、気を許してくれているようで嬉しいから。
熱海は体面をとりつくろうように咳払いをしてから、こちらを見る。
「借りなくていいわ。続きはまた有馬の家で読むから」
「……? まぁ熱海がそれでいいなら俺は構わないけど」
俺が了承の意を伝えると、彼女は満足そうに頷く。理由はわからないが、この本を持ち帰って読むつもりはないらしい。
面白くなかったのだろうか――とも思ったけど、彼女は以前漫画についての感想を求めたときに『あたしには合わない』と言っていたから、面白くなかったら正直に言うだろう。
家は隣だし、彼女は頻繁に我が家に訪れるから、借りるまでもないってことか。
読めなくなるとしたら、熱海が俺の家に来なくなるって時ぐらいだもんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます